No.101919

真・恋姫†無双~物語は俺が書く~ 第12幕

覇炎さん

最近、更新が遅くて困っている覇炎です。

理由としましては……最近、『戦極姫』というゲームに嵌ってしまった…。今まで歴史に興味なかったのに………多分、恋姫の影響でしょうか?はたまた、18禁ゲーム会社の罠!?


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2009-10-19 20:33:56 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:6390   閲覧ユーザー数:5162

 

真・恋姫†無双~物語は俺が書く~

第12幕「大事なモノを護る事(その弐)」

 

 

 

 

 

「……なんだ、あれは?」

 

「うそ?」

 

「ありえへんて…」

 

「沙和、夢を見てるの?」

 

「残念だが、私にも見えている」

 

 

 武人である皆の顔が、驚愕の顔に変わる。それもそのはず、今皆の眼には黄巾党の後ろにいる“民家よりも大きな巨体”を揺らしながら、歩いてくる黄巾党が居たのだから。しかし、本当に吃驚しているのはどうして、それが近づいている事に気づけなかったのかであった。

 

 あれほどの巨体で有れば、遠くからでも一目で解り近づかれる前に秋蘭が『餓狼爪』で矢を番えて射ていた。だが、実際に此処まで近づかれている。そんな事を余所に他の黄巾党が巨大な黄巾党に気づき歓喜の声を上げた。

 

 

「おぉ、デク!何時の間に!?」

 

「そんな事はどうでもいいじゃねぇか!?デク、こいつらを殺っちまえ!!」

 

「そうだ!!俺たちは油蟲じゃない!」

 

「そうだ、そうだ、俺たちは腐った蜜柑じゃない!」

 

「デク、殺せ!」

 

『コ・ロ・セ!コ・ロ・セ!コ・ロ・セ!コ・ロ・セ!』

 

 

 皆が声を合わせて、秋蘭達を殺すように指示する。その禍々しい雰囲気に、皆が気分を悪くする。しかし、デクと呼ばれた巨大な黄巾党は動こうとしない。

 

 

『コ・ロ・セ!コ・ロ…』

 

「うるさ~~~い!#」

 

 

 

コールが止まない中で、美声とも言える声で怒鳴る声が聞こえた。その発声元を見つけたのは季衣であった。

 

 

「秋蘭さま!あいつの肩の上、誰かいますよ!?」

 

 

 季衣がデクの肩の上を指差し、そこを見れば、確かに身体を覆えるほど大きな布を深く被った小さい人の形をしているものが乗っていた。自分を支える為に、デクに触れている所から小さな手が覗いている所から人、それも女か小さな子供と推測される。

 

 そして、さきほどと同じ声が聞こえてくる。

 

 

「あんた達ねぇ。こいつに命令できるのは、ここまで“巨大化させてあげた”ちぃと天和ねーさんと人和だけ!あんた達が命令してんじゃないわよ!?」

 

「…張宝さまだ。張宝さまもいらっしゃられるぞ!?」

 

「なにッ!?ちーほうちゃん、今から手柄挙げるから見ておいてくれ!!?」

 

「おい、テメー!なに張宝ちゃんの真名を馴れ馴れしく呼んでんだ!!?」

 

 

 

 先ほど季衣が言った通り、声の主は肩の上に乗っている者らしい。同時にその声を聞き、歓喜の声を上げる者の中にその者の名らしきモノを叫ぶ。秋蘭はそれを参考にして考えを読まれないように無表情のまま、思考を展開する。

 

 

「(…ふむ。一刀の情報では張三姉妹とあった。首魁は“張”角で、あの肩に乗っている者はチョウホウ…張ホウ。張宝か?そして“ちーほう”は奴自身が“ちぃ”と自称しているから真名と言ったところか…。それに“テンホウ”と言う者の姉と呼び、“レンホウ”という名を呼び捨てにしている事から年下か同い年か。それから推測するとあの者は次女といったところか)……試してみるか」

 

 

 最後に小さな笑みを浮かべて、ボソリと呟く。そして、張宝にも聞き取れるように大きな声で尋ねた。

 

 

「もし!その巨人は貴殿の仕業か!?」

 

 

 慌てた振りをして相手の気分を良くし、油断させ口を滑らかにして誘導尋問で情報を得る。軍師・一刀が敵から情報を収集する際に使用する方法を真似る。そして、実際に効果的だという事を目の当たりにする事となる。張宝は鼻歌でも歌うかのように語り始める。まんまと乗ってしまった。

 

 

「そうよ♪このア・タ・シの妖術にかかれば、この程度のことは朝“風呂”前よ♪」

 

「ほぅ。妖術か…(頭が弱いな)」

 

「そう。全てはちぃがやったんだから!ここまで、『気配遮断』と『透明化・無音』を使ったのよ。知ってる?これってすごく難しい術式なんだけど…ちぃにかかれば、ちょちょいのちょいなんだからね!あぁ、私って天才。自分の才能が恐いわ!」

 

「(なるほど、それで誰も気づけなかった訳か…)そうか……“姉の張角”と“妹君[いもうとぎみ]”は使われないのか?」

 

「二人には妖術の才能が無いからね♪」

 

「ふむ。……確か、北郷は最後にこう言うのだったかな?」

 

「???」

 

「『情報提供、ありがとさん』であっていたかな?」

 

 

 秋蘭は、まさかここまでうまく行くとは思ってもいなかったのか、声を出してはいないものの、その顔は笑みが零れていた。他の武人も、最初は秋蘭の意図に気づかなかったが季衣と沙和以外は気づいたらしく、張宝の顔を見て憐みの眼を送る。そして、秋蘭の言葉の意味が理解できたのか張宝が顔を真っ赤にして、秋蘭に怒鳴り散らす。

 

 

「あ、あんた。よくも、このちぃさまを嵌めてくれてわねッ!?」

 

「んぅ、何の事だ?私は尋ねただけ。それを素直に答えてくれたのは貴殿であろう?それに素直なのは良い事だ」

 

「う、う~~~っ!」

 

 

 張宝は悔しそうに歯軋りをさせながら、デクの肩の上で地団駄を踏み始めた。デクの顔が恍惚の顔になり、下にいる黄巾党が『俺も踏んでほしい!』などと言うのは全て幻であろう…きっと。

 

 秋蘭は矢を番え、張宝に標準を合わせる。確かに近いがデクの歩く速さはかなり遅く、見ている限り反応も鈍い。これなら、季衣たちが足止めしている間に秋蘭が張宝を仕留める事が出来る。

 

 季衣たちも、それを理解しているのか何時でも散開出来るように徐々に広がって行く。

 

 

「…念の為に尋ねておくが、もしも首魁の張角の居場所を教えるなら、斬首だけはしないように我が主に嘆願を……」

 

「何言っての?」

 

 

 

 一応、相手へ投降を呼びかけて見たが、帰って来たのは先ほどと違い、感情の欠片すら感じさせないような冷たい声。

 

 そして、張宝はその声のままで嘲うかのように話す。

 

 

「全く…。またなの?もう、しょうがないな。良い?首魁は天和ねーさん…張角じゃなくて、このアタシ。“張宝”こそが黄巾党の長なの。理解できた?」

 

「そうか、貴殿が。ならば、例え投降してもこの乱を起こした貴殿では、斬首は間逃れぬだろう…」

 

「そうね。だから……デクッ!!」

 

「アアァアァァァアアァッ!!」

 

 

 張宝は、自分が主犯である事を明かすと共に、今まで大人しかったデクの名を呼ぶとそれに応えるかのように、吼える。そして、腰に着けていた大の大人と同じくらいはある戦斧[せんふ]を二振り持つ。

 

更にそれを振り下げる。

 

 

「ここで、主力のあんた達を殺すわ!!」

 

 

 

―――ズッドォォォッン!!!

 

 

 

 その攻撃は遅くも、高い位置から振り下げる事により更に威力を上がっていた。更に衝撃が生んだ爆風により、周りにあった建屋、そして楽進・李典・于禁の三人が吹き飛ぶ。

 

 

「んなっ!?」

 

「あうっ!」

 

「グ…ぁ…」

 

 

 李典・于禁は丁稚ながらも受け身を取るが、身体が思うように動かす事の出来ない楽進は、無様にも地面に叩きつけられて肺の息を全て出してしまう。

 

そんな中で場慣れ…経験豊富な秋蘭・季衣が反撃に出た。

 

 

「疾っ!」

 

「っ!?デク!」

 

「アアアアァ!!」

 

 

―――シュン、シュン、シュン!

 

―――カンッ、カンッ、カンッ。

 

 まず、秋蘭が『餓狼爪』でデクの両眼に一本ずつ、張宝に一本、一瞬にして矢を放つ。それをデクは、戦斧を横にして自分の眼と張宝を護る。

 

 しかし、これは囮。人は眼の前で何か起こると、脊髄反射により眼を“手で”覆ったりする。それにより、少しの間ではあるが手は塞がり、眼は見えない。秋蘭が季衣に呼びかける。

 

 

「分かってますよ!でやぁぁぁ!!」

 

 

 

―――ブゥオオォォン!

 

 

 

季衣が『岩打武反魔』の棘付き巨大鉄球を、デクの脛に向かい投げつける。上手くいけば蹲[うずくま]るか、そうで無いにしても怯み隙が出来る。

 

もう一方の戦斧に気を付けていたが、今の自分の体勢を維持できないのか、松葉杖代わりに地面に刺している為に弾かれる事は無い。

 

鉄球は狙いを違える事無く、脛〔すね〕に向かい中った。

 

 

 

 

―――グニュ。

 

 

 しかし、中っただけであった。

 

 

「…なんと」

 

「そんなぁ。ボクの鉄球が……脂肪に負けるなんてッ!!」

 

「ふふーん♪こいつって防御に優れているから便利よね」

 

 

 季衣の『岩打武反魔』は確かに中っていたが、デクの異常な(肥満とも言える)ほどの脂肪により衝撃を吸収されて、骨まで衝撃が届いて無かった。張宝もデクの事を、道具として見てないような発言をするが当の本人は自我が無いのか、反論どころか顔にすら感情が現れていない。

 

 季衣は、『岩打武反魔』を引いて更に距離を取ろうとしたが鉄球がデクの脛から取れない。眼を凝らして見れば、なんと脂肪の肉と肉の間に挟まっていた。

 

その様子をみて張宝は口の端を釣りあげ、デクに季衣を殺すように命令した。

 

 

「あはは。面白いけど、流石にこれ以上時間は取れないわね。早く“あいつ”を探さないと…。デク!敵を薙ぎ払いなさい!!!『天風地振ッ』!!」

 

「ウ、ウアゥァァ、ウァァァァ!」

 

 

 張宝の号令に応えるかのように咆哮し、二つの巨大な戦斧を後ろへと振り左足を前へと出す。

 

 そして、今度はその脚に全体重を掛けて後ろへと振った戦斧を物凄い勢いで、前へと振るう。

 

 

 

―――ブゥゥオォォンッ!!!!!

 

 

 

 すると、先ほどとは比較できないほどの突風が吹き荒れた。

 

 近くにいた黄巾党の群れが、家が、飲茶の机や椅子が、壺が、様々な物が飛び交う。肝心な季衣も、自分の得物を即座に離して離脱したが軽い彼女は強い風に吹き飛ばされた。

 

 その季衣を、秋蘭が捕らえて掴む。

 

 

「ありがとう、ございます。秋蘭さま」

 

「いや、構わない」

 

 

即座に季衣を下し、再び矢を番え放とうとしたが、また今の攻撃をされたら、今度は矢も一緒になって跳んでくる可能性がある為に断念する。

 

 

「沙和!真桜!!」

 

 

 そんな事を考えているさなか、後ろの方から楽進の悲痛の叫びが聞こえた。

 

 季衣、秋蘭は後ろを眼を大きく見開いた。

 

二人の眼に飛び込んできたのは、『螺旋槍』を構えつつ頭から血を流している李典。

 

そして、眼鏡に罅が入りどこかを強く打ったのか、片膝をついて肩で息をしている于禁が動けない楽進を護るかのよういた。その近くには、壊れた椅子や土器などが散乱している事からまず間違いないであろう。

 

そんな二人に、凪は力無き声でどうしてっと尋ねた。

 

二人は互いに顔を見合わせて、互いに笑う。

 

 

「そんなの…」

 

「決まっているやろ?」

 

 

そして、合わせるかのようにこう言った。

 

 

 

 

「友達だからなの」

 

「仲間やからな~」

 

 

 凪は呆けていたが、すぐに吹き出し二人がそれに対して、じゃれるかの様に怒り出す。その光景に秋蘭達も心が和んでいた。

 

 

―――ギリッ、ギリリリッ。

 

 

 何かが軋む、そんな音が聞こえるまでは。

 

 その音の出何処は張宝が歯軋りであった。

 

 

「ウザい…くだらない。ウザい、くだらない…くだらない、ウザい……くだらない、ウザいウザイ、クダライ、クダラナイ、クダラナイクダラナイ!ウザイ!ウザイ!クダラナイ!!!ウザイのよっ!あんた達は!!!」

 

 

 張宝の瞳から光が消え、壊れたミュージックプレイヤーみたいに呪詛の言葉のようなものを繰り返す。

 

 なにがそれほど、気に入らないのか。なにが彼女に、それほどの呪詛を吐かしているのだろう?

 

 頭を上げた張宝の顔は、未だに布に覆われている。しかし、その声に半端で無い殺意は于禁でも感じ取れた。

 

その張宝が苛立った声で叫ぶ。

 

 

「何が、仲間よ!何が友達よ!?バカじゃないの!?こんな時代で友情とか、なにそれ?くだらな過ぎるわ」

 

「なんだとっ?」

 

 

 楽進は身を呈して、自分を護ってくれた親友を愚弄された怒りを力にして、再び立ち上がる。そんな、楽進を見て更に張宝は嘲笑った。まるで、それを拒絶するかのように。

 

 

「だって、そうでしょ?今のこの時代も…朝廷すら腐ってる!根(朝廷)が腐れば、葉(民)だって腐る。そんな中で友情?ふざけている巫山戯ているとしか言いようがないわ!」

 

 

 張宝は否定する。眼に映る者、全てを。

 

 

「友達とか言ったって…所詮、赤の他人なのよッ!そう、こいつら[黄巾党]だってきっと何時かは……ちぃたちを裏切る。結局はその程度なのよ。そんな、奴らを………血の繋がりすらない他人を、アンタは信じられるの?」

 

 

 そう興奮した状態で言って、下に転がっている黄巾党の死体を指差す。先ほどのデクの攻撃に巻き込まれ、命を絶ってしまったのだ。

 

 楽進は何も言わない。いや、言えなかった。一瞬でも、張宝の言っている事は正しいかもと感じてしまった。そして、最後の言葉はとても切なそうに聴こえたからだ。

 

 しかし。

 

 

 

「出来るよ!」

 

 

 

 そんな、沈黙が支配している中で元気な、そして信頼に満ち溢れる声が聞こえた。

 

 

「そうだな、できるな。季衣よ」

 

 

 発言者である、季衣を肯定するように秋蘭が頷く。

 

 

 季衣はその純粋で、自身に満ち溢れた瞳で張宝を見つめ、そんな瞳に呆気を取られている張宝がいた。

 

 そして、季衣は大声で啖呵を切った。

 

 

「確かにお前の言う通り、今の朝廷は腐っているよ。食べる事の出来ない、生ゴミを捨て忘れて一週間どころか、一か月ぐらい放置してゴミ箱を開けた時のゴミ並にさ!」

 

「い、いや。ちーもそこまでは……」

 

 

 流石にこの乱を起こした、本人すらもそんな風に表現はしなかった。その証拠に頭にギャグ漫画の汗が浮き出ていた。

 

 そんな事を余所に、続ける。

 

 

「でも、だからって友達を裏切る人なんていないよ!少なくともボクの近くにそんな人はいないし、兄ちゃん…“北郷 一刀”は町民の鎮圧に行く前にこう言ってくれた」

 

 

 

―――鎮圧に行く前―――

 

 

 

『兄ちゃん…』

 

『季衣?見送りに来てくれたんだろ?……だったら、コート…外套を握っている手を離してほしいのだが?』

 

『うぅ~~。華琳さまとの約束だからしょうがないけど、怪我しないでね?』

 

『お前こそ、無理すんなよ?』

 

 

 僕も兄ちゃんも噴き出したんだ。それで兄ちゃんがこう言ったんだ。

 

 

『季衣、俺さ。正直な話、他人なんてどうでもいいんだ』

 

 

 兄ちゃんの言う事が、理解出来なかった。でも、すぐさまボクの頭を撫でながら継ぎ足して言った。

 

 

『他人はどうでもいい。でもな、今から向かうとこにはさぁ。俺の部隊にいる奴らの家族がいるんだってよ。だから、その家族は俺が護る。だって…』

 

 

 兄ちゃんは上を見ながらこう言った。

 

 

『…だって、そいつらの悲しんでいる顔見たくないんだ。親しいから…だから…』

 

 

 

 

「『―――だから護るんだ、大切な人〔仲間〕の笑顔を見る為に―――』。それだけの為に兄ちゃんは戦うって言った。初めての戦の時に兄ちゃん僕みたいになりたいって言っていたけど…」

 

 

 

 

『…あぁ、わかったよ。盗賊は全員…“殺す”よ。…季衣はすごいな、一人でそういう決断をして』

 

『いつか、俺も人の為に…出来るかな?』

 

 

 

 

「ボクは兄ちゃんのように、人の笑顔を護る為に戦うんだ!」

 

「……やっぱ、くだらないわ」

 

 

 

 

 張宝も興が覚めたのか、肩で息をして呼吸を整える。そして、皆の思考が一瞬、凍りつく事を言い出した。

 

 

 

「さて、そろそろ西側も落ちた頃でしょう」

 

 

 

 

「……どういう意味だ?」

 

 

最初に意識を取り戻したのは、秋蘭であった。しかし、言葉の意味は理解しがたいものであった。

 

西に置いてきた防衛部隊は、春蘭・秋蘭・桂花、そして一刀が手塩を掛けて調錬していた兵[つわもの]の集まり。“高々”町民・盗賊の集まりの黄巾党に負けるはずが無い。

 

 

「“高々”?…まさか!?」

 

 その言葉を言った瞬間、解れていた糸がほどけた。

 

 簡単な事であった。今の現状が、その“高々”黄巾党に足止めを喰らっているのだから。

 

 では、どうやって自分達は足止めされている?

 

 答えは………。

 

 

「妖術か…」

 

「正解♪コイツをでかくして、もう一人を小さく…でも素早く行動が出来るように術を施して、後はこっちに、主力が来るように仕向けたんだけど…そんなに策を巡らす必要も無かったわね?主力と言ってもこの程度だし」

 

 

 秋蘭の苦虫を噛んだような顔に対し、張宝は愉しそうな声を上げる。

 

そして、再びデクに命令を下す。

 

 

「さぁ、デク。遊びはお・わ・り。今度こそ跡形も無く、全て消し飛ばしなさい!」

 

 

 デクが再び、先ほどと同じような構えを取る。

 

先ほどより、状況が悪化しているのに秋蘭の顔は更に歪む。季衣は得物を取られ、残り三人は負傷。万事休すかと。

 

 皆が眼を瞑る中で、一人デクを睨む季衣。

 

 

「大丈夫ですよ、みんな。確信は無いけど大丈夫」

 

「季衣?……奇遇だな。今の今まで、もう無理だと思ってたにも関わらず。何故か安心できる…」

 

「夏候淵さま?」

 

「許緒さま?」

 

「何で、こんな状況で笑ってるの~?」

 

 

 二人が安心している笑みを、危機感を感じながら不思議そうに見ている。因みに、于禁と李典は涙目・涙声であった。

 

 そんな状況に苛立ちが最頂点になり、怒鳴り散らすように叫んだ。

 

 

「本当に巫山戯ないでよっ!!?もういい、あんた達を倒して“北郷 一刀”って奴を殺しに行ってやる!!!デク、殺しなさい!!!『天風地振ッ』!!!!!」

 

 

 

 デクが戦斧[死神の鎌]を振るった。

 

 

 

―――ブゥォオオォ。

 

 

 

 戦斧で風を薙ぐ音と共に、後ろから同じような音が聞こえた。

 

 

 

―――ブゥォン、ブゥォン、ブゥォン。

 

 

 

 しかし、後ろから聞こえるのは、まるで棒か何かを投げた際に回転しながら風を切る音に似ていた。

 

 そして、その音はすぐさま秋蘭達の横を通り過ぎる。

 

 秋蘭と季衣は一部始終を見ていた。

 

 

 

―――季衣よりも“灼熱の色に燃え上がっている”大きな大刀のようなものが、火の粉を撒き散らしながら通り過ぎ、デクの左右の戦斧が交わったところで大刀が接触した。

 

 

 

 

次の瞬間―――

 

 

 

―――ブゥォオオォ、ガッシャァァァァン!!!

 

 

 

金属同士がぶつかり合う音。それに応じて衝撃波のような風が吹き荒れる。しかし、方向性が定まっていない為に風とそれに巻き込まれた火の粉が散乱し、張宝吹き飛ばされそうになっていた。大刀は力を失い、宙へと舞った。

 

その足場であるデクも風と大刀の衝撃に、そして戦斧を跳ね返されたことにより、体勢を崩しかけるも何とか踏み止まろうとする。だが、

 

 

 

「良く踏み止まったな、雑種!ほれ、褒美だ。拒否不可の強制報酬ッ!」

 

 

 何処からか、秋蘭、季衣が聞いた事のある声が聞こえた。

 

 

「そら、受け取れッ!人手裏剣!!因みに貴方のお友達?だと思う」

 

 

 またも後ろから、先ほどと同じような音が聞こえた…悲鳴と共に何かが回転しながら通り過ぎ、デクの顔に向かっていた。

 

 

「あれって…ひと?」

 

「そうか。季衣にもそう見えたのなら、私の眼がおかしい訳ではないな」

 

 

 

―――ビィタァァァン!!!

 

 

 

「アアァァァアアッ!!?」

 

「キャァァァアァ!?」

 

 

 人らしき飛来物が、デクの顔に中り体勢を完璧に崩してしまった。そして、柔らかい物が打ちつけられた音。獣のような咆哮と可愛らしい悲鳴が聞こえたと共に、巨体が地面に倒れて行った。

 

 

 秋蘭と季衣は、何が起こったかは理解していたが頭が付いてこれず、茫然としていた。

 

 楽進たちは思考が停止していた。在りえなかった。デクを見た時もそうであったが、もし自分たちが負傷してなくとも、難を逃れる事は難しいと思われる敵がこうもアッサリ地面にひれ伏してしまったのだから。

 

 

 そんな火の粉が雪のように、降り注ぐ中で放心状態の3人の目の前に、先ほどの燃え上がっている大刀が降って来て、地面に突き刺さる。

 

 

 

―――スタン。

 

 

 

 更に、刺さった大刀…『狼襲』の柄の上に誰かが着地した。

 

 直径が30mmほどしかない、円筒の柄の上に器用に着地した者は折っていた脚を伸ばし、その場に立ち上がる。そして、やっとその者が可笑しな……見慣れない恰好をしている、自分達より少し上くらいの青年だという事が分かった。

 

 その者が着ている、銀色のノースリーブ系のアンダーウェアと武器を振るのに邪魔にならない程度の長さの“重そうな”振り袖。そして、『狼襲』に纏っていた灼熱の炎が撒き散らす火の粉とそれらを太陽の光を反射させる。

 

 そして、青年は合唱の指揮を取るかのように腕を軽やかに上に掲げる。

 

 

―――その火の粉はまるで不死鳥が、舞う際に落とした火の羽根のように舞い落ちる。

 

 

 

 青年が、顔を上げる。

 

 

 

―――その服が放つ光は神々しかった。

 

 

 

 青年は敵を見据え、恥じる事無く高らかに宣言する。

 

 

 

―――それら全てが、私たちの瞳に彼を。

 

 

 

「降臨……満を持して…」

 

 

 

―――幻想的に映させた。

 

 

 青年が勝気な笑みを浮かべ、敵を見下すような視線でデクと張宝を見ていた。

 

 

「…って、あいつは!?」

 

 

 更に楽進が青年の顔を見て赤面し。

 

 

「あ~!?あん時の」

 

 

 李典が驚愕してスットンキョな声を上げ。

 

 

「………ゴメンナサイナノ、ゴメンナサイナノ、ゴメンナサイナノ、ゴメンナサイナノ、ゴメンナサイナノ、ゴメンナサイナノゴメンナサイナノゴメンナサイナノゴメンナサイナノゴメンナサイナノゴメンナサイナノォォォォッ!!!」

 

 

 于禁が、またもゴメンナサイを連呼していた。

 

 そして、秋蘭と季衣もその顔を見て顔を綻ばせて、青年の名を呼んだ。

 

 

「北郷!」

 

「兄ちゃん!」

 

 

その声に一端、秋蘭達の方を見た。怪我や切り傷は、あるモノの無事である事を確認すると、安心したような優しげな眼をしていた。

 

そして、再び張宝の方に向き直り、挑発するようにその場に削ぐはない軽いノリで声を掛けた。

 

 

「さて?俺の事を呼んだかい、美声の歌姫?」

 

 

 

―――戦いはここから始まる―――

 

 

〈12章―終―〉

 

 

 ――― 謝  罪 ―――

 

 

 更新が最近遅くてすみません。

 

 更に文章構成が下手な為に、まだ魏の三羽烏編が終わりません。

 

 次回でも終わらない気がいたします。長い目で見届けてください。

 

 

 


 
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