No.102192

空白の時間

綺朔さん

鬼畜眼鏡 克哉×御堂ベストエンドの空白の一年補完小説

「全て奪ってみて気付くなんて…」
御堂を解放してからもいつの間にか彼のいたマンションに足が向いていることに克哉は気付き、苦笑する。
そして一人になるといつも考えるのは御堂のことばかり。

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2009-10-21 02:03:49 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1648   閲覧ユーザー数:1634

 

御堂を解放して一週間、あいつがどうしているか、今の俺に知る術はない。

ふとするとあいつのいたマンションに向かう足に、習慣とは恐ろしいものだと感じ、毎度のことながら苦笑してしまう。

「まったく、俺は一体何をしているんだか…」

今日も気付いたら御堂のいたマンションに向かっていた。

「あいつはもう俺のことなんか忘れたほうがいいんだ。いまさら思い出させるなんて、お互い辛すぎる」

それにいまさら行ったとて、御堂があのマンションにいるとも思えない。おそらくマンションも売り払って、俺を思い出すものは全て捨ててしまっているんだろう。

「全て奪ってみて気付くなんて…ははっ、笑えるな」

自嘲的な笑みとともに吐き出された言葉は、自分で言ったにも拘らずナイフのように心を抉った。

自業自得だ。俺はあいつに憎まれればいい。それだけのことを、俺はしたんだ。

そこまで考えて踵を返し、今の自分のマンションへと帰るために俺は歩き始めた。

 

ガチャ…とマンションの自室の扉を開けると、黒猫が擦り寄ってきた。

「ただいま、みー」

この黒猫――――みーは御堂を解放したその日に、Mr.Rと会った後、あの公園で見つけた。

あの男と会った後、全てが遅過ぎたということに気付かされた。そして、俺は<オレ>と何も変わっていなかったということにも……。

「お前はいいよな、こんな風に悩まなくても」

無邪気に遊んでいるみーの背中をなでながら呟く。

こいつの名前は「御堂」からとった。普段の俺だったら見捨てていたその猫を拾ったのは、こいつが御堂に似ていたからかもしれない。

「なんて、俺らしくないな…」

『助け…て…た…すけ……』

「…くっ」

まだ鮮明に思い出される、解放した時の御堂の姿、怯えた声、それまで俺が行った数々の仕打ち……

「ただ、俺はあんたに…あんたの隣に並びたかった、それだけなのに……」

後悔ばかりが湧いて出てくる。

こんなことなら今日の本多からの誘いを断るんじゃなかったな、と思ってももう遅い。

過ぎたことをいつまでも引きずっているなんて、全くもって俺らしくない。一人になった時だけにしか考えない、というだけまだましか。仕事中は没頭できるからそれを考えなくてすむ。忙しすぎることは体には毒かもしれないが、余計なことを考えなくていいのは嬉しいことだ。

「…なんだ、慰めてくれるのか?お前は優しいんだな、みー」

俺の不安を読み取ったのか、みーが手の甲を舐めてきた。

「なぁ、みー…お前は今の俺をどう思う?」

みーを抱き上げてその顔を覗き込む。

御堂ならなんて思うだろうか、ふとそんなことを考えてしまった。そんなこと、考えるだけ無駄だとわかっているのに……。

「…部長、佐伯部長!」

誰かに呼ばれ、ハッと目を覚ます。

ここは…あぁ、そうだ。MGNの、自分のオフィスだ。そして目の前には部下の藤田が心配そうな顔でこちらを見ている。

「あの…次回のプレゼン用の資料をお持ちしました」

「藤田、か…ありがとう、そこに置いておいてくれ」

藤田はデスクに出来上がった資料をおいた。が、普段だったらすぐに出て行くはずなのに、藤田は立ち尽くしている。

「どうした、仕事に戻らないのか?」

「えっ…?あ、はい…でも……」

「何だ?」

言いよどむ藤田に何かあるのか?という視線を向ける。決して威圧しているわけでもないのに、緊張しているのか、藤田はビクッと肩を震わせた。

「いえ、ただ…部長が仕事中に居眠りなんて、珍しいと思って……」

「…ただ寝不足なだけだ」

溜息とともに吐き出された言葉には、疲れが色濃く出ていたと自分でも感じるものだった。

そう、ただの寝不足だ。仕事に追われ、あいつのことなんか考える余裕なんてないくらいに……。そうしなければ俺は<俺>でいられなくなる。また弱い<オレ>に戻ってしまうかもしれない。

「あまり無理なさらないでください。部長が倒れたら俺、どうしたらいいかわかりませんから」

「わかっている……心配かけてすまないな」

「いえっ、そんな…!あの、部下である俺が言うのも差し出がましいかもしれませんが…」

まだ何かあるのか、こいつは…。だが、人と話していたほうがいくらか気分がまぎれる。

「何だ言ってみろ」

「えっと、何か悩みがあるのならいつでも相談してください」

「悩み、ねぇ……」

考えるように呟いてみたが、内心かなり驚いていた。部下にまでわかるくらいにまでになっていたのか、藤田が意外と鋭いだけなのか……。

「ほら、人に話すと楽になるってよく言うじゃないですか?根本的な解決にはならないかもしれないですけど、それでも……」

「なぁ、藤田」

「は、はい!」

藤田の言葉を遮るように俺は彼を呼ぶ。いろいろと差し出がましいことを言ったことに対してとがめられるのかと思ったのか、藤田は直立してしまった。

「……御堂は今、どうしているだろうか」

「は…?御堂さん、ですか?」

その姿を見て、笑いそうになるのを堪えて俺は藤田に聞く。何故そんなことを聞いたのか、自分でもわからなかった。

「あ…そういえば、いろんな会社を転々としてるって聞きましたよ。だから今はどこにいるかはわかりませんが……」

「そう、か…こんなことを聞いてすまないな」

俺もそのことは知っていた。だから、答えなんてわかっていたのに……。

「今のは忘れてくれ。それより、早く仕事に戻らないと残業になるんじゃないのか?」

「え…あ、本当だ!それじゃあ、失礼します!」

何気なく言った言葉にあわてた反応を見せる藤田に苦笑が漏れる。

「まったく、あいつも相変らずだな」

だが、藤田と話をすることで気分がいくらか軽くなった。御堂がいたころからの部下である藤田は以前からチームのムードメーカー的存在だった。そんな存在がチームにいることはありがたいことだ。

「さて、と…俺もそんなことに構っている暇はないな」

今は目の前に迫っているプレゼンを成功させなければ。そう思い、先ほど藤田が持ってきたプレゼン資料に目を通し始めた。

それからは仕事に追われ、いつの間にか御堂のことなんか忘れていた。

「今回もすばらしい仕事ぶりだったな、佐伯君」

「ありがとうございます」

大隈専務から呼び出しを受け、報告も兼ねて向かった。おそらく次の仕事の話も聞かされるだろうと頭の片隅で考えながらも、今後のことを巡らせていた。

「さて、次の仕事なのだが……」

やはり、と思いながら専務の話を聞いていく。聞いていくうちにそれが今まで自分が任されたプロジェクトの中でも一番大きなものになるだろうという気がしてきた。それを任されるということは自分の力が社内で評価されているということに他ならない。

「これが、先方からの提案書だ。提案書は数社からきているが、どの社に任せるかは君の判断で構わない」

「わかりました。では……」

その後もしばらく次の仕事について専務と話しをし、それが終わった頃にはもう終業近くなっていた。明日からまた忙しくなりそうだ。

 

マンションの自室に戻り、専務から受け取った提案書に目を通していく。みーは後ろで一人で遊んでいるようだった。

「ふぅ…さすがにどれも似たようなものだな」

どの提案書も内容は違えど、着目点などが似通っていてだんだんと見る気が失せてくる。

「少し休憩を入れるか」

そのほうが効率は上がりそうだ。そう思い立ち上がりキッチンへと向かうとそんな俺の様子に気付いたのかみーが俺の脚に擦り寄ってきた。

「何だ、遊んでほしいのか?」

ニャーと鳴くそれは肯定か。

「ちょっと待っていろ」

コーヒーと軽くつまめる何かを取りに来ただけだというのに、こいつの相手をしなければならないとは……。

「ほら、これでしばらく遊んでいなさい」

そう言ってみーのお気に入りのボールを軽く投げてやるとニャーと一鳴きしてみーはそのボールを追いかけていった。その姿を見ているだけで心が落ち着いてくる。

「さて、と…続きをやるか」

次の提案書を手に取り目を通していく。

「これ、は…?」

今までのものよりも詳細な提案書だった。こちらに無理のないものなのに、双方の利益がしっかりと考慮されていたそれに今まで忘れていた影がちらつく。

「まさか…御堂が?」

驚いて担当者を確認すると、そこに御堂の名前はない。

「違う、か…」

そうだ、これくらいの提案は別に御堂じゃなくても作ることは可能だ。俺が落ち込む必要なんて、ない。

「…ははっ、まったく、今までそんなこと忘れていたのにな」

何故いまさらになって思い出したのか、自分でもわからない。だがこれを見た瞬間に契約をそこにしようと決めたのは確かだった。他のものなど比べる価値もない。

「……MGNでやることもそろそろ尽きてきたな」

ふとそんなことを思い立った。この契約を取ったら会社を興すのもいいかもしれない。一から会社を作って、それを大きくする。簡単なことではないが、やりがいはありそうだ。

「今はそんなことを考えても仕方がないな」

今はこのプロジェクトを成功させることだけを考えよう。それからのことは、全てが終わってからだ。

それから数日後、契約を取るために訪れた会社で俺は御堂と再会した。やはりあの提案書を作成したのは彼だったのだ。

その時、「はじめまして」と俺は言った。御堂は俺にとって忘れたい存在であることを知っていたから。先方には知られたくないだろうと思ったから。だから、それでいいんだ。契約が済めばもう会うこともない。まったく、俺も未練がましい。

だが御堂は追いかけてきた。そして俺のことが消えないと言った。

ならば憎めばいい。俺のことを恨めばいい。そう言ったが、今度はそれができないと……。

俺がしたことを忘れたわけではないらしい。だったら何故?

「では何故君はあの時私を抱きしめてあんな告白をしたんだ!!」

ハッとした。まさか、聞こえていたなんて思わなかった。その時、この人は俺を忘れたい、俺とのことを無かったことにしたいと望んでいるわけじゃないんだ、とどこか安堵した。それと同時に今まで心の奥底にしまっていたはずの感情が湧き上がってきた。

そして、御堂を抱き寄せて唇を重ねた。今まで行ってきた行為では俺が一方的に責めるだけだったから、キスなんてしたことがなかった。自分でも驚いていた。それと同時に、今まで満たされなかった心が満たされていった。

それから俺たちは一年振りに体を重ねた。御堂の体は相変らず感じやすい。それを揶揄すると御堂は俺がこんな体にした、と言ってきた。確かに、一年前御堂の体を開発したのは俺だ。一年も誰も触れていないその体は、あの時と同じように、むしろあの時以上に感じやすくなっていた。

だが、それはきっとあの時と違う気持ちで俺が御堂を抱いているからというのもあるだろう。そう、あの時は「犯して」いたが、今は「抱いて」いる。そしてそれは俺自身も満たしてくれる。この瞬間をもっと味わっていたい、そんな風にさえ思う。

 

行為が終わった後、俺は御堂に新たに会社を立ち上げることを告げ、そして誘った。もちろん断る可能性も考えていなかったわけでもない。しかし御堂ならば必ず来る、そう確信していた。

案の定、御堂は文句を言いながらもその誘いに乗ってくれた。これからは二人で並んで歩いていける。俺のかつてからの願いが叶うんだ。そして御堂とならば、きっと世界も手に入れられる。そう信じて――――

後書き

あぁ、ついに書いてしまいました。

TINAMI初投稿が、鬼畜眼鏡のメガミドなんて…!

そしてベストエンドの克哉と御堂が再会する間の空白の一年を書いてしまいました。

てか鬼畜眼鏡はやっぱ濡れ場あってなんぼですな。。。

極力表現抑えたつもりです。

ゲームのほうでは克哉が猫を飼っているなんて設定はなかったですが、まあ許してください。

 

ちなみに私はキチメガでは克哉×御堂が一番好きです。

鬼畜だけどたまにヘタレで御堂さんが絡むと大人気なくなる眼鏡と、それに翻弄されつつもしっかると手綱を持っているかと思いきや空回りしてしまっている御堂さんが大好きです。

このお話では克哉メインで、御堂さんが最後にしか出てこなかったり、克哉にしても思い悩んでいるところしか書けなかったが残念ですが、意外と楽しくかけたような気がするのでよしとしますか。

この話に出てくる黒猫のみーちゃんは今後も出てきます。たぶん。いや絶対。

拾ったときは子猫でしたが、御堂さんと克哉が再会したときは1歳だからなぁ…。

ちなみにみーちゃんは克哉に一番なついてます。

なんて、いらない裏設定(笑)

 

次のお話はキチメガでいこうかオリジナルでいこうか悩み中です。

まぁどちらにしてもなるだけ早いうちにupしたいと思いますので、よろしくお願いします。

では、次回の作品でお会いしましょう。

 

柳 綺朔

09/10/21 執筆

 

 
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