~真・恋姫✝無双~ 孫呉の外史0-1
オリジナルキャラ設定
孫堅 文台・・・・・・雪蓮、蓮華の母で小蓮の養母
真名・・・・・・・・・・・香蓮(こうれん)
使用武器・・・・・・・クレイモア(大剣)の赤帝
一人称・・・・・・・・・〝あたし〟
備考・・・・・・・・・・・孫呉最強のお方で一刀を拾った張本人。現状は雪蓮に王座を譲っており、自分は御意見番に近い状態でいる。
表立って一刀にアプローチを仕掛けはしないが、隠れ一刀好きなのでさりげないところでアプローチをかける。勿論お酒好き
――ちゅんちゅんちゅん。
鳥の鳴き声・・・ああ、朝なのか。
まだ眠い・・・ちくしょう、課題で夜遅くまでかかったからな・・・はぁ。
正直、まだ寝ていたいけど・・・遅刻なんてしたら部活で正座させられる。主将の説教は堪えるからなあ・・・・仕方ない、起きるか。
「ん~・・・さて、と・・・・・・?」
青年がうーんと筋を伸ばして、そこで違和感に気付く。
「布団の柄・・・変えたっけか?」
疑問に思いながらも、とりあえず目覚ましを止めようと思った。
寝不足とはいえ、目覚ましが鳴る前に起きれたなら時間的余裕はある筈だが、アレの音は折角の気分を阻害する。
「あれ・・・目覚まし落としたか?・・・え・・・?」
枕元にないから、てっきりベットから落としてしまったのだろうと思って・・・そこで信じられない光景が目に入った。
「ここ・・・どこだ?」
自分がいる場所が、寮の部屋ではないのだ。
見回せば、更に信じられない。
――テレビ、パソコン、ゲーム機、電灯・・・それだけじゃない、自分が知る当たり前の物が一切ない。
「え?・・・は?・・・・・・!」
気になってあちこち弄ってみると、ポケットから携帯が出てきた。どうやら制服に入れっぱなしだったようだ。
「げ、バッテリーがもうヤバいな・・・ってそうじゃなくて・・・俺に一体何が起きたんだ?」
気分――は特に悪くはない。
記憶――ははっきりしている。度忘れの類はあるかもしれないけど、今のところ異常はなさそうだ。
他に変わった事は・・・・・・。
「俺が全く知らないところにいるってことだな。部屋の感じからして作りは中国っぽいけど・・・まさか現地なわけないだろうし・・・」
ブツブツと色々と考えていたら、ギィと扉が開く音が聞こえた。
――「お?目が覚めたか儒子」
部屋に入ってきたのは、吃驚するぐらいの美人だった。
「・・・・・・」
「おい」
「・・・・・・」
「おい!」
「!・・・はい!えっとなんでしょうか?」
大きな声を出されてようやく我に返った。対する相手はどうやら機嫌が悪そうだ。
自分が何か悪い事でもしたのだろうか。
「応えておいて、また考え事か・・・いい度胸だな」
「え、いや・・・そうしてそんなに機嫌が悪そうなのかなって思って」
それを聞いて、女性は呆れたように溜息を吐いた。何か、一気に気が削がれた感じだ。
「あたしはお前に〝目が覚めたか〟と聞いた。だがお前は一言も喋らずに呆けている・・・そんなのを目の当たりにしたら、機嫌も悪くなるだろう?」
確かに。どうやら自分は結構失礼な状態だったらしい。
「すいませんでした・・・ちょっと見惚れていたものですから」
「・・・よくも真顔でそんな事を言える・・・まぁいい。とりあえず名を名乗っておこうか・・・あたしは、姓は孫、名は堅、字は文台という。儒子、お前の名は?」
――は?孫堅?孫堅って三国志に出てくるあの孫堅?〝江東の虎〟の異名を持つあの孫堅?
「儒子・・・よくもあたしを相手に二度もその態度を取れるな?」
ここで青年はハッとする。さっきよりも怒気が声に籠ってる・・・これは拙いと直感で感じた。
――これ以上は命にかかわる。色々疑問はあるけど、それは後にでも聞けばいい。
そう結論付けた青年は、よしっと姿勢を正した。
「重ね重ねすいません。俺は北郷一刀っていいます」
「む・・・随分と変な名前だな」
「変って・・・そりゃうちの名字は確かに珍しい部類に入るけど・・・」
「随分と聞きなれない名だったのでな、まあ許せ・・・で姓が北で名が郷、字が一刀・・・でいいのか?」
真顔で聞いてくるあたりは、どうやらふざけているわけではないらしい。
「えっと、そうじゃなくて・・・姓が北郷で、名前が一刀・・・字ってのはないんだ」
「字がない?お前、一体どこの出身だ」
「東京の浅草だけど」
「初めて聞く地名だな・・・この大陸にそんな土地はなかった筈だが・・・」
やばい、なんか凄い事に巻き込まれている気がした。
目の前にいる孫堅と名乗る人もそうだが、部屋のつくりからなんやらといい加減こっちの疑問を なんとかしないとどんどん会話がずれていく。
「あのー・・・そんけん、さん・・・いくつか聞いてもいいでしょうか?」
「うん?ああ、構わんぞ。あたしもいい加減そっちの話を聞かないといけないと思っていたからな。だが、その気色悪い話し方を止めろ。お前の話を聞くのはそれからだ」
その言葉にほっと胸を撫で下ろした。質問を禁じられるような気もしたが、この人はどうやらいい人らしいと思ったのだが。
「儒子、失礼なことを考えなかったか?」
それには全力で首を横に振る一刀であった。
全力で首を振る一刀に孫堅は、はぁと溜息を吐く。
「まあいい・・・で?お前の聞きたいこととは何だ?」
「あ、あのーまず最初に、ここは・・・どこ?」
「ここか?ここは荊州にあるあたしの・・・ああ、正確に言うのなら我が娘、孫策の館だ」
「孫策って・・・孫策伯符?〝江東の小覇王〟の?」
「!・・・儒子、お前・・・何故馬鹿娘の字を知っている?さっきまでのお前の口振りだと何も知らなさそうだったが・・・・」
孫堅から一気に殺気が放たれる。そしてその手は、腰に下げてある大剣の柄を握っていた。
「待った待った待ったー!!」
「なんだ?妖の類とみなして殺してやろうかと思っただけだが、問題でもあったか?」
「あるに決まってんだろ!こっちだって訳がわからない状態なのにいきなり〝殺してやろうか〟だなんて問題あり過ぎだ!それ以前に、俺は人だっての!」
「・・・・・・」
とりあえずは納得したようで、孫堅は大剣の柄から手を放し、殺気を引っ込めた。
それからしばし逡巡した後、踵を返す。彼女が部屋から出る直前――。
「夜まで時間をやろう・・・それまでに考えをまとめておけ。だが、くれぐれもふざけてくれるな・・・もっとも、自分の命が関わっているのだからそんな余裕はないだろうが・・・・・・食事はここに置いてあるからな、しっかり食べておけ」
そう言い残して、孫堅は部屋を出ていった。
部屋に残った一刀はというと。
「はぁ~・・・本気になった爺ちゃんといい勝負だよ・・・さて、命が懸かっているのは本当っぽいし・・・とりあえず状況を整理しよう」
――目が覚めたら見知らぬ部屋にいた。
自分の目の前に現れた女性は孫堅と名乗った。でも、史実の孫堅は確か男だった筈だ。
それだけじゃない、孫策の事を〝我が娘〟と言ったことからも、孫策も女性であることが伺える。
「・・・パラレルワールドってやつかな?この分だと、他の三国志の武将も女性かもしれない」
――この事は、踏まえておこう。
さて、孫堅さんは至って真剣だった。腰に下げてあった大剣も飾りなんかじゃなさそうだ。
殺気も気迫も武器も本物。つまり殺すと言ったあの言葉も全部・・・本気・・・
「いかんいかんいかん!!こんなネガティブな事を考えたってしょうがないじゃないか!」
――ん?荊州・・・でもあの人は孫堅と名乗った・・・ってことはやっぱりパラレルワールドと考えた方がよさそうだ。
「単純に過去のパラレルワールドってわけじゃないみたいだな・・・俺が知ってる三国志・・・これでなんとかならないかな?・・・・うーん、あとひと押し何か欲しい・・・・!携帯なら・・・・よし、後は当たって砕けろだ」
そう意気込んだ一刀は、用意された食事を平らげた後、時間まで寝る事にするのだった。
そして夜。
「ん・・・すぅ・・・・・・」
「この儒子・・・本当に度胸がある」
「自分の命が懸かっておるというのに、呑気じゃのう・・・」
「あは♪でも寝顔、結構可愛いわよ♪ね、冥琳もそう思うでしょ?」
「はぁ・・・雪蓮、まだこ奴が人であるかどうかわからんのだぞ?不用意に近づくな」
「大丈夫よ。私の勘がそう言っているもの」
「生憎だが、軍師は勘だけで納得するわけにはいかないのだ」
(ん・・?何だか騒がしいな・・・もうちょっと・・・)
そこまで考えて、いきなりの大声で目が覚めてしまった。
「起きろ!」
「うわったった・・・って、あれ?」
「やれやれ・・・考えながら唸っていると思ったら寝ているとは・・・儒子、自分の立場をわかっているのか?」
「そりゃ・・・まぁ。でもさ、ある程度考えがまとまったら落ち着いちゃってさ・・・とりあえず食べて寝ておこうと・・・」
一刀がそう言うと、孫堅が声を上げて笑った。
「あははははははは!な、祭・・・言った通り面白い儒子だろう?」
「うむ、中々肝が据わっておる。これは中々良い拾い物じゃったかの」
「ん・・・いい眼をしてるわ・・・・綺麗な眼」
孫堅によく似た女性が一刀の眼を覗き込んでそういった。後ろの黒髪の女性は、険しい表情で一刀を睨んでいる。
(ああ、俺が得体のしれない奴だから警戒してるんだな。まぁ当然だよな・・・で、目の前にいるこの娘は・・・・俺より少し年上な感じかな・・・・ってことは)
「えっと・・・もしかして君が孫策?」
「「「!!!!」」」
一刀の言葉に孫堅はククッと笑い、残りの三人の表情が驚愕に染まった後、一気に険しくなる。
だが、対する一刀は落ち着いていた。自分の言った事が三人のリアクションんで証明されたからだ。
「孫堅さん、一先ず三人を落ち着かせてもらえるとありがたいんだけど・・・」
「・・・・ん?ああ、そうだな。祭、雪蓮、冥琳、このままじゃ話が進まんから落ち着け」
孫堅にそう言われて三人は殺気を解いた。警戒は解いてもらえないようだが、そちらは仕方ないと踏ん切りをつける。
話を始めようと思ったら、小さな疑問が頭をよぎったので、そちらを聞くことにした。
「孫堅さん、彼女が孫策さんでいいんだよね?」
「ああ、そうだが?」
「いまさっき、違う名前で呼んでなかった?」
一刀の疑問に今度は孫堅までもが驚きの表情になった。何か失礼な事を聞いてしまったのだろうかと聞こうとしたら、孫堅が口を開いた。
「その顔を見る限り、冗談ではないみたいだな。・・・あたしがさっき呼んだのは〝真名〟といってな。その者の本質を現す名の事を指す。真名は、その名をもつ者の生き様そのもの・・・それ故に、真名を許されない限り、真名を呼ぶ事は許されない。もし呼ぼうものなら、たとえ殺されたとしても文句は言えない・・・・・神聖なモノだ」
それを聞いて一気に背筋が寒くなる一刀だった。
(危なく呼ぶところだった・・・自分の勘を信じて良かったぁ・・・)
「ありがとう孫堅さん・・・それじゃあそれを踏まえた上で説明するね」
それから、一刀の説明が始まった。
四人は横槍をいれずに一刀の話を聞くのだった。
一刀の話が終わって、最初に口を開いたのは、眼鏡をかけた智的な女性だった。
「北郷だったか・・・先の絡繰以外で今のお前の話を信じる証拠はあるか?」
「冥琳、それならいい方法がある」
「香蓮様・・・その方法とは一体なんでしょうか?」
「まぁ任せておけ。儒子、お前はあたしたちの事を知っていると言っていたな?」
「ああ。俺のいた世界じゃ孫堅も孫策も男の武将だったから吃驚してる・・・こんな美人があの有名な武将だなんて。きっと他の二人も、男女の違いこそあれ俺は知ってると思う」
一刀の言葉に若干、孫堅と孫策の頬が紅潮した。
「儒子、お前・・・まぁいい。今からあたしがこの二人の性と名を教える・・・儒子は二人の字を見事言い当てて見せろ」
声に出さずに首肯した。
真剣な顔で見返す一刀に孫堅はフッと笑う。
「よし、雪蓮・・・儒子お前には孫策と呼んだ方がわかり易いな・・・。孫策の後ろで最初に質問をしてきたのが周瑜、あたしの横にいるのが黄蓋だ・・・さあ、お前が我らの事を知っているというのなら字は当然わかるな」
「わかった。じゃあ、まずは周瑜さんから。周瑜さんは〝周瑜公瑾〟孫策とは断金の契りを交わしている呉の軍師だ。で、次に黄蓋さんは〝黄蓋公覆〟孫堅さんに仕える宿将で弓の名手」
「当たってるな・・・では次だ。あたしにはこの馬鹿娘以外に後二人、娘がいるが・・・」
「孫権仲謀に孫・・・尚香だっけ?」
「話の途中だったが・・・まぁいい。さて、冥琳・・・今のでどうだ?」
「・・・・・・確かに、先程の〝携帯〟なるモノと照らし合わせても、未来を知っているという言葉の証明にはなりました。それに、この者・・・嘘偽りが下手なようです。駆け引きせずに自分の知識を晒していては・・・な」
「ほう、冥琳にも気にいられたようじゃの。策殿は・・今更聞き返すまでもないの」
「そうだな。・・・儒子、お前・・・ここに留まりあたしたちに力を貸せ」
藪から棒である。一刀が疑問の表情をしていたのだが、孫堅はさらに続ける。
「具体的には、お前には天の御遣いとしてお前の知識をな、ああ、それとな、我らに子を宿せ」
「は?いや、そもそも天の御遣いって・・・俺そんな大それた人間じゃない普通の人間なんだけど」
「それはお前の世界での話だろう?だが、この地ではそうはいかない・・・第一、お前のように得体の知れない者を民や兵たちに納得させるのに他に何か手段があるのか」
それを言われてしまうと何も言い返せない。この地で生きる方法も行く宛ても何一つなく、ましてや帰る方法すら検討がつかない以上、孫堅の提案を受け入れるのが一番だ。
「天の御遣いっていうのは納得するとして・・・子を宿せって・・・」
「決まっている。天の血を呉に取り入れる・・・わかるか?」
「ああ、そういうことか・・・尊敬とか畏怖とかを集めるにはもってこいの方法だもんな」
「察しがいい・・・ああ、一つ注意しておくがな、子を宿せとは言ったが・・・同意なしは認めんぞ。あたしにそんなことしてみろ、その場で屍に換えてやる」
大剣の柄に手を掛け、にっこりとほほ笑む孫堅。
ハッキリ言ってその笑顔が恐ろしいことこの上ない。
というか、他の三人もうんうんと頷かないでほしいです。
「わかってるって・・・流石に命は惜しいから」
「それでいい。では改めて名乗るとしよう・・・あたしは孫堅文台、真名は香蓮という。以後は真名で呼べ」
「いいの?」
「天の御遣いに真名を教えていないとあれば民達に不信を与える事になる・・・それにな、お前の事が少し気に入った」
ポンポンと肩を叩いて笑顔を見せる香蓮。と、その横から孫策が割り込んできた。
「あ、母様ズルーイ!私だってこの子気に入ったんだから。私は姓は孫、名は策、字は伯符よ真名は雪蓮っていうの。よろしくね、一刀♪」
両手を握ってぶんぶんと振りまわしてきた。握手のつもりだろうが、かなり力がこもっており、意外に痛い。
「儂は姓は黄、名は蓋、字は公覆、真名は祭という。よろしく頼むの」
片手での握手、雪蓮に比べて優しい。、年上ならではの優しさだろうかと思ったが、口にするのは流石に止める一刀だった。
「私は周瑜だ。字は公瑾。真名は冥琳という・・・北郷、お前が香蓮様が見込んだ通りの男であることを祈るぞ」
握手も態度も素っ気ない冥琳だったが、別に嫌われているようではなかったので、特に何も言わなかった。
さて、とそこで香蓮が再び話を切り出してきた。
「儒子、お前には聞きたい事がもう一つあるんだが」
「何?香蓮さん」
「・・・・・・お前に真名を呼ばれると何かむず痒いな。まあいいか・・・祭、アレは持ってきたか?」
「うむ、堅殿に言われた通り持ってきておる。少々待っておれ・・・」
どうやら〝アレ〟というものが部屋の外に立てかけてあるらしく祭は一度外に出た。
「ほれ北郷、お主を拾った郊外で、お主の傍らにあったものじゃ」
――「〝徒桜〟、どうしてコイツが・・・」
祭が一刀に差し出したのは、一刀にとっては非常に見覚えのある、一振りの刀だった。
――〝徒桜〟、あれは爺ちゃんが俺にくれた刀だ。
――『一刀、お前さんも・・・まあそこそこ腕を上げたようじゃな』
実家に帰ったある日、唐突に祖父にそう言われた。
いつもと変わりなくボコボコにされて終わりだったと思った一刀だったが、気になって聞いてみた。
――『なに、儂との打ち合いも、随分と長持ちするようになっておるからの・・・始めてすぐに気絶しておった頃が懐かしいわい・・・ま、それはそれとして、腕を上げたお前さんにやりたいものがあるんじゃが・・・ほしいか?』
特に深く考えずに一刀がほしいと答えたら、祖父は道場の奥に一度向かった。
――『受け取るがいい、銘は〝徒桜〟お前さんの刀じゃ』
驚きのあまりに声が出なかったのを今も覚えている。
声に出ず、唖然としていると祖父はさらに一刀にこう告げた。
――『じゃが、これを受け取ればお前さんは〝一人前〟・・・もう二度と、半人前の時のような甘えは許されぬ。今までのように手を抜いて怪我をさせぬように仕合う事もない。大怪我なぞ当たり前になる・・・〝一人前〟になるという事はそういう〝覚悟〟を常に持ち続けなければならん・・・・お前さんは、その〝覚悟〟を持つ事が出来るか?もし出来ぬなら・・・これを受け取ってはならん。一刀よ、お前さんが儂から学んだのは〝剣道〟ではなく〝剣術〟・・・実戦本意の〝人を殺す術〟じゃ・・・それは、剣道なぞよりもはるかに危険な〝力〟・・・刀をお前さんに授けるのは、それを自覚し・・・そして忘れさせないためでもある・・・じゃが、それを持つ事が出来ないというのであれば・・・もうお主と仕合う事はない・・・ただの孫と祖父の関係に戻ろうと思うておる』
あれは、俺にとって甘い毒だった。
正直言って、爺ちゃんの扱きは半端じゃないほどにキツイし逃げ出したかったときも何度もあった。
――でも、爺ちゃんと仕合うのは・・・楽しかった。
負けっぱなしで何度か打ち合うのが精いっぱいだったけど、終わった後に〝頑張ったのう〟と言って頭を撫でてもらうのが嬉しくて、実家に帰るたびに爺ちゃんに稽古をつけてもらった。
――『爺ちゃん、俺・・・受け取るよ。爺ちゃんが言う〝覚悟〟を背負って見せる。だからさ、俺を・・・〝一人前〟にしてくれ』
爺ちゃんは笑って・・・〝徒桜〟を俺に渡してくれた。
その後で流石に持って帰れないから爺ちゃんが預かっててと言ったら、爺ちゃんは『確かにのう!!』と言って豪快に笑った。
〝徒桜〟は一刀にとっての思い出の品であり、覚悟の確かな形で・・・。
――ここにある筈のない物だった。
「この刀は・・・俺が〝人を殺せる術〟を持っている事を忘れないための戒めの刀でもある。だけど、普段は持ち歩けないから・・・免許を持ってる爺ちゃんのいる実家に預けていた筈なんだ」
「その、〝ある筈がない〟代物が儒子の傍らにあった・・・か、珍妙な・・・だが、天がお前に〝これを持て〟と告げていると考えれば、それも分からなくもない・・・。さて、儒子・・・どうする?お前以外の誰の持ち物でもないからな・・・どうするかは儒子が決めろ。お前が持つのも良し、処分するも良し・・・全て儒子が決めろ」
香蓮の言葉に一刀は何も言わずに〝徒桜〟を手に取った。
「天が俺に・・・か。あんまりいい気はしないな・・・人を殺さなくちゃいけないってことだったら・・・」
そこで一刀は言葉を区切る。心なしか、表情は少し暗くなっていた。
「その、刀とやらをお前が持つことの意味は・・・一先ず後にしろ。儒子、すまんが気になる事がもう一つ出来た。お前は〝真名〟を知らなかったな?」
「ああ・・・そうだけど。俺のいた世界には・・・真名なんてなかったし・・・俺が知る限りでは真名があったなんて史実は・・・まぁ伝わってなかっただけかもしれないけど、ない。だから、香蓮さんたちの流儀に合わせるんだったら・・・〝一刀〟が真名にあたるの・・・かな」
「「「「!!!!」」」」
四人の顔が驚きに染まった。
それを見て、仕方がないと一刀は思った。
彼女たちからすれば、迂闊に教える事の出来ない神聖なものをあっさりと教えたのだから驚いてしまうのも無理はない。
「名前の事は気にしないでいいよ。文化の違いってことで納得してもらえないかな?」
一刀が苦笑しながらそう言うと、香蓮たちは一斉に溜め息を吐いた。
と、そこで新たな顔が部屋に入ってきた。
「雪蓮様~、冥琳様~・・・・てあらら、みなさんお揃いでどうしたんですか~」
のんびりとした何となく和む声の子だなと一刀は思った。
「穏、今朝話したでしょう」
そこで合点がいったのか、「ああ、そういえば~」とポンと手を叩いた。
「では、この人が御遣いさんなんですね。はじめまして、わたしは陸遜といいます。字は伯言・・・真名は穏といいますぅ」
「ああ、えっと俺は・・・北郷一刀。北郷でも一刀でも、呼びやすい方で呼んでください」
「でしたら一刀さんと呼ばせてもらいますね~。わたしのことは穏とよんでください」
「えっと、いいの?そんなにあっさりと教えちゃって・・・」
「一刀、安心していい。穏は確かにこんな物腰だが、人を見る目は確かだ。穏なりにお前を見て真名を預けていいと思った結果だろうさ。貰ってやれ」
香蓮が口を挟んで、穏はえへへ~と笑った。
そこで一刀はある事に気付く。
「香蓮さん。今、儒子じゃなくて一刀って・・・」
「ん?ああ、まぁ、な・・・お前は気にするなと言ったが、あたしなりのけじめさ。それより穏、何かあったのか?」
「ほえ?ああ、そうでした。雪蓮様、袁術さんからお呼び出しです」
穏の一声で場の空気が変わる。
この時一刀は、一抹の不安を感じていた。
――今までの自分にとって何か重大な事が起きる。
だが、まだ一刀はそれが何なのかを知らなかった。
~あとがき~
孫呉の外史、第二弾をお送りいたしました。
まず最初に、一刀がこの外史にやってきた時期ですが。原作よりも遅めで、黄巾党の件で美羽に呼び出される直前です。
そして、次のお話は黄巾党討伐になります。
香「いよいよ孫呉独立への第一歩を踏み出すわけか」
・・・本編抜け出してここに来るなんて・・・会議やら嫌いなんですか?
香「じっと座って話合いなど、性に合わん。ああいったのは冥琳達や一刀に任せておけばいい。ところで、原作に比べて話の流れがかなり急だな。拠点でのあたし達と一刀との交流は書かないのか?」
ああ、そのことですか・・・・ご安心を拠点での一刀との交流はちゃんと書きます。ただ、香蓮さんと一刀と絡みやすくするためには、私なりに考えた結果・・・この時期がいいと判断したんです。
拠点はその後で書きます。その順番に関しては、今は秘密ということで。
香「む、そうか・・・まあいい。その時を楽しみにするさ・・・では、次の話でも、あたし達と一刀の活躍を楽しみにしていてくれ」
次の話でもって・・・今回の話・・・活躍って言える事何かしましたっけ?それ以前に私の台詞を・・・。
香「細かいことをいちいち気にするな」
まぁいいですけど・・・。
それではまた次回で――。
Kanadeでした。
――ところで、これからも貴女はここに顔を出すんですか?
香「ん?ああ、勿論だ。ではまたな、再見!」
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シリーズ第二弾、今回は一刀中心です。
afterと違い、話の道がすでにある中でどう展開していくのかが難しいですが、全霊をもって頑張りますのでこれからもよろしくお願いします
それではどうぞ――。
あ、今回からあとがきの感じを変えてみることにしました。
そちらのほうもよろしくお願いします。
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