荀彧が曹操のところに仕官しに行くと言って、町を出て行った。今回は、前回の反省を生かして馬で行くとのことだ。
俺はというと、荀彧の家の侍女の人たちに、色々とからかわれながら、毎日字の勉強をしている。荀子の子孫の家に仕えているだけのことはあるのか、侍女さんたちはみんな勉強を教えるのがうまかった。ときどき、字の勉強だと言って恋文の書き方を習わされるのには、少し困ったけど。
「それじゃあ、北郷さん。お買いもの、お願いできますか?」
衣食住を提供してもらっている上に、ただ字を教えてもらうのはさすがに悪いと思って、何か手伝わせてくださいとお願いしたら、買い物などの軽い仕事をさせてもらえるようになった。その買い物も、字の勉強の一環として、何を買うのか書かれた葉っぱを渡されて、そこに書いてあるものを買ってくるという形式で行っている。この辺りが、とてもうまいなぁと思った。
「はい。わかりました」
そう言って俺は、いつものように町に出た。
「まいど!」
「えっと、次は……」
店主から商品を受け取った俺は、葉っぱに書かれている文字を必死に読みながら、町の中を歩いた。
「うーん。これなんだったっけなぁ」
書かれているものはほとんど買うことができていたけど、1つだけわからないものがあった。
「少なくとも、これは買ったことないから、この辺にはないのかも知れないな。っとなるとあっちかな?」
俺がよく買い物に来ていたのは、野菜やお肉などの食料品を売っている、青空市場みたいな所だ。ここにないとすると、飲食店や生活雑貨とかの店がある大通り沿いにあるに違いない。
そう思った俺は、青空市場を後にして大通りに向かった。
「もらったお金の残り具合からするに、あんまり高いものじゃなさそうだな。さて、どの店から当たろうか……」
本とかは高そうだから、おそらく違う。服のはずもない。となると、墨とかの文房具か籠とかの生活用品辺りが怪しいと思い。俺は雑貨屋に入った。
「えぇっと、この字の商品は……」
これも勉強の一環なので、店主に聞かずに自分で探していると、葉っぱに書かれているのと同じ文字を発見した。
「この字って、たわしのことだったのか」
葉っぱに書かれているのと同じ文字が書かれている箱に、無造作に入っているたわしを手にとって、俺は会計に向かった。
「よし。これで全部買えたぞ」
葉っぱに書いてあるものと、俺が買ったものを見比べて確認してから、俺は屋敷へと歩き出した。
「あれ?こんなところにも道あったんだ」
ふと横をみると、路地裏へと通じる細い道があった。
「……たまには、違う道を通って帰るか」
そう思った俺は、路地裏の方へと進んで行った。
「こういう分かりにくい場所には、隠れ家的なお店が……」
そんなことを考えながら路地裏を歩いていると、だんだんと人通りが少なくなってきた。
それだけでなく、道端に腰をおろしている人たちを多く見かけるようになった。そうした人たちは皆やせ細っていて目に生気がなく、うつろに地面を見ていた。
(もしかしてここって……貧民街?)
そう思うと、急に怖くなってきた。よく見れば、目にハエが止まっているのに、それを払おうとしない人までいる。
(あ、あれは死んでるんじゃ……)
――ゾクッ
そう認識した瞬間に、背筋に寒気が走った。もとの世界に居た時もホームレスはみたことあったけど、死んでる人間を見たのは初めてだった。
(か、帰らなきゃ!)
俺は来た道を走った。辺りに座り込んでいる人たちをみないように、ただ、来た道を戻ることだけを考えて、俺は走った。
「はぁはぁはぁ……」
大通りに戻ってきた俺は、息を整えようとしばらくその場所にじっとしていた。
しばらくして息が落ち着いた俺は、空を見上げた。
「帰るって、俺はどこに帰ろうとしたんだ……?」
(屋敷か?もといた世界か?)
そのどちらなのか。少し考えていたけど、頭を振ってその考えをやめた。
「ふぅ。考えても仕方ないか。とにかく、今の俺の家は、あの屋敷な訳だしな」
俺は屋敷に向かって歩き出した。
(こんな時に荀彧がいてくれれば、少しは気が楽になるのかもな)
そんなことがあってからしばらくして、俺は屋敷を離れることになった。
字の読み書きも、なんとか及第点をもらえたので、これからは荀彧が用意してくれていた家で、一人暮らしをしていくことになった。こっちの世界に来てからは、いつも近くに誰かいたけど、これからは家に帰っても誰も出迎えてくれない。そう思うと、なんだかすごく寂しいような気がした。
――コンコンッ
「北郷さん?いらっしゃいますか?」
そんなことを考えていたある日。扉が叩かれ、外からお屋敷の侍女さんの声が聞こえてきた。
「あ。はい!」
そう声を上げて扉を開けに行くと、買い物途中といった様子の侍女さんがいた。
「よかった。先ほど荀彧お嬢様からお手紙が届きまして、北郷さん宛てのものがあったので、お持ちしましたよ」
侍女さんはそう言って、にこやかに手紙を渡してくれた。
「まだ買い物の途中なので、私はこれで失礼します。……あ。荀彧お嬢様からのお手紙の内容。今度教えてくださいね?お屋敷の皆で、荀彧様から恋文へのお返事を考えますから!」
「たぶん。そんな内容じゃないと思いますよ?」
「うふふ。それじゃあ、北郷さんのほうから出す恋文の内容を、皆で考えます。それじゃあ、今度またお屋敷に来てくださいね」
侍女さんはそう言い残して、残りの買い物をしに行ったしまった。
「恋文……か。まぁ、そんなもの出しても、きっと荀彧は喜ばないだろうな」
すこし苦笑しながらそんなことを思った後、俺は受け取った手紙を眺めた。
「あいつ。結構可愛らしい字を書くんだな」
そんな些細なことがうれしくて、俺はしばらく、宛名に書かれた“北郷一刀様”という文字を見ていた。
『 北郷一刀様へ
字の読み書きがある程度できるようになったから、一人で暮らし始めた。という侍女からの手紙が届いたわ。これからは、何か思い出したことがあったり、周囲の状況に変化があった時なんかは、私に手紙で知らせないさい。
あと。聞いていると思うけど、私は曹操さまの軍師として働くことになったから。
荀文若 』
手紙の内容はこれだけだった。書かれている文字とかは、俺にも読めるように工夫してくれたか、読みやすい簡単な字で書かれていた。
「荀彧らしいといえば、らしいけど……」
(できれば、もう少しいろんなことを書いてほしかったな)
そう思いながら、俺は返事を書こうと書の用意をし始めた。
「さてと、まず始めは宛名だな。……荀彧様へっと」
宛名は、侍女さんたちからの教育のおかげか、書きなれていたので難なくかけた。
「なんて書けばいいんだろ」
あなたに会えなくて胸が張り裂けそうです。とか、あなたを思うと夜も眠れません。とかっていう恋文の文面なら、結構思い浮かぶ(と、いうより教え込まされている)けど、正直なんて書けばいいか思いつかなかった。
「近況……って言っても、侍女さんたちとの手紙で、その辺はわかってるだろうしなぁ」
俺が字を習っていた間も、侍女さんたち宛に荀彧からの手紙は来ていた。その手紙で、荀彧が曹操に仕え初め、自らの策で軍師になったということも知った。
それらに対する侍女さんたちからの返事で、俺についての近況報告はされているだろうし、重複して同じ内容を書いてもつまらないと思った。
「うーん。侍女さんたちに話してないことで、手紙に書けるような出来事……」
考えていると、貧民街に間違えて入ってしまった時のことを思い出した。
(あれは……あんまりいい思い出じゃないなぁ)
そう思いながらも、他に書くこともないのでそのことを書き始めた。
『 荀彧様へ
久しぶりです。曹操さんの軍師になれたということだけど、おめでとう。
俺の最近の出来事でも書こうかと思ったけど、侍女さんたちからの手紙で分かってると思った。だから、侍女さんに話していないことを書こうと思った。
この前、買い物に行った帰りに、いつもと違う道を通ろうと思った。それで、大通りから細い道に入って、しばらく歩いたら、いつの間にか貧しい人たちが住んでる所に入っていた。
道沿いには死んでいる人もいて、怖くなって、俺は元の大通りまで走った。
俺のいた世界でも、貧しい人たちを見たことはあるけど、あんな風に死んでる人は初めてみた。
このことを侍女さんたちに話さなかったのは、なんて言えばいいかわからなかった。けど、その時に、荀彧が近くに居てくれたらって思った。俺が何でも話せるのは、この世界では、荀彧だけだから。
自分が頼れる人が近くに居ないのは、すごくつらいことなんだと初めて知った。
軍師の仕事は大変だろうけど、体に気をつけて
北郷一刀より 』
自分の書いた文章を読み返してみると、だいぶおかしな文章のような気がした。けど、なんとか言いたいことは書けたように思えた。
「でも、本当に少し恋文みたいになっちゃったな」
あまり長い間一緒に居たわけじゃないけど、荀彧は男が嫌いみたいだったから、この手紙が届いたら気持ち悪いって言うかも知れない。けど、これが今の俺の気持ちだった。
何でも話せる人が近くに居ない。この世界に来る前だったら、いくら遠くに離れていたとしても、電話やメールですぐに連絡が取れるし、行こうと思えばすぐにその人のもとに行けた。
けど、この世界ではほんの少し離れたところに居る人に対しても、時間をかけないと連絡が取れないし、行こうとしてもその途中に多くの危険がある。
「恵まれてたんだなぁ……」
俺のいた世界のことを思い浮かべてから、俺は自分が手紙を読みなおした。
「これも、侍女さんたちの教育のせいなのかな」
改めて呼んで、恋文に見える手紙に少し苦笑しながら、俺はその手紙をしまった。
そうして書いた手紙を、侍女さんたちに頼んで(頼んだ時に、内容について色々聞かれたけど、恥ずかしかったから答えなかった)荀彧に送ってもらってからしばらくたった。
前の手紙がうまく書けなかったので、俺は暇があるときに(といっても、基本的に暇なのだけど)お屋敷に行って本を読むようになった。
初めから難しい本は無理だろうと思ったので、侍女さんたちお勧めの本(あの侍女さんたちのお勧めだけあって、中身は恋愛小説だった)を読み始めた。
小説と言っても、今の俺にはまだ少し難しかった。けど、なんとか時間をかけて読み進めて、いよいよクライマックスというところまで読んだ日に、荀彧からの手紙が届いた。
「はい。北郷さん宛てのお手紙ですよ」
そう言って渡された手紙には、前と同じ可愛らしい字で“北郷一刀様”と書かれていた。
「うふふ、北郷さん。荀彧お嬢様からのお手紙に、なんて書いてあるのか、見せてくださいよー」
にこにこしながらそうお願いしてきた侍女さんたちに、丁重にお断りの言葉を述べてから、俺は手紙を持って家に帰った。
『 北郷一刀様
最近、黄色い布を身に付けた賊が多く見かけられるようになったわ。これがあんたの言っていた黄巾の乱だとすれば、この反乱の後に、各地の群雄が割拠するようになっていく。あんたは確か、黄巾党の首領は張角だといっていたけど、そいつについてもっと詳しいことはわからないの?
もしわかることがあったら教えてちょうだい。
あと、この前の手紙の文章がめちゃくちゃだったから、添削したものを返すわ。ちゃんと勉強しなさい。
貧民街にはできるだけ近づかないように。
荀文若 』
予想はしていたけど、個人的なことに関する返事がほとんどないことには、少し傷ついた。
そうして傷ついている自分がいるということに気がついて、俺は思った。
(もしかして俺は、荀彧の事が、……好き、なのか?)
この世界に来て初めて会った人で、俺のいた世界の歴史では、“王佐の才”と称された人物。この世界では、可愛いくて頭がいいけど、男が嫌いな女の子。俺はほんの少しの間しか一緒に居なかったけど、でも、この世界で俺が何でもしゃべることができる唯一の人物。
(これは、なんて言うか、一目ぼれってやつなのか?それとも、吊り橋効果ってやつか?)
そんなことを考え始めた時、ふいに今読んでいる本の中の台詞を思い出した。
「“恋に落ちることに理由なんてない。ただ好きになった、それだけだ”か」
その台詞を自分で言い終えてから、なぜか俺は笑顔になっていた。
「やばいなぁ。これは完全に洗脳されてきてるかも」
そんなことを思いながら、俺は荀彧に返事を書くために、筆をとった。
『 荀彧様へ
この前の手紙では、汚い文章ですまなかった。あの後、本を読んだりしていて、一応勉強はしているんだ。荀彧に添削してもらった前の手紙も、勉強に使わせてもらうよ。
黄巾党の張角については、俺もよくわからない。どういった人物なのか、よくわかっていなかったんだ。役に立てなくてすまない。
さて、ここからは完全に私信なんだけど、どうやら俺は、君に恋をしてしまったようだ。
荀彧の事だから、気持悪がるとは思うけど、でも、俺は自分の気持ちに気がついてしまったから、そのことだけは伝えておくよ。
それじゃあ、体に気をつけて。
北郷一刀より 』
書き終えた手紙を読み返してから、その手紙をしまい。次の日に、荀家のお屋敷に持って行った。
「これ、よろしくお願いします」
そう言って侍女さんに手紙を渡してから、俺はいつものように、書庫に向かった。
「さて、今日中にあの本を読み終えるぞ」
―桂花視点―
「ありえない。ありえなさすぎる」
あいつから届いた手紙を前に私は頭を抱えていた。
「何なの?なんでいきなり、こんなことになったの?……あぁ、悪夢だわ」
あいつの中でどんな変化があったか知らないけど、いきなり告白をされた。
「なんで男なんかに好かれなきゃいけないのよ……」
(と、とにかく、あいつからの好意をへし折らなくては)
そう思った私は、手紙を書いた。
『 北郷一刀へ
私はあんたことなんか好きでも何でもないわ。
これからは、私が聞いたこと以外に答えることは禁止する。
わかったわね?これ以上変な手紙送ってくるんじゃないわよ。
荀文若 』
その手紙を送ってからしばらくして、秋蘭が私の部屋を訪ねてきた。
「私だ。桂花、いるか?」
「秋蘭?鍵は開いてるから入ってきていいわ」
私がそう言うと、秋蘭が部屋に入ってきた。
「どうしたのよ。何か用事?」
私がそう聞くと、秋蘭がスッと折りたたまれた紙を差し出してきた。私は嫌な予感を感じながらもそれを受け取った。
「な、何よこれは」
「この前、例の黄色い布をつけた賊を討伐しに行っただろう?その帰りにお前の故郷の辺りを通ってな。その時にお前の知り合いだという者から渡されたのだ」
その話を聞いて、嫌な予感はより大きくなった。私は恐る恐る“荀彧様へ”と書かれている、折りたたまれた紙を裏返してみた。
“北郷一刀より”
そこには確かにそう書かれていた。
「お前は男嫌いだと思っていたが、そうでもないようだな」
ただでさえ、嫌な予感が当たって気を落としているって言うのに、秋蘭がそんなことを言ってきた。
「ち、違うわよ!そんなんじゃないわよ!これはあいつが勝手に……」
「ほほぅ。あいつ、か」
そう少しにやけながら言う秋蘭に、私は顔を赤らめながら言った。
「と、とにかく。あなたが思っているような関係じゃないわ」
「ふむ。桂花は私が、どんな関係を想像していたと思っているのだ?」
「~っ!」
「ふふ。そんなに怒るな。お前にも可愛いところがあるのだなっと思っただけだ」
秋蘭はそういうと、部屋から出て行こうとした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あんた、こ、このことは華琳様には……」
「安心しろ。個人的なことを、お前の許可もなく華琳様に話たりはしないさ」
秋蘭はそう言ってから、部屋を出て行った。
「あぁ、ホントに最悪だわ……」
秋蘭が部屋を出て行ってから、北郷からの手紙を開くと、その中身は完全に恋文だった。
その初めの文には、“荀彧からの手紙に、返事に個人的なことは書いちゃ駄目だと書いてあったから、俺の方から手紙を出してみた。”などと書いてあった。
「どうしよう……」
頭を抱えたまま、私はしばらく考え、この手紙への返事は書かないことにした。
「きっと、そのうちあきらめるでしょ」
そう思い、私はその日の出来事を忘れることにした。
それからしばらくして、私たちは黄巾党の首領とされていた張角たちを捕まえることに成功した。
また、黄巾党との戦いの中が、楽進、李典、于禁と言った新たな武将が仲間になった。
華琳様に仕える有能な武将が増えることはいいことだ。私の策にも、それだけ幅を持たせることができる。
そうこうしているうちに、霊帝が崩御し、その後の混乱を経て、董卓が朝廷の実権を握った。黄巾党の時も少し驚いたけど、北郷の言っていたことがここまで正確に起きてくると、少し怖さすら覚える。けれどこの知識は、華琳様に天下を取っていただくために使えるのだと思うと、何とも心強く思えた。
北郷から聞いた知識通り、袁紹が各地の諸侯に檄文を発し、反董卓連合が組織された。華琳様も、武名を上げるまたとないこの機会に乗り、連合に参加することをお決めになった。
その後は、袁紹のバカな指示もあったけど、華琳様を筆頭に、他の諸侯(特に、袁術のもとに居た孫策と、まだ旗揚げをしたばかりだという劉備の軍勢など)の活躍によって、汜水関、虎牢関を抜き、見事洛陽まで軍勢を到達させることに成功した。
北郷の話した知識では、董卓は洛陽から長安に逃げるはずだったが、長安に逃げたという報告はなかった。ただ、洛陽の中にもそれらしい人物はおらず、どこかに逃げたのではないかということだった。
北郷からの知識もあり、華琳様に劉備を早めに叩いておいてはどうかと進言したけれど、華琳様はそれを承諾してはくださらなかった。
その後、華琳様は陳留から洛陽に本拠地を移した。
そうして洛陽の復興と事務の整理に力を注いでいるさなかに、北郷から手紙が届いた。
「また、変なこと書いてあるんじゃないでしょうね?」
そう少し警戒しながら手紙を開くと、私が予期していなかったことが書いてあった。
『 荀彧様へ
洛陽に拠点を移したようだね。俺の知っている歴史だと、曹操の本拠地と言えば許昌だったから少し驚いているよ。
まぁ、それはさておき、今回は荀彧に報告がある。
俺、軍に入ろうと思っているんだ。
荀彧のおかげで、なんの心配もなく生活できているけど、町の中を見ていると、そうして生活している俺がどれだけ恵まれているかがよくわかる。
それで、俺も自分で働いて生活していかなきゃだめだなって思ったんだ。こうして、恵まれた環境で生活して、荀彧たちが世の中をよくしてくれるのを待つより、俺にもできることをやろうと思うんだ。
侍女さんたちのおかげで、字の読み書きは出来るけど、文官になれるほどじゃない。だけど、兵士としてなら働けると思う。一応、元の世界にいたころは武道をやってたから、たぶん大丈夫だと思うし。
そんなわけで、俺も洛陽に行くことにした。洛陽で住む場所が決まったら、また連絡をするから、今度からはそっちの方に、手紙を送ってくれ。
それじゃあ、またな。
北郷一刀より 』
「ど、どういうことよ!?」
北郷があまりにも突拍子のないことを書いてきたので、私は思わず声を上げてしまった。
「……と、とりあえず落ち着きなさい、私。侍女たちの手紙の方に、何か書いてあるかもしれない」
私はどうにか気を静めて、侍女たちからの手紙を開いた。
『 荀彧お嬢様へ
ご機嫌麗しゅう、いかがお過ごしでしょうか?
~中略~
最後に、北郷さんについてですが、せっかく彼が頑張って書いた恋文に、お嬢様がお返事を下さらないので、彼は洛陽に行くようです。
なにやら、高尚な理由を言っていらっしゃいましたが、おそらく本心は、お嬢様のおそばに行きたいという気持ちだと思います。そういう、すこし恥ずかしがりなところも、彼の魅力ですよね。
そういえば最近、北郷さんを好きだと言う子が屋敷の中で増えました。北郷さんは、お嬢様しか眼中に入っていないようですけど。
そういうことですのでお嬢様、北郷さんが洛陽に着いたら、よろしくお願いします。
荀家侍女一同より 』
「“よろしくお願いします”じゃなくて、止めなさいよ!」
侍女たちからの手紙にそう叫んだけれど、その声に返事をするものはいなく、ただ城内に声が響いただけだった。
あとがき
どうもkomanariです。
前の話に多くの閲覧、支援、コメントといただきまして本当にありがとうございます。
さて、やっと3話目です。今回でようやくタイトルっぽくなってきました。
ただ、一刀君が若干キャラ崩壊してるかもしてないです。その辺が少し心配です。
前作へのコメントで、歴史について話したのに、作品中で一刀の体に変化が起きていないのはどうしてか。という質問をいただきました。
その回答については、一応僕なりの考えのようなものがあるのですが、もし気になる方がいらっしゃいましたら、ショートメールなどを送っていただければ、個別に回答いたしますので、よろしくお願いします。
そのほかにも、何か気になる点などありましたら、コメントかショートメールでお知らせいただければ、出来る限り回答いたします。
それでは、今回も閲覧していただきまして、ありがとうございました。
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やっと3話目です。
今回は一刀君のターンを含みます。
それと、やっと今回からタイトルっぽい雰囲気が出始めます。
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