No.1005011

Δと∀とゴーストメーカー

めいくうさん

Δと∀と噂のXPのエピローグ。
~あらすじ~
荒野の一軒家に住むターンAとデルタは連日押し掛ける自称勇者達との戦いに疲れ果てており、
自称魔王を名乗る変なオジサンに後の事を任せ、安らぎを求め自分探しの旅に出たのだった。

2019-09-20 18:45:03 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:864   閲覧ユーザー数:859

 

「さぁ!着きましたよデルタさん。」

青く澄んだ空の元、エルフ耳の少女は振り返りながら

後ろのポニーテールの人影に向けてそう言った。

「へー…ここがぁ。」

デルタと呼ばれた彼女は目の前の建物を見上げ納得したように声を上げる。

ドーム状の外観に二つの窓、そして真ん中に赤い扉が付いているその姿は

今まで住んでいた『∀の家』によく似ていた。

ただ、以前の家に比べてコチラは家の周りの髭(?)にも似た外壁がだいぶ直線的で、

どことなくモダンな雰囲気を出しているように感じられる。

デルタがそんな風に考えている間に先を行く少女は既にその家の扉の前に立っていた。

 

「ただいまー。」

少女はそう言って扉を開ける。

声を聞きつけ奥から一人の女性がそそくさと出てきた。

「あら…ターンAおかえりなさい。」

細身でスラッとした体躯に薄い青みがかった長髪、

その女性は雰囲気からしてターンAと呼ばれた少女の母親らしかった。

ただ、タレ目がちのターンAと違い目付きはキリっとしたツリ目で

それに対してエルフのような長耳は少々下を向いている。

 

「デルタちゃんも元気そうね。」

後から入ってきたデルタに気付くと女性はそう声をかけた。

反応からしてデルタとは初対面ではないらしい。

その後さらに、ターンAの母は勘ぐるように小声でこう続けた。

「…あの子なら二階の貴方の部屋にいるわよ。」

 

階段を上がった先にターンAが昔から使っている子供部屋があった。

その中では一人の少女がなにやら本を読みふけっている。

「トン・トン」というノック音に気付き、とっさに彼女はドアの方に向きなおした。

ドアを開けたターンAとデルタは、入り口の目の前にいた彼女と目が合ったと思うと、

しばらくの間深い沈黙が流れ、部屋の中の空気が張り詰める。

 

暗く濃い緑色の髪に黄土色をした瞳と面倒臭そうにつり上がった目付き、

その部屋には…かつて二人が戦った相手、魔王「ファントム」がいた。

 

「それじゃ…ここ数ヵ月、貴方がこの家から大きく離れた事はないという訳ですね?」

どれくらい時間が経ったろう、部屋の中の魔王は先程から来訪者二人に幾つもの質問攻めに合っていた。

ターンAの母にも確認した事だが、ファントムが遠出した時は必ず母が付き添いをしており彼女が一人になった事はなかったという。

「じゃあ…あのファントムは…?」

彼女は思わず呟いた。

その証言を信じるなら、ファントムがターンA達の前へ現れる事は到底不可能なのだ。

それに対して、先日まで∀の家に冒険者をけしかけていたハズの彼女…。

ターンAとしては自身が家に匿っている人物が先日までの一件の犯人などとは思いもよらなかったのだ。

 

質問を終えるとターンAは腕を組みムツカシイ顔をしながら考え込んでいるようだった。

…かつて決戦の時、デルタの一撃により倒れた魔王。

それを済んでの所で助け出したターンAはその後、彼女を自らの実家へ匿う事に決め、

その後、ファントムの容態が落ち着くまで、自分達は荒野に佇むあの家に身を置いていた。

それなのに、どうして…?

 

しばらくすると、誰かが階段を上がってくる音が聞こえてきた。

ノックもなくドアを開けると、すぐさまターンAの祖父、ターン丁こと丁作が部屋に入って来る。

「おお、お前たち来ておったのか。」

あっけらかんに挨拶したと思うと、部屋の冷たい空気に気付いたのだろう、

やや神妙な顔をしてゴホンと一つ咳き込むと、部屋の隅に置いてあった小さめの椅子にどっこらせと座り込んだ。

 

「アリバイの確認は済んだようじゃな。」

少しばかり間を置いて話し出すターン丁。

 

「事態は思ったよりもややこしい事になっとるのではないかな?」

そう言って老人は少し俯いている孫の顔を覗きこむ。

返事がない事を確認するとターン丁はさらに話を続けた。

 

「…幽霊製造機、というのを知っておるかの?」

無言で顔を上げるターンA。

「?」

聞き慣れない単語だったが、デルタは話を遮らないように知らないというポーズだけを返す。

ファントムは無言のまま片目をつむり、すました顔で話の続きを待った。

 

「昔の…SF作品にそういう話があってな、とある国の独裁者が自分の死んだ後の事を考え、

自分の幽霊を生み出す装置を作るよう科学者に依頼するのじゃ…。」

自身の記憶を掘り起こすように淡々と語り出す丁作。

「幽霊って、要するにクローン人間って事?」

一瞬の虚を突くようにターンAが訪ねる。

「いや、言ってみれば影武者…というかホログラムのようなものじゃったかな?いわゆる霊的存在を科学的に再現しよう、という物じゃよ。要するに自分が死んだ後に記憶を引き継いだもう一人の自分を作るという訳じゃ。」

そうか…クローンでは記憶までは引き継げないものな。

確かに、今の状況に似ていなくもない…かもしれない、とターンAは思った。

 

「研究が完成するとその科学者は始末されてしまうのじゃが、あらかじめ装置を作動させておいて自分の幽霊を作っておくという話じゃ。」

その後も丁作の話は長々と続いたが、だんだん関係ない内容に脱線していっているようで、

ターンAはしばらく適当に相槌だけ打っていた。

結局の所、真相は分からずじまいだが、目の前のファントムが嘘を付いているようには思えない。

そしてデルタがもう一人のファントムから聞いた話、「復活した」という言い分と合わせて考えると、

恐らく祖父の言っている事と大体似たような状況なのだろうと推論付けるしかなった…。

 

丁作「さぁて、そろそろ行くとしようか。」

ようやく長話が終わったと思うと、ターン丁はよろよろと立ち上がる。

「え?」

それを聞いてデルタはすっとんきょうな声を上げる。

「おじいちゃん、行くってどこへ。」

ターンAも驚きながら訪ねた。

丁作「今度はな、極楽鳥でも探しに行こうと思っとる、そこの娘も一緒に…。」

そう言いながらファントムの方に視線をやる

ターンA「ええっ!」

唐突な祖父の提案に今度はターンAが驚きの声を上げる。

「真実が見えたとして、問題はそれで終わりではない、大事なのは…それをどう解決するかじゃ。」

虚空を見上げながら意味深にそう呟くターン丁を他所にファントムは無言のまま、ターンAとデルタを一瞥した。

何か考えるがあるのかそれとも気まぐれな思い付きか…、それは分からなかったが。

一度言い出すとそうそう譲らない所がある祖父だということを知っていたターンAは

それ以上、何も言わなかった。

それからなんやかんや半日ほどして、旅の準備を終えた老人と少女は、

そそくさと出発すると、何度か後ろを振り返りながら

その影を町並みの遠くに消していった…。

 

ターンAとデルタはその一部始終を見送ると、その後母親に別れの挨拶を交わし、

再び自分達の旅路に踏み出すのだった。

 

 
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