No.1002978

フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~ ep18

コマネチさん

ep18『タケルと量産型フレズヴェルク&源三と量産型バーゼラルド』(中編)
サブタイ変えました。フレズよりもバーゼが中心になりそうなので。

2019-08-27 21:14:02 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:861   閲覧ユーザー数:853

「更生プログラム?」

 

 聞き慣れない言葉にフレズは首を傾げる。ディサービスセンター内部でフレズは見学を受けていた。

 

「FAGの中にはね、犯罪に加担されたりする個体もいるの。そう言った個体はFA社に回収されて、再出発する為にこういった場所のお手伝いをされるの」

 

 バイトの朱音がフレズに答えた。何故バトルマニアのバーゼラルドがこんな場所にいるのか全く理解できなかったからだ。

 

「そんな事されるんならアイツ昔悪い事やってたの?」

 

「あんまり言うべきじゃないんだろうけど……カジノで賭け試合出されていたんだって」

 

「そんな事されていたのか……。じゃあお前は皆の監督ってわけ?」

 

「私はバイト。いつもは正規の職員がいるんだけどね。今日は用事で来れなくて」

 

 FAGはマスターを選べないのはフレズも知っていた。違法行為をやらされていたと思うと何だか気の毒になってくる。

 

「それでここで暫く研修を受けてね、都合によっては家に連れて帰るのも可能よ」

 

 フレズはお年寄りにお世話をしているFAG達を見る。お婆さんが数人集まってテーブルに座ってるのが見えた。テーブルの上にはFAGが数体いる。

 

「こうやって…できた!」

 

 あるFAGが両手オーバードマニピュレーター装備のパワードガーディアンを装着し、あやとりをしているのが見えた。またあるFAGも同じ仕様の装備でお手玉をしている。お婆さんに教えて貰ってる様だ。

 

「しかしお前らに使われてるナノマシンってのは繊細なんだな、知ってるか。俺が若い頃は旋盤でな……」

 

「うんうん!」

 

 またある場所ではFAGがお爺さんの昔話を聞いている。ほとんどのFAGがマンツーマンでお年寄りの相手をしていた。

 

「皆一対一で相手をしてるんだ。でも……こういう場って本格的な介護ロボットとかは導入してないの?」

 

 FAGの様なロボットが実用化している時代だ。もっと専門職用の本格的なロボットは当然ある。

 

「あら。FAGはこういうのに一番実用的と言っていいわよ。柔軟なASは介護用ロボットにうってつけだもの。自然な会話で、自分に目線を合わせてくれる相手がいるってのは嬉しい事よ」

 

――そういえば、ボクもマスターには似た様な理由で買われたんだっけ……――

 

 彼女の病弱なマスター、健は友達として、そして異性を連想させることによって生きる気力に結び付ける。その理由でフレズは与えられた。ある意味では彼女達の今の立場は何だか共感出来た。

 

――ボク達って本当に無限の可能性があるんだなぁ……――

 

 かつて試作型のフレズヴェルクが教え込まれたと言う言葉を思い出す。量産型の自分達にも受け継がれた新世代ホビーとしての本質。

 

「ねぇ、ここでお世話したお年寄りはさ。もしかしてそのままマスターになるの?」

 

「お互いの合意によるわね。中にはお孫さんや家族にプレゼントってのもあるわ」

 

「へぇ、もしかしたらボクのマスターとライバルになる奴とかいたりして」

 

 ライバル、自分で言った言葉に彼女はある事がよぎった。さっき戦ったバーゼラルドだ。

 

「そういえば……さっき帰ってきたバーゼラルドはどこいったのさ」

 

 キョロキョロと辺りを見回す。まだ怒られてるのか、と思いつつ。

 

「彼女ならあそこよ」

 

 朱音が部屋の隅を指さすと、部屋の隅に置かれたテレビを見ている老人とFAGが一人ずついる。バーゼと彼女のマスター、源三だ。

 

「……」

 

 ソファに座りながら源三は無言で時代劇を見ていた。バーゼはそのすぐ横で背もたれの頂点の部位に座っており、ほとんど同じ目線だった。

 

『……』

 

 特に会話も無しに見ている二人。それを見ていたフレズはいたずらっぽく笑みを浮かべると、バーゼの後ろから声をかけた。

 

「なぁお前」

 

「っ!貴様……」

 

 飛行しながら話しかけるフレズに、バーゼは鬱陶しそうな顔で応える。

 

「中々ダンディズムあふれるマスターだねぇ」

 

「皮肉か?」

 

「まっさかー。ボクのマスターには無い魅力だなと思って、キシシ……」

 

 チェシャ猫の様に笑うフレズ、さっきバトルではバーゼに一方的にやられたのだ。これ位のお返しはしたい所だ。

 

「貴様……またやられたいのか?」

 

「やめなよ。お前のマスターの前だろ?」

 

 どんどんフレズの方のペースにはまってるバーゼ。バトル絡み以外では完全に逆転していた。と、マスターの源三もフレズの方に気付いたようだ。

 

「バーゼ……友達か?」

 

「あ、いえ友達では……」

 

「……友達だよ。ボクとコイツは」

 

 振り向きながら否定しようとしていたバーゼだが、フレズの方が先に肯定の声を上げる。「な?!」とバーゼは戸惑いの声を上げる。

 

「そうか」

 

 源三は一言そう言うと、またテレビを見始める。

 

「どういうつもりだお前……」

 

「そう言った方が安心するでしょ?こっちはお年寄りとの付き合いは長いんだ。普段はマスターとそういう地域で暮らしてるんだからさ」

 

 普段フレズは健と山奥の集落で療養生活を送ってる。周りは老人ばかりで話し相手もそうなりがちだった。感性は健と彼の祖父のおかげで若いままだったが。と、フレズはある事が気になった。バーゼと源三の距離間だ。どうもコミュニケーションをとってるようには思えない。他のFAG達は普通に会話してるのに、だ。

 

「ところで、会話無いけどいつもこんな感じなのか?」

 

「悪いか。別にこれで困った事はない」

 

「何か勿体ないなぁ。周りはあんなに賑やかなのにさ。皆の輪の中に入ったりしないの?」

 

「別にいいだろう。こうしてるのが好きなんだ私達二人は」

 

「でもさ、せめてテレビ見ながらの会話とかないの?ボクの場合はいつもマスターと、テレビ見ながらお話してるよ」

 

「……だよ……」

 

 消え入りそうな声でバーゼが呟く。フレズにはどうも聞き取れない。

 

「あ?何?」

 

 聞き返すフレズにバーゼは突然飛び上がるとフレズの両肩を掴む。直後、部屋の隅にすっ飛んで行く二人。

 

「……どうやって話をすればいいのか解らないんだよ……」

 

「いや、別に感じた事だけを話せばいいだろ」

 

「人間と会話する機会なんて全然なかったんだよ。ずっとバトルばっかりやっていたから……」

 

 まさかそういう事で相談受けるとは思ってなかったフレズだ。

 

「なんで他のFAGや職員に聞かないんだよー」

 

「そ、それじゃ舐められるかもしれない!他のFAGは私の部下だった奴らだ!」

 

「サボりでバトルやってた奴の言う事かよ……」

 

「私はバトルが拠り所だったんだ!栄光を忘れずにいたかった!」

 

「めんどくさい奴だなぁ。別に話をするなんて自然な事だろ?思った事を素直に言えばいいんだよ」

 

「そうなのか?でもそれで相手が不快な思いしたら……」

 

「大丈夫だよ。大体そんなの気にしてたら出来る会話も出来なくなっちゃうだろ。ボクなんてマスターとの会話の中で不快な思いなんて一度も……」

 

 と、会話の中でフレズは自分の行動を思い返す。会話の中で……胸を揉ませたり、舌を絡めて唾液を出し入れするキスをしたり、スパンキングされてもっと叩かれたいとお尻をくねらせて主人を誘ったり……不快な思いはしてないが、恥ずかしい思いはしていた。

 

「……して……な……」

 

「?どうした?顔を真っ赤にして……」

 

「な!何でもないよ!!さっさと行って来い!」

 

「!?あ、あぁ……」

 

フレズに促されながらバーゼラルドは源三の所へ戻る。

 

「あの……マスター」

 

「……どうした」

 

「……今日はいい天気ですよね」

 

「?あぁ」

 

「……いや、もっと盛り上がる話題とか出せよ」とバーゼの後ろでフレズは小声でバーゼに告げる。

 

「そんな事言われても……そもそも話す話題が……」

 

「眼の前の時代劇があるだろ。普通に感じた事話せばいいんだよ」

 

 目の前の時代劇はクライマックス。殺陣のシーンになっていた。主人公の侍が一人で何人もの浪人を切り捨てている。

 

「感じた事……あの、マスター」

 

「なんだ」

 

「こうやって何人もの相手を相手にするシーンって、どう考えてもあり得ないですよね」

 

「」

 

 バーゼの話題にフレズは口をぽかんと開けた。

 

「普通だったら主人公が一人斬ってる隙に、後ろから襲って斬ればそれで終わりなのに、わざわざ待ってたりするなんておかしいじゃないですか。大体この場に一人で乗り込むなんてこの主人公も愚かとしか言いようg」

 

「アホーッ!!!」

 

 見かねたフレズがバーゼの後頭部に飛び蹴りをかました。綺麗なライダーキックだった。

 

「グハッ!何をする!貴様の言った通りにやったのだぞ!」

 

「少しは話の内容を選べよ!」

 

「何でもいいと言ったのは貴様だ!」

 

「言われた相手がどう思うか位考えろよ!」

 

 あまりフレズの方も人の事は言えないかもしれない。こういう彼女の反応も、健に似た様な事言って怒られた事がある故の反応だった。

 

「ぐ……すいませんマスター……この様な醜態を……」

 

「?いや、いい……」

 

 マスターの源三は特に気にした素振りも見せずに時代劇にまた集中する。が、ポツリと呟いた。

 

「……そういえば初めてだな。お前がこんなに喋ったのは」

 

「え?あ、はぁ……」

 

――そういえば……ボクも昔は物を知らなくて、マスター困らせてたっけ……――

 

 そんな事をフレズは思い出す。元々自分のシリーズもバトル以外では無知だった。今こうしてバーゼにアドバイスが出来るのも健や彼の祖父のおかげだ。

 

――アイツ……本当にそう言って叱ってくれる人がいなかったんだ……――

 

 なんというか、自分が買われた理由含めて他人の様な気がしない。バーゼに対して親近感があったフレズだ。

 

「あのさ、お爺さん……」

 

「……バーゼの友達か」

 

 フレズの事が気になっていたらしい。源三は声をかける。さっきの口喧嘩でバーゼと親しそうだったのが気になった様だ。

 

「あ、うん。あのさお爺さん。バーゼの事は好き?」

 

「!?な!何を言っている!」

 

「あぁ、好きだよ」

 

 そう聞くと、フレズとしては何だか嬉しくなってくる。

 

「マ、マスター……」

 

 戸惑いつつも嬉しそうなバーゼに、フレズは言った。

 

「やっぱりダンディでいいマスターだね」

 

――

 

 その後、健を待たせてはいけないとフレズは健の所へ帰って行った。勝手に出て言った事を謝ると健や轟雷達にフレズは事情を話す。

 

「ってわけなの。ゴメンねマスター」

 

「へぇ。お爺さんだったのか」

 

「そのマスターに会う前は、バトルしかやってこなかったんだってさ。なんか……可哀想だよ」

 

「意外ですねー。フレズがそう言うなんて」

 

 思わず轟雷の口からそんな言葉が出てくる。好戦的で普段考えなしなフレズがそう言うのはかなり意外だった。そしてそれはその場にいたFAG達が皆思っていた事だった。

 

「!な!なんだよ!ボクだってマスターから色々学んでるんだからな!」

 

「え?そうだったの?」と健。

 

「!?マスタァァッ!!」

 

 きょとんとした表情の主、望んだ答えを出してくれなかった少年にフレズは若干涙目で叫んだ。

 

「泣くなよー。ゴメンゴメン」

 

「マスターが教えてくれたんだからね……無限の可能性があったって、一人ぼっちじゃ何にもなれない、何も出来ないって……」

 

「?そんな大それた事言った覚えはないよ」

 

「ボク達の試作機が開発者にそう言われたらしいよ。だから孤高の存在でいろって、……変だよね。ボク達を作ったのも人間なのに」

 

「……フレズ。熱でもある?」

 

 普段見せ無い様な知的な様子に、イノセンティアはかなり面食らう。

 

「イノセンティアまで!」

 

 頬を膨らませて涙目で怒るフレズにイノセンティアは言い過ぎたかと反省する。

 

「悪かったよー」

 

「まぁまぁ、フレズも色々と学んでいるって事さ」

 

 

 その日の夜。場所は健の家。VRの空間内で健とフレズの二人はキャッチボールをしていた。ステージは夜の草原がどこまでも続く。穏やかな風が吹く心地よいフィールドだ。こうした一日の終わりにVR内での軽い運動は二人の日課となっていた。

 

「それっ!」

 

 左手にグローブを付けた健がフレズに向かってボールを投げた。フレズも左手にグローブを付けて投げたボールを受け止める。

 

「そうそう。マスター上手!」

 

「じゃあもう少し距離をとってやってみるよ!せーの!」

 

 健が距離を開けてボールを投げた。が、フレズには届かずボールは地面に落ちるとそのまま転がり停止。

 

「マスター、手だけで投げるんじゃ駄目だよ。体全体をバネにして投げなきゃ」

 

 見本として投げる動作を一度しながらフレズはボールを拾い、健に手渡した。眼の前のビキニアーマーのフレズの肌をさらした胸が、中央部に空いた穴から見え、左右の谷間が小刻みに振動する。

 

「……あ、うん」

 

 人工物なのは解っている。しかし目の前の少女の健康美は小学生の少年には刺激が強いのは明白だ。以前自分が揉んだ胸より露出が多い。人間なら何カップあるのだろう。とどうしても意識してしまう。フレズの方も健の様子を理解した。

 

「?あー、マスターってばボクの胸見てドキドキしてるんだー」

 フレズは健が胸をチラ見してるのに気付いた。両手を上げると見せつける様に胸をのけぞらせる。

 

「っ!悪いかよ……」赤面しながら少年は答える。

 

「うぅん……マスターが好きならボク嬉しいよ……」

 

 恥ずかしさと嬉しさ、両方を出した様な表情で少女は言った。恥ずかしさはあれど、好きな人にそう思ってもらえるのはやはり気分がいい。

 

「っ!!さっき教えて貰った事実践するからな!」

 

 愁いを帯びた少女の表情は、少年にとってこれまた強い刺激だった。ごまかす様に距離を置く健。

 

――マスター、恥ずかしいのは嫌だけど、マスターが喜んでくれるとボク嬉しくなるの。ボク達に無限の可能性があるなら、マスターの身体も治せるよね。……そして何だって出来るなら……何にだってなれるなら……なれるかな。ボク……マスターの……――

 

「フレズ!行くぞ!」

 

 照れをごまかす様に、わざとぶっきらぼう気味にボールを投げる健。物思いにふけっていたフレズは我に返った。

 

「えぇっ!ちょっと待って!」

 

 対応が遅れたフレズお構いなしに、投げたボールは真っ直ぐフレズに向かい、『ぼすっ』と音を立てて、……フレズの胸の谷間に突っ込んで、左右の柔肉を押しのける形で止まった。

 

「……え?」

 

「……ナ、ナイスキャッチフレズ……」

 

 流石にこの状況はドキドキしない健であった。

 

――

 

 暫く遊んで二人で寝っ転がる。上空に広がるのは満天の星空だ。並んだ二人は提案するまでもなく手を繋いでいた。

 

「やれやれ、これで運動になるのかなぁ」

 

 この空間の中では自分は健康な身体能力を発揮できる。しかしVRの仮想空間だ。自分のリハビリやトレーニングになるとはどうも思えない。

 

「お医者さんからはイメージトレーニングに繋がるって言われたじゃない。大丈夫だよ。病は気からって言うだろ?」

 

「そういうもんかなぁ。今度の検査入院も近いし何て言われるか」

 

 検査入院、というのはこっちで定期的に短期間の入院をして体の調子を見るわけだ。いつもは山奥の診療所暮らしの健だが、調子がいい時はこっちで暮らし、その時は診療所の先生と繋がりがある医師に診てもらう。そして山に戻るか街で生活するか判断してもらうわけだ。

 

「そういえばもうすぐだったっけ。……寂しくなるなぁ」

 

 その間フレズは留守番となる。やはり主と会えなくなるのは寂しい。

 

「そんな長く続くもんじゃないから大丈夫だよ。今度はお見舞いでヒカルさん達も来るだろうし」

 

「ねぇマスター……手、もっとギュッとして……」

 

 暫く会えなくなるから少しでも温もりを感じていたい。そう思いながらフレズは健に手を差し出すのだった。

 

 

 そして健は検査入院となり市内の総合病院で入院となった。そして暫くして……。

 

「いい傾向だよ。前よりも調子がよくなってるね」

 

 パジャマ姿の健。一通りの検査を終え、診察室にてカルテやレントゲンを見る中年の医師が、安心する様に言った。健の担当医でありもう長い付き合いだった。丸椅子に座った健は結果を早く知りたかった。

 

「じゃあ山に戻る必要は……」

 

「うん大丈夫。このまま街にいても問題は無いはずだ」

 

 そう言ってくれる担当医に「よかったぁ~」と健は顔の緊張を解き、安堵の息を吐いた。

 

「後でご両親にも連絡をしておくよ。これなら早く退院も出来そうだ」

 

「有難うございます。よろしくお願いします」

 

 そう言って健は診察室を後にした。田舎の診療所とは違う。広大で何人もの人間が行き来する廊下が健はどうにも慣れない。

 

――診療所と違ってこっちだと落ち着かないなぁ……――

 

「マースタッ!」

 

 と、快活な声が響くと目の前に小さな少女が飛んでくる。エアバイク形態のフレズだ。

 

「あ、フレズ。来てたのか」

 

「今日はボク一人だけどね。診察結果どうだった?」

 

「うん。調子はいいよ。山に戻らなくてもいいみたい」

 

「やったぁ!じゃあ退院しても轟雷達とも遊べるね!」

 

「僕も出来れば山に戻りたくなかったからね。正直嬉しいよ」

 

 そんな事を話しながら、健は今の状況ならジュースとか飲んでも平気だろうなと休憩所へ移動。

 

――何にするかな……今日はコーラでいいか――

 

 自販機の前に立ちサイフからお金を取り出そうとする健だが、その拍子にお金を落とす。

 

『あ!』

 

 そう思わずフレズと健は口に出す。コロコロと百円玉は床を転がり健の手元から離れていった。

 

「……」

 

 と、それをソファに座ったお爺さんが手を床に置いて百円玉をキャッチする。新聞を読んでいた為か老眼鏡をかけた白髪の老人だった。

 

「……これ、君の?」

 

 健に老人は拾ったお金を渡す。

 

「あ、はい。有難うございます」

 

「あれ?源三さん?」

 

 と、フレズは相手がバーゼのマスターである事に気が付いたようだ。

 

「ん?フレズ知合い?」

 

「良沢源三さん。知ってるも何も、この間のバーゼの……」

 

「マスター。迎えの車はもう少しかかるようです」

 

 噂をすればなんとやらだ。バーゼが休憩室に飛んでくる。とフレズと鉢合わせするや否や反応する。

 

『あ』

 

 

「まさかマスターと同じこの病院に通っているなんてなぁ」

 

 休憩室内の日差し差し込む窓際、そこに腰掛けたフレズが、同様に横に座ったバーゼに言った。マスターの健も源三の横に座ってコーラを飲んでいた。こちらでは会話はない。

 

「家ではマスターと二人で生活をしている。サポートは私の役目だ」

 

「二人?他に家族は?」

 

 と、フレズがいきなり聞き出す。「いきなり失礼だぞフレズ」と少し離れた健は釘を刺した。

 

「……家族はいないな。逃げられたよ」

 

 感情がいまいち読めない声で源三が口を開く。逃げられたという言葉に健の顔が青ざめる。

 

「あ……!すいません!こいつが失礼を!」 

 

「いや、いいさ。そういう君の方は見た所入院してる様だが」

 

「あ、はい。僕身体が弱くて……」

 

「そうか。家族は?」

 

「両親と祖父がいます」

 

「そうか……。大切にしてやれよ」

 

 言葉は少なめだが、健に対して思う所があるらしい。「はい……。有難うございます」と健は返した。

 

「入院生活が多くて会える頻度が限られてますけど、コイツがいるから寂しくないですよ」

 

 そうフレズの傍に歩を進めるとフレズを掌の上に乗せる健。

 

「マスター……」

 

「まぁ賑やかし程度にはなるな」

 

 そして水を差すバーゼ、

 

「お前っ!所で源三さん。バーゼとの生活ってどんなのですか?こいつってばバトル以外からっきしだからどんなのか心配になっちゃうよ」

 

 バーゼの挑発に乗りそうになりながらもフレズは逆にバーゼの弱みになりそうな事を口にする。どうもバーゼが家事を一手に引き受けてるとは思えない。

 

「貴様……」

 

 バーゼも痛い所を突かれた様な反応を見せる。効いてると確信するフレズ、

 

「バーゼの奴はな……ただそこにいるだけだな……サービスセンターでも一人だけポツンとしていた奴でな、浮いていたから俺が選んだ」

 

 フレズの予想通りと言っていい答えだった。鬼の首でも取ったかのような気分になるフレズ。

 

「あーやっぱり駄目なやつじゃん。源三さんてばなんでこんな奴を選んだのさー」

 

「フレズ!」

 

 健は止めようと声を荒げる。

 

「逃げた妻と娘に似ていたからだ」

 

『え?!』

 

 その言葉に全員が言葉を失った。

 

 

 その日の夜。昭和に建てられて現在も手入れが行き届いている二階のない古い一軒家。そこがバーゼと源三の生活する家だ。

 

「ズズ……」

 

 ノスタルジックな和室の中にあるコタツ。そこに入りながら源三は湯気の立つ緑茶を飲んでいた。自分で淹れた物であり、先述の通りバーゼは家事は何もしない。というか出来ない。

 

「マスター……お茶でしたら私が淹れるのに……」

 

 向かいのテーブルの端、正座するバーゼが申し訳なさそうに言う。

 

「淹れ方解るのか?」

 

「いえ……」

 

 ついノリで言ってしまったがバーゼは世話の一切が出来ない。バトル一辺倒の生活だったからだ。テレビもつけてないお茶の間を、お互いの間を沈黙が漂う。

 

――なんなんだこの重い空気は……、無心でバトルをしていた時の方がずっと楽だった――

 

 フレズにからかわれた事がどうにも腹だたしい。なんとか自分がそんなことは無いと言い返したいが、自分が何もできないのは本当だった。

 

「……昼間に言われた事が気になるのか」

 

 見抜かれていた。バーゼとしてはドキッとした。

 

「構わないよ。俺としては任せっきりにするよりはずっといい」

 

「?も、もしかして期待されてないんですか?!」

 

 慌てたバーゼの声、戦力外に思われるのは正直嫌だった。

 

「そうじゃない……お前が逃げた妻と娘に似ていると言っていたのは知ってるだろう」

 

「あ、はぁ」

 

「昔俺はな、仕事にひたすら打ち込んでいた。働けば働くほどお金が貰える時代だった」

 

 今は昔、かつてバブルや好景気と呼ばれていた時代の話だ。今の若者には無縁と言っていいだろう。

 

「休みの日も返上して、日付が変わるまでは当たり前、お金があればあるだけ幸せになれると思って、授業参観や運動会といったイベントも一切を無視したやり方をしていたら……な」

 

「……そういうのはご家族の方が酷いと思います。マスターの苦労も知らずに……」

 

 バーゼ自身、ガムシャラに戦っていただけに、マスターの方に共感が出来た。

 

「いや、酷いのは俺の方だったよ。それぞれに役割があると思って、それに違う役割の人が踏み入ってはいけないと決めつけていただけだ」

 

「役割ですか……」

 

「逃げられた後に思ったよ。俺は一体何の為に働いていたんだってな。家族の為のつもりだったが、結局は自分の為だけだった」

 

「……」

 

 フォローを入れたい所だが、どう言えばいいのか解らない。というか似てると言われてもどう似てるのかすら解らない。

 

「あの……私に似てるのでしたら、写真とかはないのでしょうか……」

 

 マスターの心の傷を抉るかも知れないという不安もあったが、知りたかったバーゼだった。

 

「あぁ。写真はまだあるよ」

 

 

 暫くして別の部屋でゴソゴソと音を立てて押し入れの中を探す源三だった。次々と箱や小物が出てきながら源三は中を確認すると、目的の写真で無い物は外に出す度に横に寄せる。畳張りの和室の上に物が積み重なっていった。

 バーゼは力の関係上、それを見てる事しか出来ない。

 

「マスター、手伝わなくて大丈夫でしょうか……」

 

「大丈夫だ」と源三は答える。バーゼとしては自分で言い出したのに手伝えないというのがどうももどかしい。自分が無力だというのが以前の栄光とは真逆の体験だった。

 

――これら一つ一つが、マスターの歴史の積み重ねなんだ……――

 

 そうバーゼが思っていると源三が今までより高い声色で声を出した。

 

「出てきた。これだ」

 

 長らく手入れをしてなかったのだろう埃をかぶっていた小箱を出してきた。フーッと息を吹きかけて埃を飛ばす。そして箱を開けると布に包まれた写真立てを取り出すと布を解く。そしてバーゼにそれを見せた。

 

「わぁ……」

 

 感嘆の声を上げるバーゼだった。中の情報は彼女にとって非常に新鮮な物だったからだ。現在のデジタルの写真とは質感が違う。男性1人と同世代の女性が、そして女性に抱きかかえられていた女児が写っていた。場所は遊園地だろうか、背景に観覧車やジェットコースターが見える。

 

――フレズの言った通りに……言われた相手がどう思うのか考えて……――

 

 バーゼ自身、コミュニケーションをとる目的もあった。

 

「……よく、似てると思います」

 

 嘘だ。イマイチ実感が湧かない。写真の中の女2人はバーゼ同様の金髪のロングヘアと白い肌をしていた。が、バーゼとしては顔つきは自分と似てるのかイマイチ判断がつかない。実際は確かに似ているのだが、意識してないバーゼにとってはよく解らない。

 

「そうか」

 

「むしろ、マスターの若い頃の方が私は興味を引きます」

 

 素直な感想だった。写真の中の若い源三は現在の源三と、どことなく面影はあるがこんなに老化していくというのはFAGにとって興味深い現象だった。

 

「新鮮か?ここまで顔が変わるっていうのは」

 

 若干砕けた様に言う源三。

 

「そりゃ、私は生まれた時からバニーガールでしたからね」

 

 バーゼなりのジョークだった。源三もその意図が解った様だ。フッと笑う。

 

「フッ……」

 

「どういう人だったんですか?マスターのご家族」

 

 似てるとは言われたが人となりは聞いてない。バーゼは気になった。

 

「妻はそうだな。我慢強い人だったな。娘は……どういう子だったんだろうな……」

 

「え?」

 

「まぁ、そう言う事だ……全てを仕事の方に優先してしまって、その所為で家族の事すら知らなかった。それに気づいたのは、離婚した時だったよ」

 

「……」

 

 後悔、そんな感情が言葉の中に感じられた。想像以上に重い話になってしまった。どうにか話題を変えようかと

 

「あの……ここの遊園地の場所、どこなんでしょうか。今度一緒に行きませんか?」

 

「いや、そこはもうやってないよ。閉園した」

 

「え……」

 

「昔の話さ……」

 

 なんというか、全てが裏目に出る。言うべきじゃなかったとバーゼは首を垂れた。

 

「あの……マスター、私は……」

 

――私は……この家族の代わりなんだろうか……――

 

 そう問いかけたい。だがバーゼにもそう言うのは失礼だと理解はしていた。

 

「……なんでもありません」

 

 言える筈も無くバーゼは口を紡ぐ。

 

「言いたい事は分かる。……お前を……妻や娘の様に思ってるな。俺は……」

 

「!……そう……ですか」

 

 考えてみればそうだ。最初に自分を選んだ理由が妻と娘に似ていたのだから、そう思うのは自然でもあった。

 

「……私も、どうしても過去の戦いの栄光に想いを馳せてしまいます。似た者同士なのかもしれませんね」

 

「そう言う、お前の過去も知りたいな」

 

「いいですよ。私が買われたのはですね……」

 

 少しはお互いの距離感も近づけたかもしれない。お互いがそんな風に思えた夜だった……。だがそれはお互いが過去に拘ってるともいえた間柄だった。


 
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