No.100634

月見菓子

縁代まとさん

サイトの方に上がっている俺屍の二次創作小説です。
書いたのは結構前ですが、今でもこの双子が大好きなのでUP。
またいつか新しいものを書けたらなぁ、と企んでおります(笑)

2009-10-12 21:18:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:661   閲覧ユーザー数:653

 

 西獅(せいし)という薙刀士がこの世を去ったのは、一月の寒い日のことだった。

 彼に可愛がられて育った双子の茨(いばら)と縁(えにし)は、度々彼のことを思い出しては語ることがある。

 それは子供っぽい内容であったり、子供なりに真剣だったりした。

 彼が亡くなって半年。

 今は六月の終わり、そろそろ気温が本格的に上がってくる頃である。

「おい縁、こっちこっち」

 茨はこっそりくすねて来た茶菓子を持って、後ろを行く縁を呼んだ。

 声はなるべく響かないように。なにせ今の時間は皆が寝静まっている頃なのだ。この家の就寝時間は早い。

「ここに雨戸が無くて良かった。よく見える」

「そだね」

 二人は縁側に並んで座り、雲のない空に浮かんだ月を見上げた。

 しかし茶菓子を口に運ぶのは忘れない。

「西獅さんがさ」

「うん」

「死んだのって、今日と同じ日付の日だったよな」

「もう日付は変わってるから、昨日」

「……とにかく、もう半年かぁ」

 茨は好物のもなかを口に入れたが、好きなこし餡ではなくつぶ餡だったため、少し顔をしかめた。

「茨は死ぬの怖い?」

「ん?んー……」

「はっきり言う」

「そういうお前はどーなんだ」

 縁は無表情なまま言った。

「茨よりは先には死なない」

「……なんで?」

「俺の方が素質高いし、無鉄砲じゃないし」

「お前な」

 こほんと咳払いをし、茨は質問を変えた。

「俺が死んだらさ、縁は泣くか?西獅さん時みたいに」

「泣かない」

「じゃあ俺も縁が死んでも泣かない」

「だから、そういう可能性はないって」

 すっぱりと言い切る縁。そんな弟に茨は小さくため息をついた。

 茨と縁の双子はよく似ている。外見もそうだが、中身も。

 茨が縁のように無感情に喋る時もあれば、縁が茨のように活発な時もあるのだ。

 そんな相手なので、他の人と話すより楽しかった。

 たまにこうしてお菓子を持ち出して、延々と語ることがある。無意味な内容の時の方が多いが、大半は西獅関連のことだった。

 それ程二人にとって彼は特別だったのかと、自分たちで分析したこともある。

 最近のお気に入りが、この縁側だ。

「……じゃあさ」

 しばらくもそもそとお菓子を食べていた茨が口を開くと、縁は手に二つも飴を持った状態で振り向いた。

「俺が今こうして話し合っている時が一番楽しい……、とか、言ったら……どうする?」

「蹴る」

「け」

 る?と言い終わる前に、縁は並べて垂らしていた茨の足を蹴った。ふくらはぎに思い切り足跡がつく。

「ほ、ほんとに蹴った……」

 恥をしのんで思いついた質問を口にしたというのに、蹴られてしまった。

 茨がふくらはぎを擦っていると、縁が足をこちらに向けてきた。

「ん」

「……なに」

「俺も同じ。だから蹴るべし」

 縁は茨のようにどもる事なく言い放つ。

 ぽかんとした後、茨は微笑を浮かべた。

「蹴らない。俺は自分と同意見の奴は蹴らないよ」

 普段では考えられないくらいにっこりと笑い……、

 茨は縁の頭を殴った。

「………」

「………」

「……楽しいよな」

「うん」

 静かに頷き合い、双子は残ったお菓子を全て胃に入れ、いつものように証拠隠滅をした。

 この時を思い出して。

 この時と同じことを繰り返す時が、一番落ち着く。

 それを続けるために、それを少しでも長く続けるために。

 二人は西獅と同じように戦っていた。

 戦うのは全然楽しくないけれど……、

 それをいつか話題に出来たらとても良い。

 茨は縁に、縁は茨に悟られぬよう、二人してそんなことを思っていた。

                           

                                       《了》

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択