襲撃の夜が明けて、翌日。
夜襲を受けた際、総大将である袁紹の殺害を阻止することはできたが、それによって受けた袁紹軍の被害はとても軽視できるものではなかった。
一刀達は本陣の再構築を手伝いながらも、自分達の行軍の準備を行った。
【華琳】「桂花、先鋒のうごきは?」
【桂花】「は。現在は未だ静観しているようです」
【華琳】「そう…………」
華琳は桂花から答えを聞くなり、前方の汜水関を眺めた。
【華琳】「……旗は既に無い…。どうみるべきかしらね」
【桂花】「撤退したのか、あるいはこちらをおびき寄せるための策か……いくつか考えられるものはありますが」
【華琳】「どれも行動を起こすには一手足りない…ということね」
華琳が呟いた時、伝令の一人が、その場に駆け込んできた。
伝令が伝えた内容は、劉備軍が動き出したというもの。
【華琳】「へぇ……。馬鹿なのか大物なのか…。あるいは敵の動きを知っているのか。」
華琳は一刀に向けるような、嫌な笑いを浮かべる。
~劉備軍~
動きの無い汜水関を静観し続けていた劉備軍だが、諸葛亮、鳳統の進言により、静寂は破られた。
二人の言葉は同じくして、前にある砦は空城であるというものだった。
たしかに既に立てられていた旗は無く、城内は静かなものだった。だが、それだけでは納得いかない者も多く、愛紗―関羽などがその筆頭である。
【関羽】「我らをおびき寄せるための罠とも考えられないか?」
関羽の言い分はそういうものだった。
しかし、諸葛亮はきわめて冷静に(本人談)関羽に言い放つ。
【諸葛亮】「張遼さんの襲撃が失敗に終った以上、敵がこの場に残り戦闘を続ける理由はありません。ここで敵が襲ってくるならば、襲撃にあわせてこちらへと突撃をかけていたと思いますし。おそらくは虎牢関で足並みをそろえるために撤退したものと思われます。ですから――」
個人記録並みの長文を話す諸葛亮に対し、愛紗はすこし考え込んだ後に納得をしめした。
【劉備】「朱里ちゃんってばすご~い。よく敵さんの事そこまでわかっちゃうんだね~」
【諸葛亮】「はわわっ……そ、そんな私なんてまだまだでshtっ……あぅ……」
【劉備】「あはは」
賛辞に値する知略を持つが、その持ち主は褒められることに耐性をもっていなかった。
そして、趙雲、張飛、関羽という豪傑三人の軍により、汜水関城門へと突撃がかけられた。
――数刻後。
汜水関は劉備軍の突撃により、その硬い門を開いた。昨日には孫策・馬騰と共に攻撃したにも関わらず、その門に触れることすらできなかった。それに比べ、実に容易く、捨てられた砦は陥落した。
先鋒を任せられた劉備軍が汜水関攻略の一番乗りをあげ、昨日の公孫賛についで、功労を手に入れる。
俺達は相変わらずその様子を眺めながら、前方にあわせて、汜水関へと入城していくのだった。
【一刀】「しかし、ほんとに何もしなかったな。」
【華琳】「あら、初戦は様子見だと伝えてあったでしょう?」
【一刀】「それはそうだけどさ…」
歩む馬上で、俺は不満のようなものを抱えていた。
今回の作戦。動いていないのは俺達と袁術の軍だけ。他の者達はそれぞれの戦いを果たしている。
兵を無駄に出来ないのはわかっている。だけど、それでも。
その不満を抱えているのは俺だけではない。春蘭や季衣などもそうだ。彼女達が行ったことは本陣へ向かい、その修繕を行っただけ。
無理に戦いたいわけではない。だけど、何もせずただ見ているというのが、これほどつらいと思わなかった。
~side薫
汜水関へと入城したあたしたちは、全軍に小休止をとらせていた。
関所ということもあって、中はものすごく無機質なものだった。全てが石造りの城壁で囲まれた中に、小さな城と兵舎が点在しているだけ。
あたしはその中で休んでいる兵達の様子を見ながら、昨日の事を考えていた。
少し前からあった意識がなくなる時間。それは突然現れて、気づいた時には時間も場所も、分からなくなっていた。
昨日もそれが起こって、意識がなくなったのはたぶん、夕食を食べた後。華琳が解散だと言ったあの後からだ。
――自分の服を握るようにつかむ。
考えたところで解決しないのに、自分の中で、自分という認識が薄れていく。
少し前までは、意識を失ってもほんの少しの間だけだった。どんなに長くても一刻程度。でも最近はほぼ一晩まるまる記憶が飛ぶことがある。
以前、医者にも診てもらったことはあるが、病などではないらしい。まあ、はっきり言えば何もわからないんだけど。
怖い。
その三文字が頭の中をよぎる。
自分の知らない、自分がいる。そんな気がして仕方なかった。
――”司馬懿様”
不意に兵に声をかけられる。
何かと思えば、兵の点呼や兵糧の在庫などの報告だった。
うちの軍はけが人が少しでているが、死者はいない。当然だ。戦っていないんだから。
【薫】「ん、いいよ。あんたも休んでおいてね」
確認して、その兵を下がらせる。兵は返事をすると、そのまま駆け足で戻っていった。
兵の姿が消えた後、あたしは深くため息をついた。
【薫】「前の失敗。取り返すって言ったとこなのにな……」
そっと呟く。
【薫】「はぁ……」
またため息。
【薫】「………………………」
少しぼーっとして、思い切り首を振った。
【薫】「ええい!あたしらしくない!まだ、戦が終ったわけじゃないんだから!」
誰かに訴えかけるように叫んで、あたしは背を伸ばす。
【薫】「ん~~~~、よっし!」
とにかくこれから、頑張っていけばいいんだ。今のあたしは華琳の――。
【薫】「軍師……なん…だから………あ…れ…?」
がんばろうと気合をいれた時。
急に目が熱くなった。視界がぼやけて、何かが頬を伝った。
【薫】「あれ……なんで、あたし………」
顔をこすった手は、その何かでぬれていた。
~side一刀
城内とはいえ、ほとんどここでは野営と変わらない。天幕を張り、その中で寝食する。それはここを落とす前と
何も変わらない。
しかしだ。何もここまで同じである必要は無いだろうと思うわけである。
【琥珀】「…………モグモグ」
【一刀】「何故に俺の天幕で飯を貪っておるか」
【琥珀】「飯くれるって約束。」
【一刀】「一回じゃねーのかよ!」
【琥珀】「だめなのか……?」
う……。なにやら瞳を潤ませてこちらを見つめてくる。捨てられた子犬を思わせるように、見上げる。
【一刀】「い、いや………そこまでだめって訳でもないんだが、やっぱり勝手に材料使『…………モグモグ』…聞け
よ!!」
離している間に子犬は既に飯に夢中になっていた。
【琥珀】「こはくにご飯くれないと……………泣くぞ」
【一刀】「お前さりげなく嫌がらせだよな、それ」
琥珀に泣かれるとか、俺の完全アウェー状態が容易に目に浮かぶ。まだ桂花を泣かすほうがいくらか同情しても
らえる余地はあるかもしれない。
【琥珀】「泣くか……斬るかだ」
【一刀】「その二つを天秤にかけて傾かないところが不思議だよ」
【琥珀】「ふ…………」
【一刀】「勝ち誇るなっ」
無い胸を張り散らす琥珀。
【一刀】「はぁ…………」
俺は椅子にすわって、いまだ食べ続ける琥珀のほうをみる。ほんとにこの小さい体の何処に入っているか怪しく
なるほどよく食べる。
まぁ、季衣ほどではないんだが。
モフモフと口に運んでいるのは俺が食べるつもりだった炒飯。
レンゲっぽいものでせっせと食べ続けている。
【琥珀】「………………。」
眺めていると、突然琥珀が手をとめた。
【一刀】「お、もういいのか?」
【琥珀】「見られていると、食べにくい」
【一刀】「……………へ?」
琥珀の顔が急に赤くなった。………ような気がした。
【一刀】「――あはははは」
【琥珀】「む………笑うな~」
【一刀】「あはははっ……いや、悪い悪い。お前のそんな顔初めてだったからつい」
出会いのときからして、ものすごく印象の強いやつだったけど、実際こういう風に赤くなったり怒ったりするところはあまり見たことが無かった。
【桂花】「ちょっと、うるさいわよ」
笑っていると、桂花が天幕の扉(布製なので扉といっていいかはわからないが)を開けて、顔を覗かせている。
【一刀】「桂花?何か用か?」
【桂花】「何か用かじゃないわよ、馬鹿。下品な笑い声が外まで響いていたから注意しにきたのよ」
【一刀】「下品って…………お前にはあんまり言われたくないぞ」
【桂花】「な――あんたを下品といわずして誰を下品というのよ!」
【一刀】「声、うるさいんだろ」
【桂花】「~~~っ!」
なんだか、勝手に逆上し始めたぞ。
【一刀】「あぁ…分かったから、俺が下品でもいいからとりあえず落ち着け。」
【桂花】「その態度が猛烈に腹立たしいわ…」
俺にどうしろってんだよ。
【琥珀】「モフモフ」
【一刀】「動じないな、お前………てか、まだ食ってるのか」
ハムスターのように少量をちまちま食べるタイプらしい。
【桂花】「………はぁ。もういいわ。とにかく兵の士気にも関わるんだから、あまり騒がないで。」
【一刀】「ん、わかったよ」
桂花は入ってきた入り口から、外へでていった。
【一刀】「ふぅ………嵐だな。もう」
【琥珀】「…………一刀」
【一刀】「うん?」
【琥珀】「………おかわりくれ」
【一刀】「お前は人の話を聞けよ」
~side華琳
【春蘭】「華琳様。全兵の入城を完了しました。」
【華琳】「そう、お疲れ様。春蘭」
ひとまず、汜水関の攻略は完了した。
夜襲には驚かされたけれど、公孫賛の対応もあって、乗り切った。やはり天はこちらに向いているのかもしれな
い。
兵たちに休息を取らせた後は、虎牢関へと進軍する。今度は見ているだけという風にはいかないだろう。
【華琳】「さて、秋蘭がもどったらお茶にしましょうか。春蘭」
【春蘭】「はい!」
元気よく返事をする春蘭。どんなに不安があっても、この子と話せば落ち着くのだから、不思議なもの。
――不安というのは、薫の事。何もない、ただの体質。そう言っていたけど、ならばこの不可解な感じはなにか
しら。一刀も何も知らないといっていた。あの愚直なほどまっすぐな男がそうそう嘘をつけるはずも無い。
だけど、考えれば考えるほど、その答えが見つかるという考えが弱まっていく。
【春蘭】「………華琳様?」
【華琳】「………え?」
【春蘭】「お休みになられないのですか?」
【華琳】「え、ええ、そうね………。行きましょうか」
思考にふけっている間に声をかけられる。隙を見せるなんて、疲れているのだろうか。
二人で天幕へとはいり、しばらくして秋蘭もやってきた。
さきほど言っていた通り、茶をだし、一息つく。
次は虎牢関。汜水関よりも厳しい戦いになるはず。―――今は休んでおかないと。
<おまけ>
さて、ながーい洛陽編もとりあえず半分まできました。
今回はおまけというか、今更デスガ、オリキャラの設定でも書いとくかと。
ページ数稼ぎたいわけじゃないですよ!?
まず、メインヒロイン。
姓:司馬 名懿 字:仲達 真名;薫
性別:女
和兎の前作「覇王の願い・星詠編」の元主人公。
カヲルソラでは、前作で消えてしまった星詠としての人格と、カヲルソラでの司馬懿仲達としての人格の二人が存在します。
主に星詠がでてくるのは夜限定。仲達は昼間と星詠の薫が出てこない夜という風になります。
星詠のほうは薫の存在を認識していますが、薫のほうは何も知りません。
星詠の力は、現在と過去の事実及び思考・記憶の認知です。
誰が何処で、何をして、何を考えたかなどを知ること。それ以外にも、何が起きたか等、その外史内においてはほぼ全知といえます。
それから、当然ですが、星詠と司馬懿で一人称が違います。
星詠⇒「私」
司馬懿⇒「あたし」
ってかんじです。
さて、薫は以上で、続いてカヲルソラ2章からのオリキャラ。
姓:曹 名:仁 字:子孝 真名;琥珀
性別:女
主に一刀との絡みを考えて生まれた子です。
薫以上にフリーダム。普段はほぼ欲望に従って行動するタイプです。
愛紗とは肉親ではなく、いわば幼馴染。昔は愛紗を姉のように慕い、「愛紗姉」と後ろを追いかけていたが、ある日、賊に自分の村が襲われ、そのときに愛紗とはぐれ、賊に犯されてしまう。
そのときのショックと、その後拾われた曹家での仕打ちが原因となり、人格が不安定になる。また、若干の男性恐怖症を持つ。
武力は春蘭とほぼ同程度。状況により勝ったり負けたり。
相手の意表をつくような戦い方の「攻」と、ほぼ守り一辺倒の「護」の二通りの戦い方をする。
自分のことを「曹仁」とは認めず、常に名乗る時は誰にでも真名を名乗る。同じ理由から一人称は「こはく」。
相手の事はよほど認めない限り、名前では呼ばない。
以上です!
ちなみに予告しておくと、3章…というか、洛陽編の次の章に入ると、もう一人、敵キャラですが、オリジナルがでます。てか、洛陽編でもちょっとでましたけどね。
なんかオリジナルばっかり増やしてますね。。。すみません(´・ω・`)
次のページにあとがきです!
<あとがき>
えー、だらだらすいませんw
おまけもあるのでさくっといきます。
とりあえず今回で洛陽編半分ですので、次回辺り少し、拠点を挟もうと思ってます。
なんせ長いので、一刀の種馬要素を出す機会がここを逃すとこの先かなりなくなっちゃいます(´・ω・`)
つーわけで、落とした敵拠点でなにしてんだよ!的な状況になりますが、アンケとりたいと思いますので、またご協力いただけると嬉しいです。
以下のキャラの中から………また4人でいいかな?
選んでいただけると!
1.薫 2.華琳 3.琥珀 4.春蘭 5.秋蘭 6.桂花 7.季衣
えーと、役満姉妹と三和鳥については居残り組ですので、洛陽平定した後まで拠点はありません。
この辺は作者の好みと力不足によるものです。。。
ちなみに、前回選ばれていた薫・華琳については二回目となりますので、前よりは甘くいけるかもしれないです。
期限は一応火曜日(10/20)までにしときます。
ではでは、今後もヨロシクお願いします(`・ω・´)
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薫る空34話です。
汜水関その4。
これで攻略~といっても戦闘があるわけではないですが(´・ω・`)
本編の後におまけとあとがきもあります。