月夜の晩。キエサルヒマ大陸外の某所でキリランシェロ―――いや、現在キエサルヒマ大陸でも1・2を争う賞金首になった『魔王』オーフェンは岩に腰掛けて手の中にある物体を懐かしげに眺めていた。
(あれからもう7年か・・・)
いろいろな事があった。異形に変貌した姉を追いかけて『牙の塔』を出奔。その後農村の娘と婚約をかわしたりもした。武装盗賊団と共に行動したりもした。無能警官とその妹、彼女らに仕える変態執事に振り回された1年近く。異形に変貌した姉との再会、そして新たなる仲間との借金取り立ての旅・・・それがいつしか大陸の存亡を賭けた戦いに。
「けど、いつまで経っても忘れられねぇもんだな・・・」
金髪のワガママ娘や生意気な弟子―――いや元弟子か。彼らとの旅も忘れられないものだったが、オーフェンにとって忘れられぬ日々があった。今手元にあるものがなければ、夢だと片付けられてもおかしくないような日々。
「思ってみれば『さよなら』すら言えなかったな・・・けどあいつら、今の俺を見て俺が『キリランシェロ』だって分かるかな?」
黙って消えてしまい、容姿については5年間共にいて面識もあった姉と同い年の女魔術士にも見分けがつかなかったのであまり自信はない。もしかするとはやてあたりは黙って消えた事に怒るかもしれない。いや、泣くのかな?
そんな事を考えながらオーフェンは、ミッドガルドで『デバイス』と呼ばれる短剣型の物質に語りかけた。
「なぁ、『スコルソール』?」
スバル・ティアナ・エリオを相手にした格闘訓練を終えたキリランシェロは、シャワーを浴びて機動六課の制服に着替え、ある場所に向けて歩を進めていた。ちなみにスバルたちは未だに訓練室で大の字になっている。
プシュー、という音と共に自動ドアが開き、彼は目的の部屋に辿り着くと、そこには2人に人物が待ち構えていた。
「来たよ、リィン」
「いらっしゃいです!キリランシェロ君!」
入室してきたキリランシェロに元気よく挨拶したのはリィン。本日の彼女は妖精並みの大きさで、デバイスの調整などに使われる装置の横に浮かんでいた。
「やっほー、キリランシェロ君」
「シャリオさん、お久しぶりです」
「もう、シャーリーでいいって言ってるのに」
もう一人の人物はロングアーチ所属のシャーリーことシャリオ・フィニーノ一等陸士。彼女はいまだに『さん』づけをやめてくれない2歳年下の後輩に不満顔になるが、そこは彼女もプロ。ニコニコと笑みを浮かべてキリランシェロを手招きする。
「そんなことよりもホラホラ!キリランシェロ君のデバイスだよ!」
「ご希望通り短剣型に作ってます~!」
装置に浮かんでいるのは黒い鞘に収まった短剣の形をとったデバイス。キリランシェロの専用デバイスである。
「その子の名前は何にしますか?」
「名前?・・・あぁ、なのはのレイジングハートみたいな?」
「キリランシェロ君の要望通りレヴァンテインと同じアームドデバイスだけど、名前があったほうがいいじゃない?」
「うーん・・・そうかもしれませんね」
手渡されたそれを手にとって眺める。飾りも何もない黒の柄の真ん中にオレンジ色の宝石が詰まっている。
「『スコルソール』なんてどうですか?」
「スコルソール・・・・?まぁ、他にいい案もないし、暫定的にそれでいいか・・・」
ホテル・アグスタ。
本日ここで行われる骨董オークションの警護にキリランシェロ達機動六課は出動していた。
なのは・フェイト・はやての隊長陣はそれぞれ内部での警護に当たるため、それに相応しいドレス姿で着飾っていた。
「わ~♪フェイトちゃん、そのドレスセクシーやね~」
「いやいや、はやてこそ可愛いじゃない、その白のドレス!」
フェイトとはやてがキャイキャイとお互いをほめそやす場所から少し離れて、桃色のドレスを纏ったなのはは待ち人を探していた。
「なのはちゃん!ウチらの王子様はまだ来んのか?」
「あっ!来たよ!」
なのはの視線の先、そこには明らかに着慣れていない黒のタキシードを着心地が悪そうにしているキリランシェロの姿があった。
「よっ、王子様!なかなかの男前やないか~」
「・・・うるさいなぁ。その『王子様』ってなんのことだよ、はやて?」
ニヤニヤ笑いながら脇を突いてくるはやて。キリランシェロはソッポを向いてすねたような口調。
(あ、照れてるんだ)
少年の頬が僅かに赤くなっているのを見て、フェイトはクスッと笑う。
「さ、ほな警邏に行くで。二手に分かれるんやけど・・・そやな、キリランシェロはなのはちゃんと一緒に行ってくれるか?」
「まぁ、いいけど・・・」
「ほな頼んだで~」
「そっちはよろしくね。なのは、キリランシェロ。あ、そうだ」
フェイトは先に行ったはやてを追う前に、キリランシェロに念意で話しかける。
『ちゃんとエスコートしなくちゃだめだよ?』
『・・・分かってるよ』
『ならよろしい』
フェイトは満足げにうなずくと、はやてを追って歩いて行った。
「それじゃ行きましょうか、お嬢様?」
キリランシェロは見よう見まねで出来るだけ恭しくなのはの手を取った。彼女は少し頬を赤らめながら、キリランシェロの手を握り返す。
「行こう、キリランシェロ君」
それからしばらく後だった。
外に待機しているシグナム達から敵の襲撃が告げられたのは―――
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こちらも久しぶりのオーフェン投稿です。
キリランシェロが何気にハーレムルートを歩いているような気がしてなりません。