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ラブライブ! ~音ノ木坂の用務員さん~ 第15話

ネメシスさん

15話です

2020-01-27 13:39:18 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:714   閲覧ユーザー数:713

 

 

今日は珍しくアイドル研究部の活動は休みらしく、仕事が終わった後、俺はぶらぶらとアキバを散策していた。

思えば、こうしてゆったりと散策なんてするのも久しぶりかもしれない。

大学で卒論の発表が終わり、卒業までわりかし暇を持て余していたあの時期以来だろうか。

前の仕事を始めてからは、いろいろと余裕がなくて休日に落ち着いて出歩くことも減っていたし。

音ノ木坂ではようやっと仕事にも慣れてきて、気持ちに余裕が出てきたのもつい最近のことだ。

 

「……んー、結構見知った店も減ってる、かな?」

 

昔あった店が取り壊しになっていたり、聞いたことのない名前の店が出来ていたり、店自体は変わってなくても外装が新しくなっていたり。

普段歩いている道でも、ゆっくり見てみると色々な気付きがあるものだ。

とはいえ昔ながらの店というのも、中々しぶとく生き残っているらしい。

俺がまだ学生の時に、友達と一緒によく通っていた食堂がまだ残っているのを見つけた。

あそこは学生向けを意識しているのか値段がちょっと安くて、気前よくご飯を大盛によそってくれたおっちゃんが営んでいた店だ。

あのおっちゃん、まだ元気でやってるのだろうか。

今度、久しぶりによってみよう。

 

「お? へぇ、流石はアキバ。こういう店もあるのか」

 

最近できたのだろう、真新しい店構えのスクールアイドルショップという店を見かけて足を止める。

近年スクールアイドルが流行り出して、こういうスクールアイドルの専門店も色々なところにできているらしい。

μ'sに関わるようになってから、以前よりもスクールアイドルというものにも関心が湧いていたし、どんなものがあるのかちょっと立ち寄ってみるとしよう。

 

「すっげぇ、いっぱいあるなぁ」

 

ショップの中に入ると、棚に壁に天上にと、どこを見てもスクールアイドル関連のグッズばかり。

アイドル研究部の部室にもグッズはかなり置いてあったけど、流石に専門店は品揃えが比べ物にならない。

他の客も結構いるようで、人にぶつからないように気を付けながら店内を進んでいく。

 

「……あれ? これってμ’sの?」

 

少し広めに空間を取った棚と棚の間のところに、「最近の注目アイドル!」といった感じで我らが音ノ木坂のスクールアイドル、μ’sのグッズが置かれていた。

 

「缶バッチに、団扇に、Tシャツ、それにCDもあるのか」

 

売り切れてしまったのか、CDのところは空になっているけど。

それにしても、いつのまにこんなグッズなんて作られていたんだろう。

 

「お客様、μ’sのCDをお求めですか? 申し訳ありませんが、只今在庫がございません。明後日には入荷しますので、もうしばらくお待ちいただきたく……」

 

「え? あ、あー、そうですか」

 

近くにいた店員が話しかけてくる。

ただのウィンドウショッピングのつもりだったのだが、じっと見ていたせいか勘違いされてしまったようだ。

そもそも同じ音ノ木坂にいるのだし、どうしても欲しければCDくらい直接もらうことはできる。

というか俺の場合、μ’sファンクラブの方にも入っているわけで、そっちでは未公開の曲が入ったCDもヒデコちゃん達から貰っている。

それなのにわざわざ店で、金を出してまで買う必要なんてないだろう。

それにしても、いつから並べられていたか知らないが、在庫がなくなるほどに売れているとは。

そう言えば少し前に絢瀬さんがネットにアップロードしたというμ'sの動画を見たけど、まだ1ヶ月も経ってないのに再生数が結構すごいことになっていた。

きっと今頃は、もっと伸びてるのだろうな。

彼女達の顧問として誇らしい限りだ。

 

「? お客様、どうかされましたか?」

 

「……え?」

 

どうやら顔に出てしまっていたらしく、店員に訝しげに見られてしまった。

 

「い、いや、なんでもないですよ! そ、それでは、俺はこれで!」

 

「あ、はい。またのご来店をお待ちしております」

 

その後、これ以上店員に変な目で見られる前に、俺は愛想笑いをしながら店から出た。

 

「ふぅ……あぁ、風が気持ちいい」

 

店の中では人が多かったからか少し熱がこもっていたようで、外に出た時に体に受けた風が少し心地良かった。

まぁ、夕方とはいえ、まだまだ外も暑いことに変わりはないけど、室内より風のある外の方がまだましというやつである。

 

「喉も乾いたし、どこかに寄っていこうかな」

 

少し辺りを見渡してみる。

近くに見えるのはアキバということもあって、メイド喫茶がちらほら。

 

「……メイド喫茶ねぇ」

 

以前、テレビでアキバのメイド喫茶について紹介されていた番組を思い出した。

正直、あの手の店で出てくるものは「値段の割にあまり」という印象があり、今まで見かけても入ることはなかった。

そもそもそこまでメイドが好きというわけでもないし、それに普通の喫茶店と違って入るのがなんだか恥ずかしかったし。

 

「まぁ、何事も経験か。せっかくアキバにいるんだし、一度くらいは行ってみるのもありかもな」

 

しかし今回に限り、ちょっと入ってみようかという考えに至った。

さっきまでスクールアイドルショップに堂々と入ってた時点で、他人から見たらどっこいどっこいかもしれないという考えが浮かんできたからだ。

今の俺は、以前からあったメイド喫茶に入る事への抵抗感がだいぶ下がっていた。

メイド喫茶というのがどんなものなのか見学して、飲み物とちょっと早いが夕飯を済ませて帰るとしよう。

流石にそれくらいなら、そこまで額も大きくなることはないだろう。

 

「えぇっと、どこにするかなぁ……ん、あそこでいいか」

 

周囲を見渡し、近場のメイド喫茶に入ることにした。

そこは奇しくも、さっき一番最初に見つけたところであった。

こういうのも一期一会というやつだろうか、もしかしたら何かしら思いがけない出会いがあるかもしれない。

そんな淡い期待を抱きつつ店に入る。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

 

「お一人様でしょうか?」

 

店に入った瞬間、待ってましたと言わんばかりにすぐに声が飛んでくる。

元気のいい声だなと思いながら肯定するため口を開き……

 

「……何してんの、君たち?」

 

「「……あ」」

 

口から出てきたのは全く別の言葉だった。

メイド服に身を包み接客する、見覚えのある二人のメイドさんに呆気に取られてしまう。

二人のメイドさん……高坂さんとことりちゃんが、俺を見て「しまった」というような表情を浮かべて、席へ案内するポーズをとったままそこで固まっていた。

どうやらあったらしい、思いがけない出会いってやつが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず奥の席に案内されると、なんとアイドル研究部の皆が勢ぞろいしていた。

厨房からやってきた、これまたメイド服を着た園田さんも加えて話を聞くと、どうやら今度このアキバでライブをすることになったらしく、その歌詞作りの一環としてこの街の事をもっとよく知るために、高坂さんと園田さんがしばらくここで働くことになったのだとか。

元々ことりちゃんがメイドのバイトをしているところらしく、ことりちゃんも伝説のメイド? ミナリンスキー? とかいうので、ここらでは結構有名だとかなんとか。

 

「……てか、伝説のメイドって何さ。いや、確かに似合ってはいるけども」

 

小さく呟いてチラッと見ると、ことりちゃんは会計をする客の対応をしていた。

その接客ぶりは丁寧で笑顔もいつものように自然体、動きも軽やかでぎこちなさが微塵もない。

同じメイド服を着ている高坂さんや園田さんと比べても、大分着慣れている感じがする。

元々その素質があったのか、メイド服を着て接客をすることりちゃんは素直に似合っていると思えた。

 

「……ん? ふふっ♪」

 

俺が密かに観察していることに気づいたらしく、ことりちゃんはニッコリと笑顔を向けてくる。

 

(……まぁ、人気が出る理由もわからなくはない、かな)

 

ことりちゃんは時間をかけることなく接客を済ませてこちらに戻り、空いているところに座る。

周りを見ると客は離れたところに2人ほど見えるくらいで、その客も他のメイドさんが対応しているようだ。

 

「それで、直樹お兄さん。できれば、ここで働いてることはママには内緒にしてくれませんか?」

 

「え? いや、それは別にいいんだけど……」

 

答えながら疑問に思う。

うちの学校、別にバイト禁止じゃなかった気がするのだが。

まぁ、ことりちゃんのことだし、知られたら恥ずかしいからとかそんな感じだろう。

小鳩さんの場合、ことりちゃんがメイドをやってるなんて聞いたら、客としてことりちゃんの働きぶりを観察しに……というか遊びに来そうだし。

あの人も、結構親バカなところあるし。

 

「よーし! それじゃぁ、せっかく直樹さんがお客さんとして来てくれたんだし、精一杯おもてなしするよ!」

 

話はまとまったということで、高坂さんが勢いよく立ちあがってやる気を露わにする。

 

「ご主人様! ご注文は何になさいますか!」

 

「せ、生徒にご主人様って言わせるとか……高坂さん、なんかすごい悪いことしてる気分になるんだけど、できればいつも通りで……」

 

「もう、直樹さんは固いなぁ。ここはメイド喫茶だよ? それで私達はここのメイドさんで、直樹さんはお客さんなんだから、ご主人様って呼んでも全然おかしくないよ!

……あ、それより!」

 

「な、なんだ?」

 

高坂さんがズイッとジト目で近寄ってくる。

 

「前から気になってたんだけど、そろそろ直樹さんも私たちのこと名前で呼んでくれてもいいんじゃない?」

 

「……そ、そうか?」

 

「そうだよ! ことりちゃんのことは普通にことりちゃんって呼んでるし!」

 

「それは昔からの付き合いで、小さい頃からそう呼んでるからであって」

 

「それにヒデコたちのことも、名前で呼び合ってるんでしょ?」

 

「……えぇっと」

 

学校でヒデコちゃん達と話してるのを聞いたのだろうか。

まぁ、彼女たちは俺のことを名前というか、渾名で呼ぶけど。

個人的にはやはり顧問とはいえ距離感は考えないとと思っているのだけど、ヒデコちゃん達の時もそうだったけど、本人がそう呼んでほしいというのなら呼んでやった方がいいのかもしれない。

 

「じゃぁ……穂乃果ちゃん?」

 

「……おぉ、なんかちょっとうれしいかも!」

 

希望通り名前で呼んでやると、穂乃果ちゃんはちょっと目を見開いて驚いたような表情になったが、少ししていつものように笑顔で隣のことりちゃんに抱き着いた。

それを見ていた園田さんは、やれやれと呆れたように穂乃果ちゃんに言う。

 

「もう、大げさですよ、穂乃果?」

 

「だってぇ、なーんか直樹さんって私たちに壁っていうのかな? そういうの作ってる感じがしてて、ちょっと不安だったんだもん!」

 

「え? お、俺、そんな感じしてたのか? えっと、ことりちゃん?」

 

「うーん、どうだろう? 私はそこまででも……あ、でも、ヒデコちゃん達と話してる時よりは、少しだけ他人行儀な気はしたかな?」

 

ことりちゃんが少し考えてから、ヒデコちゃん達のことを比較してそう答えた。

俺としてはそこまで彼女たちとことりちゃん達に、差を作ってる気はなかったのだけど。

むしろ生徒たちに対して、なるべく平等に接するようにしてきたつもりだ。

確かに俺も仲良くなって多少の贔屓目で見てしまう子がいないとは言えないけど、それでも不安になんて思われるほどの差を作ってるつもりなどなかった。

 

(……あぁ、そっか。片桐先生っていう例があるから)

 

どうしてこうなったのか考えてみて、前に片桐先生に顧問を辞められたことが原因ではないかと思い至った。

片桐先生と俺が話していたあの時、その会話を穂乃果ちゃん達2年生組は影で聞いていた。

あの後、皆の顧問を続けることはちゃんと伝えたはずだ。

それでも、もしかしたら俺も片桐先生と同じようにいつか顧問を辞めてしまうのではと、心の片隅にでも考えてしまったのかもしれない。

 

「ジー」

 

そう考えていると視線、というかわざわざ口で「ジー」なんて言う声が聞こえてきた。

見ると、星空さんが期待に満ちたような目で俺を見ている。

自分も名前で呼んでくれと、そう言いたいのだろう。

 

「……一応聞くけど、みんなも穂乃果ちゃんみたいに名前呼びでいいのか?」

 

もしかしたら俺に名前で呼ばれるのが嫌な子もいるかもしれないし、念のため皆に確認を取る。

穂乃果ちゃんがいいというから他の皆も、というわけにはいかないのだ。

 

「はーい! 凛も名前で呼んでほしいにゃ!」

 

「わ、私もそれでいいです」

 

「好きに呼べばいいんじゃない?」

 

「にこはぁ、可愛いく、にこにーって呼んでくれた方がうれしいけどー? ……でもまぁ、最初は照れちゃうだろうし、にこちゃんって呼んでいいわよ」

 

「うちは変な呼び方じゃなければ、別になんでもええよ?」

 

「ふふ。今更そんなこと気にする子は、うちにいませんよ。直樹さんの呼びやすいように呼んでください」

 

誰か一人くらい反対する子がいるんじゃないかなぁと思っていたら、どうやら全員問題ないらしい。

それならば俺が今更、距離感がどうとか馴れ馴れしいと思われるのではとか考えるのも筋違いだろう。

 

「……あぁ、わかった。それじゃ、これからは皆のことは名前で呼ばせてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして、俺は一足先にメイド喫茶を後にした。

他の子達はもう少しだけ遊んでいくらしい。

あまり遅くなりすぎると補導の対象になりかねないし、一応注意だけは促しておいた。

たぶん大丈夫だとは思うけど、気をつけてほしいものだ。

 

「……はぁ、それにしても楽しかったな。というか俺だけが楽しんだわけじゃないよな?」

 

今更ながら少し不安になる。

あの後、ことりちゃん達3人のメイドさんによる、おもてなし大会なるものが開かれた。

誰が一番メイドとして、ご主人様(俺)をおもてなしできるかというものだ。

他にも周りにたくさんご主人様(絵里ちゃん達)がいたのだが、周りは観客に徹するらしく面白そうに見ているばかり。

ことりちゃん達を見てるならまだよかったのだけど、おもてなしにどういう反応をするのかと俺の方もジッと見てたものだから、まるで動物園のパンダになったみたいで居心地が悪かった。

なお、俺含めて観客たちによる最優秀メイド賞は、ことりちゃんに送られることになった。

流石は普段からメイド喫茶で働いているだけあるというべきか、それともこれこそが伝説のメイドの底力というやつなのか。

……というか元々は作詞ためにバイトをしているわけだし、俺が混ざったことで彼女たちの主旨がずれてなければいいのだけど。

 

話を聞いたところによるとライブをするのは平日で、学校が終わった後にアキバに来てやる予定らしい。

何か機材とかで準備するものがあるなら、学校の公用車を使って運搬くらいはするつもりだったのだけど、ことりちゃんがこのメイド喫茶の店長に掛け合って機材を借りれることになったという。

しかも場所もこの近くでやるそうで、台車を使えばすぐ持っていける程度だから問題ないといわれた。

やる事があんまりなくて、ちょっと顧問として情けなくなってくる。

せめて当日は運搬なり機材の設置なりと、ファンクラブの一員として手伝うとしよう。

 

「……あ」

 

少し歩いた所でふと立ち止まる。

忘れ物をしたとかそういうのではなく、今更ながらにあることに気が付いたからだ。

俺は震える手でポケットに手を入れて目的の物を取り出す。

 

「……金、使いすぎた」

 

すっかり軽くなってしまった財布に目を落とし、ガクリと肩を落とした。

あまりにも楽しい時間だったから、調子に乗って皆にちょっとかっこいいところを見せようとして高い物を注文したり、皆に奢ったりして予想以上にお金を使ってしまった。

 

「くっ! これが世のオタクたちが通い詰めるほどの、メイドの力ってやつか!」

 

アキバのメイド、思っていた以上に侮りがたい存在らしい。

しかし一番恐ろしいのは、そのトップにいる伝説と言われるメイドの中のメイド。

ミナリンスキーこと、ことりちゃん。

次はこうはいかないと、俺は次の再開に向けて決意を新たにするたにする。

 

……いや、流石にもう行かないけど。

 

 

(あとがき)

今、何月何日の設定なのか自分の中でもわからなくなってきてます。

15話まで来てますけど、全然話し進まず、「あれ? 今まだ夏の話しだっけ?」、と。

ネットで出ているラブライブの時系列を参考にはしていますけど、あくまで参考程度。

μ's内で「先輩後輩禁止」となってたりと、そこら辺はすでに結構いい加減になってます。

 


 
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