No.1016420

フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~ ep22

コマネチさん

本年度もよろしくお願いします。色々考えて作っていたら時間がかかってしまいました。

2020-01-18 22:53:55 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:765   閲覧ユーザー数:760

――イベント参加のFAGの呼び出しです。マガツキ型のマキさん。マスターの信道駿さんが……――

 

 滞りなくバトル大会への申請も終わり、駿(以下シュン)の相方のマガツキ型を待つのみとなった。

 

「すいません。一緒に待ってもらって……」

 

 海の家のテーブルの一つを皆は囲み、眼帯をつけた幼い少年は萎縮しながら頭を下げた。

 

「気にすんなよ」

 

「所でシュン君はバトル大会は一人で出るのかい?」

 

「はい……。マスターはサポート用のメカで出られますから」

 

「それにしても待ってるの暇じゃないぃ?一緒に食べて待とうよぉ」

 

 と、そんなヒカル達に輝鎚が割って入ってくる。突然の事に「ふぇ?!」とシュンは狼狽する。今の輝鎚の手にはラーメンの丼ではなくかき氷のグラスが握られていた。

 

「輝鎚、だから無理に食べさせようとするなって」

 

 そんな輝鎚を加賀彦が止める。

 

「でもさぁマスター、アーキテクトがお腹壊しちゃったからまた一人になっちゃって寂しいゆぉ」

 

 やや離れた場所で、椅子に座ったアーキテクトが渋い顔で休んでいた。

 

「アーキテクト。大丈夫?」

 

「マスター……申し訳ない。想定できたのに……」

 

 付き添う大輔に対して申し訳なさそうな顔でアーキテクトは答えた。アーキテクトが冷たい物を食べ過ぎた所為である。

 

「いいって別に、僕の方はバトル大会には出るつもりはなかったし、まぁ出来れば大会を一緒に見たいかな」

 

「同意。私もマスターと一緒に大会を見たい。それまで完全治癒の確立……64%。しかしマスターの為ならそれを100%に……」

 

「無理しないでよ」

 

「アーキテクトもすぐお腹一杯になっちゃうんだにぇ。あたしも同じの食べてるけど全然平気なのにぃ」

 

「……お前さっきまでアツアツのラーメン食べまくってたのに、今はかき氷で腹大丈夫なのか?」

 

 熱い物ばかり食べた後に冷たい物だ。人間ではない上にこれは仮想空間だと解ってはいるがお腹の調子が心配になる。

 

「んぅ?別に平気だよマスター。大会は轟雷とあたし出るから、今の内に食べてエネルギー溜めておかないとぉ」

 

「ブラックホールにでもなってるんですかあなたのお腹は……」

 

 と、そんな話をしてる時だった。

 

「ヒカル君?やっぱりヒカル君だ!」

 

 店内に聞き覚えのある女性の声が響く。その声の主は。

 

「あれ?玄白さん?」

 

 初めに黄一が反応する。ツインテールで白ビキニを着た少女がそこにいた。クラスメイトの玄白朱音である。

 

「わぁ奇遇!さっき受付で見かけたけどやっぱりだ!」

 

 嬉しそうな感情を込めた声を上げてヒカルに駆け寄ってくる少女。

 

「ん?ヒカルの彼女かい?」

 

 会った事のない蓮は素直にそう思う。その質問にヒカルは戸惑いながら答える。

 

「ち!違うよ蓮!ただ同じクラスメイトってだけでそんな関係じゃ!」

 

「そうですよー。ただのクラスメイトですよ私はー」

 

 戸惑うヒカルに反して朱音の方は満更でもなさそうな反応だった。彼女扱いが嬉しいと言った所か。

 

――あの反応からして、とりあえずヒカルの方に脈はないな……――

 

 それを面白くなさそうに見る黄一、朱音がヒカルをどう思ってるかは容易に予想できた。

 

「……ていうか玄白さんもこのイベントに参加してたんだ」

 

「黄一君、うん、さっきのバトルイベントに参加申請しようとしたんだけどね。その時にヒカル君達を見かけて凄い奇遇だって思ったんだ」

 

「クリスマスの時のお姉さんですね。その節はどうも」

 

 轟雷も朱音の事は覚えていた。挨拶を交えると朱音も轟雷の事は覚えていたらしい。

 

「この間の轟雷だね。いいなぁ。私もモモコちゃんを会わせたかったんだけど……」

 

 モモコちゃんというのは朱音が持っているというFAGだ。このイベントに参加してるという事は当然連れてきてるという事になる。

 

「いなくなっちゃったんですか?」

 

「うん……ついさっきまでいたんだけどね。そういうわけで私もここで待っていいかな?ここで会ったのも何かの縁だし」

 

 断る理由もない。ヒカル達は朱音を加える事になる。

 

「そういえば、モモコちゃんという名前は聞きましたけど、FAGの種類はなんですか?」

 

 轟雷が問いかける。以前から聞いた『モモコ』という名前。気になっていはいた。

 

「え?そういえば言ってなかったね。白虎型だよ」

 

『!?』

 

 ヒカルと黄一、轟雷が固まった。この間してやられたのも同じ白虎型だからだ。まさか例の白虎のマスターは彼女か?と思い問いかける轟雷。

 

「……どういう性格の子なんですか?」

 

「やさしい子だよ。普段強がってるけど本当は凄い繊細で優しい子なんだ」

 

 自慢げに朱音は答える。まるで自分の子供を自慢する母親の様にも見えた。

 

「優しくて繊細ですか……じゃあ別人ですねマスター!」

 

「へ?別人?」

 

 轟雷の言ってる事が解らず朱音は困惑する。慌てて黄一が説明をする。

 

「こら轟雷、あー……轟雷の奴少し前にバトルで白虎型にやられてな」

 

「いやヤンキーみたいで、とても優しいとは言えない奴でしたよ。調子こいた小悪党って感じの奴ですねー」

 

 かなり轟雷の主観が入った意見である。

 

「そうなんだ。轟雷ちゃんはそのリベンジに燃えてるってわけだね」

 

「その通りです!その準備もある程度煮詰まってきたんで今回のバトル大会では予行練習と言うわけですよ!朱音さんの白虎は強いんですか?!是非お手合わせをしたいです!」

 

「いきなりそんな事言うなよ。失礼だろうが。ごめんよ玄白さん」

 

 遠慮のない轟雷の態度に黄一はヒヤヒヤだった。朱音の機嫌を損ねてこっちまで嫌われたらどうしようといった黄一の考えだ。

 

「別に気にしてないよ。黄一君の轟雷ってやっぱり可愛いなぁ」

 

 カラッとした態度で朱音は笑いながら答える。轟雷の動作に小さい子供を重ねているわけだ。 

 

「一緒にいると楽しいでしょ諭吉君。私のモモコちゃんは素直じゃない時が多くてね」

 

「え?いやコイツといても疲れるだけだよ」

 

「でもさ。放っておけないんじゃない?」

 

「あぁうん。出来の悪い子程可愛いって言うからかな……」

 

 出来の悪いというワードに轟雷は引っ掛かる。

 

「って何言ってんですかマスター!っていうか朱音さんも何言わせてるんですか!」

 

「えー私は一言も言葉にしてないけどなぁ。フフフ……」

 

 話が出来た事に少しばかり轟雷に感謝する黄一だった。その一方で朱音を腹黒と認定しかねない轟雷である。

 

「ヒカル君のスティレットちゃんも会いたいな」

 

 そう言って朱音は、ヒカルの方に身体を傾けながら言った。

 

「あ、覚えてたんだ。俺がスティレット連れているの」

 

「クリスマスの時に聞いてからずっと覚えていたよ。対戦したいとも言ったでしょ私……」

 

 ヒカルにとっては何気ない一言だった。しかし言いだしっぺの朱音にとっては随分と楽しみにしていた様だ。

 

「……なんだよヒカルの奴……」

 

 そんな二人を黄一は面白くなさそうに見ていた……。

 

 

 と、その時だった。

 

「失礼する。ここに眼帯をつけた子供が……」

 

 刀を持ち、サラシと六尺褌を水着として身に着けた少女が現れる。黒髪ロングの姫カットと頭頂部に結ばれたリボンは全体的に和風な印象を周囲に与えた。マガツキ型だ。

 

「あ、マキ!」

 

 オドオドしていた少年は一転して嬉しそうな声を上げ、褌の少女に駆け寄る。気づいた少女は中腰となりシュンの目線に合わせた姿勢となった。

 

「主殿、ここでしたか」

 

 凛とした表情のまま少女は答える。凛々しい女剣士そのものといった感じだ。なおどうでもいい話だが、締め付けた褌は後ろにTバック状に食い込んでおり、中腰の体勢を後ろから見たら、お尻を突き出してる格好となるわけで非常に際どい。

 

「どこ行ってたんだよー!来てそうそういなくなってさ!」

 

「申し訳ありません。少し考え事をしていまして」

 

「その人、いやFAGが信道君の相棒の?」

 

 健は質問として聞きながら、少女の丁寧な対応に、FAG個人それぞれの行動の違いを感じた。フレズだったら健を見下ろす様な姿勢で答えるからだ。

 

「はい。真姫(マキ)と申します。主殿がお世話になりました」

 

「真姫が勝手にいなくなったんじゃないかー」

 

「信道君、彼女とバトル大会に出るんだな」

 

「わぁ、信道君てば強そうなFAGを連れてるんだにぇ、折角だから、何か一緒に食べなよぉ」

 

 と、輝鎚が相変わらず駿と真姫の二人を飲食に誘おうとする。彼女としてはこの皆で食べる感覚を知って欲しかった。

 

「……結構だ。人間と飲食をするなど無意味だ」

 

「真姫?」

 

 眉間に皺を寄せながら真姫は突っぱねる。不機嫌そうに店内を見回す。

 

「……ここは主とFAGがまるで家族か恋人の様に語らってるな。だがFAGと言えど所詮は機械だろう。人間の真似事など私の趣味ではない」

 

「でも楽しいよぉ?マスターとFAGが今までにない距離感を感じられて新鮮だよぉ」

 

「……私達にとって意味があるとは思えないな。正直、ここの雰囲気は好きにはなれない」

 

「えぇでもぉ」

 

「真姫。駄目だよそんな事言っちゃ、ごめんなさい。ちょっと今機嫌が悪いらしくて……」

 

 謝るシュンに真姫は自分の態度が大人げなかったと判断。

 

「主殿……いえ、どうやら私の方も大人げなかったようだ。すまなかったな」

 

 続けて頭を下げる真姫に、輝鎚はそれ以上言わなかった。若干不満には思ったが彼女はそれを引きずらない。

 

「いえいえぇ、無理強いはいけないってマスターに教えてもらったから大丈夫だよぉ」

 

 見ていた加賀彦もその返しには安心した様だ。

 

「ただここの雰囲気が自分には馴染めないのも事実だ。悪いが私は外に出させてもらう」

 

「真姫……じゃあ僕も外に出るよ」

 

 踵を返す真姫に対してシュンはそれに付き合おうとする。折角のイベントなのに離れてばっかりなのはシュンも嫌だからだ。

 

「玄白さん、ゴメン、FAGを待たせちゃいけないから俺達も戻るよ」

 

「じゃあ私もついて行っていいかな?モモコちゃんは迷子呼び出しでもしとけば大丈夫だから」

 

 シュンが真姫に会えたのならヒカルと蓮も目的は果たした。スティレット達を待たせっぱなしにさせてはいけないからと戻ろうとした。

 

――

 

「すいません。お付き合いしてしまって」

 

「気にする所なんてどこもないぜシュン君」

 

「すいません……」

 

「謝る必要なんてどこにもないんだからかしこまるなよ」

 

 その後ヒカルと蓮はスティレットとグライフェンの所に戻る。大輔とアーキテクトは残り、ついてきたのは轟雷と黄一、健とフレズ、そしてシュンと真姫、そして朱音だ。

 

「主殿、申し訳ありません。ですがあの場所ではどうにも落ち着かないのも事実でした」

 

 もしもシュンがあの場所にいたいというのだったなら、自分のやった行為は早計ではないかと真姫は自分の行動を反省する。

 

「いいよ。真姫がいるのが辛いなら、ぼくも付き合うから」

 

「有難うございます。主殿」

 

 安心した様な表情を出す真姫。常時眉間に寄っていた皺が和らいだ。シュンの方もオドオドした印象はない。心を開いてる相手というわけだ。

 

「……仲良いんですね2人とも」

 

 そんな2人を見ながら轟雷は口に出す。

 

「……特別意識はしてない。FAGなら主に仕えるのは当然の事だ」

 

 真姫は、また眉間に皺を寄せた表情に戻ると轟雷に答える。

 

「私は右目を失った主殿の代わりに目にならなければならない。仕える者なら当然の事だ」

 

「失ったって……」

 

「……失言だったな。忘れてくれ」

 

 轟雷は言葉を失った。真姫の方は余計な情報を与えてしまったかとちょっと後悔。

 

「そ、そんな大袈裟にする事じゃないよ……ぼくにとっては良かったって思う位だよ」

 

「主殿、その話は……」

 

 言おうとしたシュンを真姫が止めた。

 

「人の個人情報に関わる事だ。あまり詮索はしないで欲しいな」

 

「そういうつもりはないですよ。ただ気になったのは事実ですけど」

 

 正直、その場にいた全員がシュンの眼帯に少なからず気になってはいた。しかし失明してると聞いてはそれを聞く事も出来ない。話が重すぎる。

 

 

 そしてヒカル達を待つスティレットとグライフェンの2人は、お互いのマスターとの思い出を語っていた。2人の少女が砂浜に敷かれたビニールシートに腰掛けながら、だ。

 

「それ以来、前のマスターとは会ってないわね……。今更会ったってどうもしないわ。新しく相棒にしてるっていうフセットと仲良くやってるでしょうね」

 

「そのフセットさんも、今は捨てられてしまったかもしれませんね……。そこまでドライなマスターもやはりいるという事ですか……」

 

「でもなんやかんやあって今のマスターと会えたんだから、運命って不思議な物ね……」

 

「私もマスターが怪我を経由して、好きになりましたからそれは解ります」

 

 同じマスターに恋愛感情を持つ者同士だからだろうか。スティレットはどんどん胸中を吐き出す事が出来た。

 

「さてと、そろそろマスター達が戻ってくる頃でしょうね。装備の慣らしでもしておこうかしら?」

 

「お待たせー。スティレットー!」

 

 その時背後から帰ってきたヒカルの声が聞こえた。すぐさま振り向くスティレット。

 

「あ!マスターお帰りなさい!」

 

「わぁ!この子がヒカル君のスティレット?すっごい可愛いね!」

 

 朱音が目をキラキラさせてスティレットの眼前に飛び出す。ガン見してくる少女にスティレットは戸惑う。

 

「っ?!ど!どちら様!?」

 

「家のクラスメートの玄白朱音さんだよ。さっきそこで会ったんだ」

 

「キャー!髪細くって綺麗ー!肌もすっごいきめ細かいねー!うちのモモコちゃんとはやっぱり全然違う感じ!」

 

「ど、どうも……」

 

 褒めてくれる事には悪い気はしないスティレットである。

 

「私もバトル大会でエントリーしたからトーナメントで当たるといいな。……本当はヒカル君とチーム組みたかったんだけどね。イベント参加するって解っていたらなぁ……残念」

 

「?」

 

 残念そうに言う朱音の態度がスティレットは気になった。

 

「うーん、だったら別の時に改めて、大会とかでチーム組んでみるかい?」

 

「えー本当?!その時があったら是非にね!」

 

「折角だから黄一や健君達も一緒に誘った方が……」

 

「えーヒカル君と二人がいいなー……」

 

「いや、皆の方が楽しいでしょ?」

 

 どうもズレた反応を見せるヒカルである。黄一としてはそれが見ていてイラついた。だから張り上げた声で伝えた。

 

「おいヒカル!鈍いなお前!玄白さんはお前をデートに誘ってるんだよ!」

 

「な!何?!」

 

「いや諭吉君デートなんてそんな事ないよー」

 

 慌てるヒカルに照れる朱音、黄一としては朱音に脈があるのに、当の本人のヒカルは鈍感極まりない。彼がモテた試しがないからだ。

 

――え?じゃあスティレットは……?――

 

 それを聞いた轟雷は愕然とした。スティレットがヒカルの事を好きなのは知っていた。しかしこれでは……、スティレットの方を見るや案の定だ。

 

「……」

 

 カタカタと震えてヒカルと朱音をじっと見ている。どんな風に考えてるのは一目瞭然だった。フレズとグライフェンも心配そうな表情でスティレットを見ていた。轟雷と似た様な事を思っていたのだろう。

 

「よっ!ご両人!」

 

「マ、マスター……それ以上は……」

 

 轟雷は黄一にこれ以上言わせてはいけないと止めようとする。と、その時だった。スティレットの声が上がる。

 

「ねぇ、マスタァ……」

 

「スティレット?なんだよ……な!」

 

 なんだと思ってスティレットの方を見るとヒカルは愕然とした。ヒカルに背を向けて、片腕で胸を押さえつつ、トップスを外したスティレットがうつ伏せで寝そべっていく。白い背中が丸出しになっていた。

 

「サンオイル塗ってほしいの。マスターの手で塗ってくれない?」

 

 しなをつくる動作を意識したのであろうが、スティレットに余裕はないらしい。声は上ずっており、表情は引きつっている。顔も真っ赤だ。

 

――スティレット、無茶な事を……――と轟雷。

 

「スティレット!お前どうしたんだよいきなり!」

 

「日焼けしちゃって痛いのよ。これじゃ本調子で大会に出られそうにないの」

 

 問いかけるヒカルに、スティレットは背を向けながら答える。スケベなヒカルといえど、いきなり塗れと言われて塗れるわけでもない。

 

「皆が見てるんだぞ、轟雷に頼めよ」

 

 ヒカルはスティレットの正面に回り込むと座って目線を合わせる。見下ろすヒカルと見上げるスティレット。

 

「……何よ。玄白さんがいるからカッコつけようってわけ?」

 

「そういう意味じゃなくて!」

 

 不機嫌そうに顔をしかめるスティレット、ヒカルはどうにかしてスティレットを落ち着かせようとする。その時だった。

 

「嫉妬か?醜い上に無意味な事をする」

 

「!?誰よ!」

 

 声の主は、マガツキ型の真姫だった。彼女もシュンと共にヒカルの横に立っていた。立ちながらスティレットを見下ろしており、見下してる様でもあった。

 

「大方、主が彼女にデートに誘われるのが面白くないと言った所だろう?」

 

「真姫!駄目だよ!」

 

 シュンは隣りの真姫をなだめようとするが、今度は彼女は聞き入れる様子はない。

 

「そ!そんな事ないわよ!」

 

「だったら普通は主がデートに誘われたと言うのならむしろ喜ぶと思うんだがな」

 

「そんな事……言われなくても解ってるわよ!」

 

 口ではそうは言ったが、あの状況を喜ぶという発想がスティレットには無い。

 

「その結果がその奇行か?まるで自分が主の恋人にでもなりたい様に見えたが」

 

 妙にスティレットに食いついてくる真姫だ。しかし言ってる事は一つ一つがスティレットに突き刺さる。

 

「あぁそうか、要はFAGをデートへのダシにした事が不満と言うわけだ」

 

「!!」

 

 それが引き金だった。頭に血が上ったスティレットはマガツキに食って掛かろうと立ち上がる。なおビキニのトップスは外したままだったので……。

 

「アンタ!!さっきから黙って聞いてれb「み!見るなぁぁ!!!」

 

 直後、顔を真っ赤にしたヒカルが……スティレットの露わになった両胸を左右両手で鷲掴みにした。それぞれの指が少女の柔らかい乳房に食い込む。

 

「ひゃあん!!!」

 

 少年の手ブラに、黄色い声を上げ表情を、怒りから恥辱へ一転させるスティレット。なおヒカルの方は、手の柔らかい感触に一瞬顔がゆるむが、すぐに表情が「どうしよう……」と言いたそうな顔になっていく。……スティレットの方は一瞬醒めた表情になるや、恥辱と怒りが混ざった表情になっていき……、

 

「……」

 

 無言で右手を掲げた。ずっと二人の表情は真っ赤である。

 

――手、離せないな……――

 

 そんな事を思いながら、ヒカルはスティレットの平手打ちを素直に左頬で受け止めた。「パンッ」という乾いた音が響いた。

 

 

――最低!信じらんない!!あの変態!!――

 

 轟雷達が並んで壁になってる後ろで、スティレットは脱いだビキニを再び着る。巡る感情は後悔や怒り、ネガティブな物ばかりだった。

 

「真姫、言い過ぎだよ。謝らないと駄目だよ」

 

 シュンが赤面しながら真姫に言う。一瞬。スティレットのを見てしまったからだ。

 

「……主殿、主殿はさっきのスティレットの見て興奮しましたね?」

 

「え?いやそんな……」

 

 赤面度が上がりながらシュンは答える。脳裏に焼き付いていた。真姫はそれを察すると面白くなさそうに言う。

 

「なら謝るつもりはない」

 

 ピシャリと言い切る真姫。

 

「ア!アンタねぇ!!」

 

 ビキニを着終わったスティレットは真姫の態度に激昂し組み付こうとする。

 

「いけません!スティレット!!」

 

 意の一番にグライフェンが止めようと、轟雷達も続いた。と、その時だった。

 

「立派な格好の割に随分と子供っぽいんだね……」

 

 朱音がそれを遮って、FAG達より先に真姫に食いついた。

 

「貴方は……」

 

 彼女が助け船を出すとは思ってなかったらしく、意外そうな顔になる真姫。

 

「駄々をこねてる子供に見えるよ君」

 

「……異な事を言いますね。あのFAGは貴方に嫉妬をしていたのですよ?」

 

「関係ないね。目の前で口喧嘩なんてやられて見過ごせるわけじゃない。周りを見なよ。皆笑顔だって言うのに君位だよ。ここで不機嫌そうなのは」

 

「その笑顔が私には非常識に見えるのですよ。まるで自分を人間と錯覚しているかの様だ。私には己の一線を踏み越えたFAGを看過する事は出来ませぬ。所詮私達はロボット三原則で動く人形でしかない。こんな空気、不快だ。これを作り出しているFAG達も」

 

「お前……!」

 

 フレズがイラついた調子で食いつこうとする。言いたい放題の真姫の態度や言葉がイチイチ癇に障る。横で見ていた轟雷も同じ。だがそれを朱音が制止する様に冷静に言葉を続ける。

 

「そうかな?だったらどうしてこのイベントから抜けないの?」

 

「それは……」

 

「私には、君がマスターに甘えられなくて腹を立ててる様に見えるけど?」

 

「……!」

 

 ピクッと真姫の身体が硬直する。

 

「ハッキリ聞かせてもらうけど、シュン君の目に関係してるんじゃない?」

 

「!」

 

「説明しろとは言わないけど、せめてスティレットちゃんに謝る位はした方がいいんじゃない?」

 

「真姫……」

 

 シュンが真姫に寄り添う。孤独な少女を慰める様だった。

 

「……嫌だ」

 

「真姫!」

 

「私がただの機械だったら!きっとシュンは失明なんかせずに済んだんだから!!」

 

 一転して泣きそうな顔で真姫は叫ぶ。直後、真姫の身体が一瞬光ると同時に、白いサラシと褌の姿は、黒いインナースーツへと変わる。そして蒼いクリスタルを取り付けた緋色の鎧を身に纏う。正に姫武者と言った真姫の武装だった。そのまま真姫は両肩のバーニアを吹かすとその場から逃げる様に飛んでいく。

 

「くぅっ!」

 

 ジェット噴射から巻き上がる砂塵を防ぐべくその場にいた全員が身構える。その隙に真姫はそのまま飛んでいった。

 

「……無茶するなアイツ」

 

「その!ごめんなさい!真姫の奴、失礼な事を!」

 

 即シュンがスティレットと朱音に頭を下げた。真姫の事は不愉快ではあったが、マスターがこうも健気だとこっちも怒る気は失せる。

 

「いえ、別にいいですよ。なんていうかアイツも色々あるって事でしょうね……」とスティレットは返す。

 

「すいません!皆さんにも!」

 

 フレズ達にも頭を下げ続けるシュン。謝り過ぎだとさっきはヒカルが指摘したが今度は謝るのも仕方ない。

 

「いいよ。気にしないでくれ」

 

「ぼく、また真姫を探しに行ってきますね。バトル大会には出るつもりなので、そこで会いましょう。それじゃ!」

 

 手伝おうかというヒカルの提案をシュンは断るとそのまま真姫を探しに走って行った。

 

「一人で大丈夫かな信道君」と心配するヒカル。

 

「大丈夫でしょ?どうも2人しか踏み入っちゃいけない要素があるっぽいからねあの2人」

 

 失明なんて要素のある2人だ。確かに当事者でなければいけないかもしれないが、

 

「それにしてもさっきは真姫相手に凄かったですね。堂々とした態度、見習いたいです」

 

 轟雷が尊敬する様に朱音に言う。真姫を完全に言い負かした。

 

「うちのモモコちゃんも天邪鬼な所あるからね。叱る事多いからああいう風になっちゃうんだ」

 

「モモコちゃんのお母さんなんですね。玄白さんは……」

 

「その、有難う御座いました……」

 

 続けてスティレットが感謝しつつ頭を下げた。

 

「気にしないで、こんなイベントなんだもの、皆で笑顔の方がいいでしょ?私に言うより君のマスターに謝っときなよ。不可抗力とはいえビンタしちゃったんだから」

 

「あ……」

 

 にこやかに返す朱音にスティレットは何も言えなかった。自分よりもずっと大人な人だな。と、思いながら。

 

「……」 

 

 真姫のさっき言っていた事を思い返す。朱音が自分をダシにしてデートの約束でもしてる様。そして今の堂々とした態度、スティレットにとっては再び自分がFAGだという現実を突きつけられてる様だった。

 

「スティレットさん!」

 

 そんな感傷に浸ってるスティレットをグライフェンが現実に引き戻す。イベントへの意気込みだろうか。やる気十分と言った所だ。

 

「貴方の心の傷!私にも解ります!真姫さんはバトル大会に出ると言ってましたね!その時に思い知らせればいい事です!一緒に戦いましょう!」

 

 グライフェンの表情も真剣そのものだった。彼女もスティレット同様にマスターの事が好きなのだ。真姫にあぁ言われては彼女も頭に来るという物だ。

 

「グライフェン……そうね!お互い頑張りましょう!」

 

「見せつけてやりましょう!お姉ちゃんの言葉を借りるならBurning Love!なBattleを!」

 

 と、そこでスティレットにある疑問が浮かんだ。というか気になっていた事があった。

 

「……あのさグライフェン……、思ったんだけど。アンタのお姉さんの金剛って本当にFAGなの……?」

 

 

 そしてバトル大会は始まり、滞りなく進む。内容としては海上に設置された円形の巨大なバトルフィールドが設置、マスターは両端にそれぞれ待機し、自分と同じサイズになったFAG達に指示や援護としてサポートメカの操縦等でサポートが可能だ。

 

「さぁ!始まりました!今回のバトル大会!!マスターとFAGが同じ大きさでバトルに挑む!ありそうでなかったこのシチュエーション!どんな結末があるか実に期待できます!!」

 

 バトルフィールドから離れた砂浜は簡易的ながら観客場となっていた。そこであるウェーブのかかったストロベリーブロンドの女性マスターと、全身にセンサーと巨大なレドームを背負ったFAGが横長のテーブルを設置し、椅子に座りながら備え付けたマイクでまくしたてる。

 

「といってもトーナメントは既にある程度進んでいるからもう中盤なんですけどね~。ウフフ」

 

 解説役の女性はおっとりとした調子で答える。おおらかそうなのは一目で予想できる。反面実況役のFAG『レヴァナント・アイ』は……。

 

「この大会淡々と進むから盛り上がりもクソもねぇんだよ……。カビが生えちまうわ……。というわけで急遽参加させていただきました!実況はワタクシ!レヴァナント・アイのアイちゃんと!」

 

 普段ぶりっ子めいた高音で喋る物の、毒舌部分だけやさぐれた低音で喋るアイであった。

 

「解説はそのマスター。クローディア=アリーセ=シーボルトでお送りいたしますわ」

 

「……勝手に解説させていいんですか?」

 

 少し離れた場所で職員のアーキテクトウーマンが数人話し合っていた。何せ非公式の解説実況だからだ。

 

「まぁ盛り上げ役として機能するならいいでしょう……」

 

「さぁ!アタシらを楽しませるために戦えやクズ共!!といったこの大会!有力候補はどんな感じでしょうか解説のクローディアさん!!」

 

「そうですねー。もうある程度進んじゃったのでもう結構絞り込めてますわね。優勝候補としては……」

 

 そう言ってクローディアと名乗るマスターは参加表を指でなぞり、有力候補と見た参加者の部分で指を止めた。

 

「轟雷さんと輝鎚さんのチームと、例のマガツキさん、そして今戦っている……」

 

 目の前のバトルフィールドで戦っているFAGを見る女、チームの片方、グライフェンが両腕の連装砲を相手のFAG、ヴァイスハイトに向けて発射。

 

「当たってください!!」

 

 相手のFAGに命中。爆発を上げる。だがその爆炎の中から撃たれたコボルト(ヴァイスハイトの分離形態)が突っ込んでくる。ヴァイスハイトから分離して敗北を免れたわけだ。

 

「このぉ!よくも!」

 

「しまった!」

 

「グライフェン!ボサッとしてないで!!」

 

 驚きで硬直していたグライフェンを叱責する直後、掴みかかろうとしていたコボルトは脳天から射撃を受けて爆散。フィールド内設定で武装だけが破壊されたコボルトが投げ出されて倒れた。コボルトの敗北となる。

 

「しっかりしてよね。アンタ格闘ならアタシより上なんだから」

 

「助かりましたスティレットさん、流石です」

 

「当然でしょ?鍛えてきたんだから」

 どや顔で勝ち誇るスティレットと、グライフェンを見ながらクローディアは確信した。

 

「あの二人ですわね~」

 

 その頃……、観客席から更に離れた場所で観戦しているFAG、白虎型がスティレットの戦いを見ていた。

 

「……バックレたから、マスター怒るだろうなぁ……」

 

 更に別の場所では別のやり取りをしている二人がいた。

 

「ご主人様。やはり大会を見に行きましょう?いい気分転換になるはずですわ」

 

「いいよ。所詮気休めだよ……。このイベント自体だって終わってしまえばまた現実に戻される」

 

「でも私は幻想だっていい!ご主人様と一緒に思い出を作りたい!」

 

「フセット……。そうだな、見に行くか……」

 

 スティレットにとって因縁の二人、前のマスター達がいた事も、今は知る由もなかった。

 実況解説の二人は武装神姫アニメの二人をほぼパクってしまいました。続きは一週間以内に、


 
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