第九章
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~坎宮 お仕置き部屋~
桂花「何で私の案が却下されたのよぉ!?」
華琳「当たり前でしょう桂花。 魏ならあれでよかったけれど、ここは呉なのよ?
あなたも知らないわけではないでしょう、呉の国策を? 私だって、その対象の一人なのよ。
それに例え魏だったとしても、一刀があなたの示した案に納得するとは到底思えないわね。
軍師の任を解かれなかっただけ、ありがたく思いなさい」
桂花「か…華琳様があの孕ませ無責任男に汚される姿など、私は見たくありません!!」
ペシンッ!!
華琳は桂花の尻を力いっぱい平手ではたいた。
桂花「ひいいぃぃぃ~~~… 華琳様ぁ、華琳様あぁーー お許しを、お許しをおおぉぉーー……」
華琳「あなたの主張なんてどうでも良いのよ。
文台様は雪蓮と違って、一刀と閨をともに出来ない将は呉には不要とお考えだわ。
…ほかの人たちを見なさい、あなた一人だけよ、一刀をそこまであからさまに毛嫌いしているのは。
それに、許しを請う相手が間違っているのではなくて?
この私ではなく、文 台 様 に許しを請うのが筋というものでしょう?」
桂花「ひっ……!!!」
華琳「さぁ桂花、文台様と一刀のところに行って謝罪してきなさい」
桂花「そ、それだけは、それだけはご勘弁を…」
華琳「なら、あなたの代わりに私が行きましょう。 私があなたの分の罪も一緒にかぶって差し上げましょう。
そして文台様から命じられた暁には、私があなたの代わりにこの体を差し出しましょう。
それで良いかしら、 桂 花 ?」
桂花「ひ、ひいいぃぃぃ~~~……」
華琳「ひいひい言ってるだけじゃ分からないわよ。
聞けばあなた、落とし穴を掘って一刀を落としたり、
脈絡もない罵詈雑言を吐きまくったりしているんですって?
祭殿から苦情が来たわよ。 祭殿だけじゃないわ、雪蓮、雛里、霞、ほかにも目撃者が沢山いるわ。
あなたの極度の男性嫌いの性格は、これから呉でやっていく上で間違いなく大きな障害となるわね。
今のうちにその歪んだ性癖を徹底的に矯正して差し上げましょう」
~震宮 一刀の執務室~
辟易。
それが今の俺の心境を表す、最もふさわしい言葉だった。
俺は、自分の上官から一転して部下と化したこのお姉さんを、正直扱いかねていた。
戦に出られなくなったとはいえ、間違いなくこの人は猫科の猛獣、すなわち虎なのだ。
俺はあの人事発表で、危険な爆発物を何発も抱え込むことになってしまったのである。
おまけに冥琳なんぞ、「肩の荷が下りた」などと言って、この俺にまるっと放り投げやがった。
お前ら、断金の交わりはどうしたんだ、断金の交わりは。
雪蓮「ねぇかーずと、たまには一緒に市にでも連れてってよ~、暇ぁー」
一刀「今俺は仕事中なの、すっぽかすと愛紗と蓮華にどやされるんだから後にしてくれ。
蓮華はまだしも、愛紗を怒らすとマジでコエェんだから」
雪蓮「あ~ん、一刀のいけずっ。 どっちにしたってあの鬼畜よりはましでしょ?」
一刀「拗ねても無駄ですっ というか煌蓮さんと一緒にしないでくれ、あの人はもう人知を超えてるから!」
雪蓮「ぶーぶーぶー」
まったく、この不良君主は…椅子の上でじたばた暴れないでくれ、ぶっ壊れるから。
雪蓮「ねぇ~、かーずとぉ~、お酒飲みたい~、あ、あとつまみのメンマもね♪」
一刀「……勘弁してくださいおながいします」
雪蓮「え~、あのメンマ美味しいのにぃ~。いったい誰が作ってるのかしら?
たしか、趙なんとかって書いてあった気がするけど」
一刀「そんなの知りませんっ!! いいからじっとしててくれ。華佗さんに言われたろ?」
雪蓮「え~やぁ~だぁ~、あーばーれーたーい~~~、夜のお相手でもいいからぁ~~」
ベイベー!
ホント、わがまま女王様のお守りは地獄だぜぇ!
フゥ~ハハハ~ハァ~!!
???「くぅおぉるるあぁーー! こんんんの、ぶあっか、むすめ~~~!!!」
ドゴスッッッ!!!
!?
雪蓮「いっっった~~い、んもぅ、一体何するのよ、こんの鬼畜ぅ」
煌蓮「何が痛いだい!甘ったれるのも大概にしな!!
まったく、坊主に迷惑かけるんじゃないよってあれほど口酸っぱく言っておいたじゃないか。
もう忘れたのかい!?」
一刀「ちょっ、煌蓮さん、俺は別に…(というか、実の娘の頭にゲンコツ食らわせやがったぞ、このお母さん)」
煌蓮「いいんだよ坊主。お前さんは呉に婿入りする大事な人間なんだ。
それにちっとばかし拳(コブシ)入れてやらないと、このアンポンタンはすんぐ忘れちまうんだよ」
雪蓮「ひっどーい、ねぇ~一刀ぉ~、この鬼畜があたしをいぢめるのぉ~、助けて~」
一刀「……いい加減にしてください」
雪蓮「ぶーぶー」
煌蓮「坊主の言うとおりだよ、あんた、大概におしっっ!!!」
ドガッッ!!
今度は蹴りですかっ!?
雪蓮「いった~い んもう、母様なんてキライッ」
煌蓮「ったく、世話の焼ける子だねぇー。坊主、今日は仕事はもう良いから
この子達の“相手”しておやり。 あたしゃ野郎どもにカツ入れてくるから、
明日の昼まで戻んないよ」
一刀「分かった、行ってらっしゃい…て、この子「達」って?」
バタンッ!
穏「はぁ~~い、一刀さぁ~~ん、おべんきょしましょうねえぇ~~。 んふ、んふふぅ♪♪」
桃香「おじゃましまーす♪」
一刀「………」
そういうオチですかい。 このお母さんめ、俺を嵌めやがったな?
というか、この三人の場合、文殊の知恵どころか、馬鹿の寄せ集めに過ぎない気g…ゲフンゲフン。
~建業郊外 調練場~
曹魏軍最精鋭、一万。
何十万という兵たちの中から、選びに選び抜いた精鋭中の精鋭だった。
練度も、士気も、ほかの兵たちとはわけが違う。
対する孫呉・劉備軍側の兵数は、わずか二千ずつ。
普通に考えれば、この調練は魏軍の圧倒的な勝利で終わっていただろう。
そう、普通に、考えれば。
では何が普通ではないのか?
それはこの、魏呉両軍問わず死屍累々たる状況にあった。
煌蓮「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーーーー!!!!!
どかんかいカス共がアァァッッッ!! 邪魔する奴は消す!! 立ちはだかる奴は殺す!!
歯向かう奴は潰す!! 近づく奴は叩っ斬る!! 死にたい奴からかかってきな!!!」
魏軍兵士「ひ…ひいいぃぃぃ!!」
呉軍兵士「ぶ…文台様だあああぁぁぁ!! 逃げろおおぉぉ!!!」
劉備軍兵士「どわああぁぁぁぁ!! こっちまで巻き込むなあああーーーー!!!」
魏軍兵士「あんぎゃーーーーーーーーー!!!」
呉軍兵士「くぁwせdrftg」
劉備軍兵士「あばばばばばばばばばばばばばばば」
このすさまじい状況を、近くの高台から陣を張って眺めている筋肉魔人がいた。
おなじみ、貂蝉と卑弥呼であった。
彼女(?)たちは、建業における孫堅との激闘の末、拳と拳で渡り合った仲として、
孫呉の将軍の一員として取り立てられたのである。
彼ら漢女に割り当てられた兵数は、貂蝉が歩兵二万、卑弥呼が水軍三万。
そのうちのそれぞれ三千ずつを今日の調練では率いていた。
彼ら二人は、孫堅の強さを賞賛するのと同時に、
彼らにしか知りえないことに対して、ある憂いを寄せていた。
貂蝉「相変わらずすっごいわねぇ~、孫堅様は。 んもう、腰がビクンビクンきちゃうの」
卑弥呼「ふむ、あれほどの敵を前にして一歩も引かぬその心意気、私も感服したぞ」
貂蝉「あたしもなのねん。 ところで卑弥呼、孫堅様って、なんかこう、ほかの子達と比べて
あまりに強すぎるんじゃないかと思うんだけれど、あなたはどう思うかしらん?」
卑弥呼「ほう、貂蝉よ。 貴様もそのことに対して疑問を抱いておったか。
確かにあやつは、少々強すぎる。 われわれと二対一であるにもかかわらず、
途中までは互角に戦っておったしのう」
貂蝉「そういえばあたしの部下が、孫堅様がやってくる直前に、流れ星のようなものを見たって
言ってたわん。 もしかして、もしかするのかしらん?」
卑弥呼「ぬう、流れ星…か。 そういえば我らがこの外史にやってくる直前に、
前の外史の方向からこちらに向かって、やたらと強い気の流れを感じたな。
もしやまた懲りずに、あの小僧共が暗躍しておるのかの?」
貂蝉「あらあらあらん、駄目駄目よん、卑弥呼。 その名を明かすと、この外史にまで言霊が及んでしまうわん」
卑弥呼「わかっておる。 しかしあの外史は、とうに終幕を迎えたのではなかったのか?」
貂蝉「そうなのよねぇん。 だからそう簡単に、こっちの方にまでは手出しできないはずなんだけれど…」
卑弥呼「しかし管路様の易では、本来この外史は、赤壁の戦いによって魏が倒れ、
その後の孫権の王政によって結末を迎えるはずであったとの結果が出ておる」
貂蝉「だとしたら、何らかの要因で、この外史が曲げられて、途中で枝分かれした…?」
卑弥呼「かもしれぬ。 尤もその香具師(かぐし)が、あやつらだという断定は出来んがの」
貂蝉「そしたら、あたしたちはこれからどうすればいいのかしらん?」
卑弥呼「今はまだ様子見だな。 いずれにしても我らはこの外史を支え、終幕まで導くことこそが務め。
否定派共の好き勝手にはさせぬよ。 そうと決まれば、管路様に報告だな」
~擁州・函谷関~
袁紹「ムキイイィィィーー、あのくんるくんる小娘ぇーーー
ぜーーーーーーったい、許せませんわ!! 今に見ておきなさいっっ」
文醜「麗羽様ぁ~少し落ち着いてくださいよぉー。
西に向かって再起を図るって言ったの麗羽様じゃないですかー」
顔良「猪々子の言うとおりですよー麗羽様ー。先はまだまだ長いんですからー」
袁紹「え? あぁ、そうでしたわね。 このわたくし、こ、の、わ、た、く、し、
袁! 本! 初! ともあろう者が、うっかり当初の目的を忘れてしまいましたわ、
をーほっほっほっほ!!」
文醜「……はぁ」
顔良「……はぁ~」
袁紹「…なんですの二人とも、そのいかにも投げやりなため息は」
文醜「だって…なぁ、斗詩」
顔良「だよねぇ~、文ちゃん」
袁紹「むきぃー! なにあなたたち二人だけ分かったような顔してますの!」
文醜「……袁紹様ー、本当に蜀まで行ってあの劉表に取り入るつもりなんですか~?」
顔良「無茶ですよぉ~、劉表さんの軍ってすっっっごく統率が取れてて一騎当千って話なんですよぉ~?
噂ではあの趙雲さんや呂布さんまで参内してるって話なんですからぁ~」
袁紹「あら、文醜さん、顔良さん」
文醜・顔良「へ?」
袁紹「この、わ、た、く、し、が! 蜀の皆さんの心をつかみ、
劉表に代わって太守を名乗れば済むことですわ、をーっほっほっほっほっほ!!!」
文醜「……はぁ あたいは大方そんなとこだろうと思いましたー」
顔良「……麗羽さまー、無茶ですよぉ~」
袁紹「何を言いますの顔良さん、それでもあなたは名門袁家の部下ですの?
ほらお二人とも、早く漢中に向けて急ぎますわよ!」
文醜「へぇ~ぃ」
顔良「はぁ~い」
第九章二節終了
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