No.1008615 九番目熾天使・外伝 蒼の章 未来外伝Blazさん 2019-10-29 09:58:23 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1136 閲覧ユーザー数:1108 |
これは今の旅団から十数年後にあるかもしれない小話……
―――静寂に包まれた旅団ナンバーズ私室フロア。かつてはそこそこに賑わいを持っていたこのフロアも、今ではかつてのもの。賑わいともいうべき声や音はほとんど聞こえず、些末なこととばかりに静寂という無音にかき消されていく。
ここにはもう、ナンバーズは数名しかいないのがこの静寂の理由だ。
いくつもの事件の後、再びそれぞれの目的のために散り散りになった旅団は事実上の活動終了となり団長による招集が再びあるその時まで集まることはない。
今は残ったメンバーを楽園に、その活動も散発的なものでしかないため、ほかに行く当てのない彼らの帰るべき場所として機能している。
「ん……」
その一室。そこには旅団メンバーの一人であるディアーリーズがベッドに横になり、小さな寝息を立てていた。旅団の活動終了後、ワケあって楽園に腰を下ろした彼はそこを活動拠点にして傭兵まがいの活動を続けていた。旅団としての活動は今はないが、それでもこの場所が彼にとって安息の場であることに変わりはない。
その安息の地で、彼は文字通りつかの間の休息をとっていた。
「んん……」
ベッドで寝返りを打ち、無意識に再び寝やすい形で眠るディアーリーズ。最近は傭兵活動も楽なものが多いが、それでも別件や旅団の仕事もあるので激務には変わりない。今日も戦闘はなかったが、二百式に言われた仕事を片付けていたので本人は精神的に疲労がたまっている。これが一週間続いたのだから、いい加減終わってほしいと彼も思いたくもなる。それが今日、ようやく終わりを告げたので彼もやっと枕を高くして眠れる。そう思っていたのだが……
(……………。)
ふと、室内に小さな風が沸き起こる。それは空調のものでも、彼の寝返りの風でもない。本来起こるはずのない、誰かが着地した際に生じる風だ。
ふんわりと柔らかく、だが決して音を発さないほどに弱い風は一瞬、その場に生じると彼の肌に当たることもなく霧散する。彼に触れられることもなかった風は消え、そこには新たに一つの塊である影が生まれる。その影こそが風を起こしたものだ。
影は地面につくと、ゆっくりと縦に伸びその姿を縦に長く変える。伸びた影はしばらくその場に立っていたが、やがて何かを見つけたのか、ゆらりとふらついた足取りで動き出す。足場の見えない暗闇であるからかその足取りは遅いというよりも手探りに近い。しかし、その足が違う方向に、と言うものはなくむしろ正確。行く方向は分かっているが距離感がつかめないという足取りで影はふらふらと移動する。
(………!)
そして、影は何かにぶつかった感触を感じると、足を止めてもう一度感触を確かめる。それが影にとってはどうなのかはわからないが、どうやら目印として意味はあるようで影はその感触を確かなものと認めると、その身を一瞬だが小さく縮こまると、バネの要領で勢いをつけて
「おーとーおーさーん!!」
大声とともにディアーリーズの眠るベッドに向かいダイブした。影はディアの真上にのしかかり、彼は思わず声を上げて驚く。
「ふごぉ!?」
突如寝込みを襲われたディアは抵抗もできずに影に飲まれ情けない声を上げるが、それ以上に突然の奇襲と、それによってなのか何か柔らかいものが彼の頭を覆い息ができないので、たたき起こされた彼はまずその柔らかな何かをどけるために手を伸ばした。
すると、どこからか声が裏返った淫らにも聞こえる声が聞こえてくるではないか。
「んあっ!」
「わ!? ご……ごめ……」
「んん……お父さん、大胆すぎるよ……」
思わず謝罪したディアだが、その直後、出てきた言葉にモノを避けた彼は直ぐに冷静になって寝起きの頭をフル回転させる。
「…………お父さん?」
その言葉に、その場で、その体勢で硬直するディア。―――よく思えば、どこかで聞いた声が聞こえてくる。しかもその声は割と近くで、しかも妙に空気が肌をなでる感覚と部屋の清潔な匂いとは別のニオイが感じられる。
「……………。」
感じる息と匂い。そして手に触れる柔らかなもの。
答えが彼の頭の中で完成したその瞬間、彼の部屋の自動ドアが開き誰かが室内の明かりをつけた。
「―――あら。お盛んですこと」
照明が付き、部屋全体が明るくなると、今まで見えなかったものが見えたのでディアは思わず震えた声でその名を言う。
「……………ユリ?」
「うん、お久しぶり、お父さん。ところで……
もう、我慢しなくてもいいよね?」
ディアの上には見慣れたサキュバスと言う名の自分の娘の姿があり、荒い息と虚ろな目に彼の顔からは脂汗がにじみ出る。
そして。
「カスミ、部屋のロックお願い」
「いいですけど、ちゃんと割合守ってくださいねユリ。私が六であなたが四ですわよ」
と言いながらもう一人の自分の娘が部屋のドアを閉め、素早くロックする。
この瞬間、彼は逃げることはできなくなり瞬時に浮かんだ結末にただ絶望した。目の前には二体の獣が自分と言う餌を今まさに食らおうとしていたのだから。
その直後、彼の部屋で虚しい絶叫がフロアに響き渡った……
◇
青年の絶叫から数時間後。楽園のラウンジには数名の人の姿があった。あの絶叫の後に残った旅団メンバーがなんの騒ぎかと思い、起きた者、興味が沸いた者、暇な者が集まり、そこに座りながら放心しているディアを中心に集まっていた。
「……で。ディアーリーズの状態は分かったがお前たちは一体何をしに来たんだ」
「ナニをって……ナニを?」
「……………。」
放心している、と言うよりも精根尽きた顔で座っている彼の左右には二人の少女が彼に寄り添う形で座っている。
一人は青みのかかった黒髪を腰まで伸ばした赤い瞳が特徴で、服装はロングのズボンに長袖だが中のシャツはノースリーブだ。
もう一人は薄い紫のショートとスカイブルーの瞳。服装は薄いロングコートにネックウォーマーと思えるほどの首元が隠されたセーターとロングスカートで、黒いストッキングを履いている。
二人ともここにいるのが惜しいほどに顔つきのいい美少女で、まだあどけなさが残る笑みは可愛らしいが、この場にいる旅団の面々はその辺については特に思うこともない。
今はその彼女らがどうしてここに来たのかを知りたいのだ。
「まったく……堂々楽園に入ったと思えば今度は夜這いだと……勝手にもほどがあるぞ」
「えへへ」
「……反省の色ゼロだな」
反省どころか悪びれる様子もない少女らに頭を抱える二百式。現在、団長が不在ということで楽園の指揮を任されているが、その中で起きた今回の珍事は彼の頭を抱えさせるには十分なほどに呆れる事件だった。
呆れる二百式をよそに今度はokakaが尋ねる。
「で。お前らまさか本当に夜這いしに来ただけ……じゃないよな。ユリ。それにカスミ」
暇を持て余していたということで手には新聞紙が握られているokakaの目は真剣で、何人も逃がさないという威圧感を出していた。だがそれに慣れているのか彼女ら……ユリ=
「
「僕は次いでかよ……」
ようやく気を取り戻したディアの突っ込みを挟み今度はユリが答える。
「私はお父さんに用事かな。大学もひと段落したし、その報告と伝言を伝えに」
「伝言? 誰から……ってまさか」
「うん、そのまさか。お母さんとツバキさんが気にしてたよ。たまには連絡してほしいって」
「……………。」
ユリの言葉に二百式、okaka、そして話を黙って聞いていた朱雀が一斉にディアの方に憐れみと侮蔑の目を向ける。
知りはするが、やはり。男としては彼の在り方は到底納得しきれないだろう。
「……で、本音は?」
「カスミと同じで竜神丸さんに呼ばれたから。でもラボにいなかったから諦めてお父さん襲おうと思って」
「本当についでかよ」
そのついで扱いで夜這いされることに怒りを通り越して嘆くディアは溜息とともに空気の抜けた顔をガクリと落とす。もはや父親としての威厳もなければ扱いすら雑であるという自分の立場に慣れたところもあるが、その慣れもいいのかと複雑な心境で落とした顔の奥で力のない失笑をするしかなかった。
「まぁそこは別にどうでもいい」
「いや良くないですよ、二百式さん!?」
「そこは家庭の問題だ。で、竜神丸に用とは」
実は竜神丸は確かに楽園に居を構えているが、姿を見る頻度は活動終了間際から少なくなっていた。彼の現状を知る面々は問題はないと口をそろえて言うが、その理由は明かされていない。それでも二百式やokakaが聞いてくるので観念したのか、数名は居場所らしきところを口にするが、全員バラバラの場所を言ったという。
朱音はセラエノ、ガルムは桃源郷、ZEROはバックヤード、Blazは蒼。
あまりにも統一感のない答えに何も言えないが、少なくともここではない、この世界ではないどこかにいるのだということははっきりしていた。
「……私は別に言うのはいいですけど、カスミはいいの?」
「不本意ですけど、言わなければいけませんし……仕方ありません」
ディアを挟んで軽く言葉を交わすユリとカスミは話すべきか否かと考えるが、ユリの話は別段問題はないようでサラリと目的を明かした。
「私は武器をもらいに来ました。前から作ってもらってたんですけど、ようやく完成したって聞いたので」
「あれ。ユリ、槍持ってたよね。あれは?」
「ああ。折れちゃった。前にちょっとトラブルがあって戦ってたら……っていうか折られた」
そんな話聞いてないぞ、とユリの目的に眉間にしわを寄せるディア。そもそも折られたということも、彼の耳には入ってない情報で今知ったことだ。それをあっけらかんと言う娘の姿にディアもさすがに言葉に怒気が混じる。
「折られたって……お前なぁ……!」
「仕方ないじゃん……まさか衛星砲並みの砲撃を個人がぶっ放すなんて、聞いてないよ……」
「…………あー……」
しかし、直後に出てきたセリフで誰と戦ったか分かったディアと、なぜそうなったのかと気にはなったが聞かなかった三人は絶句していた。
それでよく黒焦げにならなかったな、と。
「とりあえずユリさんのことは後で話してもらうとして、カスミさんは?」
ユリの戦歴に頭を抱える彼らの中で朱雀がカスミに問いを投げる。おとなしく座っていたカスミは質問を聞くとユリと同じく隠すことなく答える。
「私も、先ほど言った通り
「おい、明らかに隠しきれないものを言ったな」
二百式の耳にも確かに恐ろしいものの名前が聞こえたのですかさず止めると、okakaとともに言い逃れしようとするカスミに食い掛り追撃する。
カスミはしまったとばかりに口をおさえて失言を無かったことにしたいのか、目をそらすがそれを聞き逃すほど遠くもなければ衰えもないのが彼らだ。ユリも失言は聞き逃さなかったので横で苦笑していた。
「問題ありません。媚薬は母とユリの母に渡して後は私が使いますので」
「いや、それはそれでヤバいよね。俺を襲わせる気だよね?」
「……………。」
「顔を向けいカスミ!!」
そっぽを向くカスミにディアもさすがに怒るが、当人に反省の色は見えない。それどころかそれ以上に危険なものを受け取ろうとしていることに二百式が割って入り、なざ必要なのかを問いただす。
「媚薬はどうでもいいが、事象兵器とはどういうことだ。いや、それよりもアイツが事象兵器を持っているだと?」
「そこは先生ご本人にお尋ねください。私の預かり知らぬところですから」
「……………。」
カスミの返答にいら立つ二百式は目線を外して舌打ちをするが、別にこの苛立ちは彼女らに向けられたものではない。事象兵器と言う危険なものを隠す竜神丸に対してのもので、それはokakaと朱雀にも同じ、彼に対する不信感を持たせるに十分なことだった。
が、それを同時に朱雀は小声で隣にいたokakaに訊ねていた。
(あの、okakaさん。カスミさんが言う先生って……)
(ああ。朱雀は知らなかったな。カスミは竜神丸の教え子だそうだ。アイツの研究に興味あるらしくってな。先生っていうのはそういう意味らしい)
(研究にって……)
竜神丸の研究は主に遺伝子工学、機械工学、薬学等がメインだがいずれも危険極まりないものだ。中には遊びで媚薬や性転換薬などマシなものもあるが、危険なものであればタイラントを始め挙げればきりがない。事象兵器も無論で、彼から物を受け取るというだけでも心配になり、不安になってしまう。
それだけでなく、カスミは彼に弟子入りしているのだからその不安はなおさら。やめさせるべきではないかと言いたくもなるが、二百式もこのことの重大さは重々承知している。しかも親であるディアもいるのだ。説得には事欠かないだろうと、安心と不安を混じらせて朱雀は彼らの会話を見守る。
「というわけで、私たちはそういった理由で来たので問題ないですよね! というか辛抱たまりませんのでベッド使っていいですか!」
「いいわけないでしょうが。というかやっぱり目的夜這いじゃないか!!」
「大丈夫! 他の人には迷惑かけないし!」
「いや僕には迷惑かけるよね?!」
「ああ、安心して、お父さんのことは勘定に入ってないから」
「さらっと酷いこと言いやがったよこの娘」
その会話の中では自分らの目的を言ったということで、もういいかとばかりに先ほどの続きを所望するユリ。完全に目がその気であることにディアは必死になって否定し止めるが、扱いが雑なことを忘れていたので自分の意見は最初からなかったことに嘆くしかなかった。
補足と弁護のために言うが、ユリはそこまで尻軽ではない。普段はやさしい性格で、そのことは子どものころを知るokakaと朱雀も知っている。ディアもその一人だがいかんせん家に戻らないせいで詳細な部分までは分からなかったようでこうなっているとは知らなかった。
「というわけでいいですよね、二百式さん!」
「いや父に対してのやさしさは!?」
完全にその話に変えられて、カスミのことを聞くに聞けない二百式はズイズイ言い寄るユリに困り顔になり、その結果
「―――好きにしろ」
考えるのを諦めた。
「え、あ、二百式さ―――」
思考放棄した二百式にせめてと助けを請うディアだが、そのそばで自分を狙うサキュバス二体の視線に気づき、振り返りつつも逃げようとするが、先にカスミが右腕、ユリがその後に左腕を掴み、引きずってでもラウンジのドアに向かい歩いていく。ディアもそれなりの力があるというのに引きずられるのは二人でしかも自分の娘だからか、逃げることもできないようで引きずられながら地獄の門に誘われる彼の叫びは虚しくラウンジ内に響き渡った。
「ちょ!?」
「さぁ朝までコース行ってみようかぁ!」
「比率守ってくださいよ、ユリ。出ないと母様からの言いつけを守れません」
「い、いやちょっと僕、娘とする気なんて無い……」
「とは言いますけど、私たちも約束してきましたので」
といってカスミが胸元から一枚の手紙を出し、それを冷や汗をにじませるディアに見せる。
そこにはカスミの母の字で短く
―――ひ孫を産むまで帰ってこなくても問題なし。
とだけ書かれていた。
この最後通告というか死刑宣告というか、完全にあきらめろと宣告されたディアの顔は瞬時に真っ青になり、地獄へと誘う二人から離れたい一心で叫ぶが、三人とも見放す気満々の顔で彼を見送り、とどめに朱雀が両手を合わせ「ごめんなさい」と謝ったので、そのしぐさに縋るように手を伸ばすが、離れていきドアを潜るころには彼の声は虚しくラウンジと廊下に木霊したのだった。
「NOぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
散りゆく彼の生気に朱雀は無言のまま合唱した。
「……さて、寝るか」
「そうだな」
「冷たッ!?」
ディアの姿が廊下の闇に消えるや、すぐに立ち上がり自然解散する二人。そのあまりにも無情な態度に思わず朱雀も突っ込みを入れてしまう。
「仕方ないだろ。それに後はアイツらの話だ。俺らはメンバー襲撃の件が済んだんだからもう付き合う理由もないだろ」
「いや確かに、そうですが……せめて防音処理と彼女らの母親とラヴァーズへの通報をしないと」
「お前も十分冷徹なこと言ってるからな、朱雀」
完全に修羅場化にする気である朱雀にお前は鬼かと突っ込むokaka。彼女らの母親だけでなくラヴァーズまで呼ぶとなればいよいよディアの生存は永久に保証されない。
そんな核爆弾を投下するのは竜神丸だけだと思っていたが、彼も内心煮えたぎっていたのだろう。地獄にニトロをガスプラント並でぶち込む気の彼の発言はokakaだけでなく二百式も顔を引きつらせるほどだった。
が、それも数分すれば終わること。その後三人は何事もなかったかのようにラウンジを後にした。
そして、それから翌日の夕方まで防音処理をしたとはいえぶっ続けで淫らな声がディアの部屋の奥から聞こえてきたのは言うまでもない。
◇
「いやぁ、にしても面白い事象ですねぇ。面白いのでディアーリーズにはこのまま頑張ってもらいましょうか。あと三十人ほど」
そのころ。どこかの空間にいる竜神丸はけらけらと笑いながら本を眺め、そこに映される光景に楽しそうにしていた。どうやらここから彼らの様子は見えていたようで、その有様に彼は大声で笑う。
だが、その大声もすぐに終わり彼の声は何もない虚空の世界に消えていった。
「にしてもフラグ持ちでここまで違うとは。事象の因果も興味深いですね」
ページをめくるとそこには複数人の女性といる蒼崎夜深の姿があり、竜神丸は顎に手を付けてその様子を眺め―――いや観測す―――る。
「蒼崎夜深はフラグによって繋がるのではなく【結びつける】。逆にディアーリーズは【繋がる】。フラグと言う縁は二人の中では異なる性質を発揮しているようですね。それによって二人の運命……いえここではあえて人生と言いましょうか、それを位置付けているのですね」
しかし、それに反し竜神丸の目は直ぐに本の中に映る映像から離れてしまい、彼は本を片手で閉じてしまう。パタン、と完全に閉められた本にはタイトルはなく、その本を手に彼はどこかを眺めるかのように顔を上げる。
何もない世界、虚空を見上げる竜神丸はまるでそこの何かあり、それを目にしているかのように見ているがそこには
「これでコンセプトは固まった。あとは作成するだけ……ですが、いかんせん形が決まりませんねぇ」
はてさて、と独り言をいう竜神丸は困った顔というのをしているがその顔は本当に困ったというよりも、さてどうするかという悩みの表情だ。思いつかない彼はしばらくその場で悩んでいたが、ふと何かに気づいたのか悩んでいた顔をやめる。
「……そうですね。これは中々いいのではないでしょうか。……これで決まりですね」
独り言をつぶやき、なにを決めたのかと思えば竜神丸は再び本を開く。
すると、そこには先ほどのような映像ではなく、何か小さな光の塊が現れ次第に光を弱く、その中に何かを形作っていく。
形作られたものはやがて光が消えていくと、本の上に浮くかたちでその姿を現した。
そこに現れたのは一本の小さな銀の鍵だった。
「―――完成。これが私の作った事象兵器。
並行世界の移動、観測を可能とする因果操作の鍵。
名を【夢幻・セラエノ】……とでもしておきましょうか。まだ仮称段階ですし」
銀の鍵……とはいうが、その形状は歪で、鍵と言うより小さな根の形をしている。
だが先端は確かに特有の形状をしているため、これがかろうじて鍵であることを示している。銀色に身を包み、根の先には魔法陣が刻まれている。手で持つ部分も銀と言うよりもメッキ塗装された藁を思わせるもので、これが本当に鍵なのかと思わせてしまう。
しかし、竜神丸はこれが鍵であるように設計し作り上げた。開発者である彼がコレを鍵として作り上げたのだ。
「試作の時点でデータはありますし、まぁ機能は問題ないでしょう。あとは機会を見て使ってみますか」
形成された鍵を手に浮かせ、その形をまじまじ見つめながらつぶやく。そして鍵を浮かせている手を握ると、鍵もまたどこかへと霧散してしまう。
「さて。あとで二百式さんやokakaさんに色々言われるので、ここまでにするとして……」
再び開かれた本を手にし、先ほどのように映し出された映像を見る竜神丸。その顔は映像を覗き込んでいるだけだというのに恐ろしさを感じさせ、笑みは不敵なものに見えてしまう。無論、彼は普段からそんな笑みではないのだが、その顔になるときは大体何かを企み、計画しているのが常だ。
つまり今の彼の頭の中ではまた何か良からぬことを計画しているに他ならない。
「次はこれで何を作りましょうかね」
そう言って、彼は本の中から現れた高密度に圧縮されたものを見てつぶやく。
本の中に閉じ込められようともなお、その禍々しさを保ちつつ虚空の世界で胎動するもの。それを眺める竜神丸はまた誰かに言うかのように独り言をつぶやいた。
「もう少し、このタケミカヅチのコアで何か作ろうかと思ってるんですが……どうですかね?」
彼の問いに答えるかのように、巨人・タケミカヅチのコアは鼓動を鳴らす。
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リハビリ・暇つぶし・面白半分です。