No.1002176 フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~ ep17コマネチさん 2019-08-18 15:03:40 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:835 閲覧ユーザー数:830 |
『さぁ!チャンピオン十人抜きも大詰めです!!』
煌びやかなホールにて、何人もの派手なスーツやドレスを着た人達がルーレットやカードに興じていた。ある者は余興とばかりに軽い気持ちで、ある者は儲けを第一に欲を全てさらけ出す。ここはカジノ『トワイライト』。それも正規ではない違法の店。
その店内の一画にて、ミニチュアのコロッセオがあった。その中で一組のFAGが戦っていた。コロッセオの周りに観戦用の椅子とモニターが並べられており、コロッセオの中のバトルを間近で観戦できるという仕組みだった。
『常勝無敗のチャンピオンによる十人抜き!息切れ一つせずにこれで9人目!強い!強すぎる!』
コロッセオの中で二人のFAGが戦っていた。必死に武器を振り回し、銃を連射し相手を倒そうとする。その一方で相手側、チャンピオンと呼ばれた白いFAGは無駄のない動きでかわし続け、その中で撃ち返す。バニーガールの様なFAG、バーゼラルドだ。全身にバーニアを設けた高機動かつ高火力機。
「……」
バーゼラルドは両手に持った連装レールガン『セグメントライフル』を連射して敵FAGに反撃の隙を与えない。相手側は攻撃に集中しすぎたのが災いしてモロに銃撃を受ける。
「くっあぁっ!」
悲鳴を上げつつ吹き飛ばされるとそのまま機能停止。敗北となる。バーゼラルドの周りには十人抜きの敗者であるFAGが九人、それぞれ地面に突っ伏し、壁に寄りかかり倒れこんでいた。その光景を見ていた観客はバーゼに賭けていた者は狂喜し、賭けていない者は絶望の叫びを上げた。
「……」
どちらにしてもバーゼは一切の反応を示さない。何時もの事とばかりに興味がなかった。
『さぁ!いよいよ10人目の挑戦となります!はたして10人抜きなるか!?』
反対側のコロッセオの入場用の柵がせり上がり、挑戦者が飛び出してくる。
「バーゼラルドォォ!!」
叫びと共に白いギガンティックアームズが飛び出してくる。ルシファーズウイングだ。自分の倍以上ある相手に対して、バーゼは変わらず一切動じない。
「アンタがここのナンバー1のバーゼラルドか?!アンタを倒す!」
ルシファーズウイングの中央部に収まったFAG『イノセンティア』が吼える。色白の肌とグレーの髪、赤いボディが特徴だ。そんな彼女にバーゼは初めて口を開く。
「新人か?……盛り上がる要素になればいいがな」
冷静かつ堂々とした態度にイノセンティアは一層腹を立てた。自分の切り札を全く脅威に感じていないのだから。
「舐めるなっ!!」
そう言って手に持った大剣『ギガスラッシュエッジ』をバーゼ目掛けて振り下ろす。が、紙一重で回避、叩きつけられた地面から巻き上がった轟音と土煙が、バーゼの姿を覆い隠した。直後土煙の中からバーゼが飛び出し、左サブアームのヒートクローをイノセンティアの顔面に叩き込もうとする。
「甘いな!」
「このぉっ!」
イノセンティアは羽根状の遠隔装備、フェザーユニットを全て飛ばした。バーゼの左右からそれが襲う。その数22個。バーゼは攻撃をやめると後方へ退避、短剣状の羽根はバーゼを追い詰めるべく追いかける。
「さぁ追い詰めなフェザーユニット!踊れバーゼラルド!」
「フッ……」
余裕の態度を崩さないバーゼラルド。彼女は下がるのに急制動をかけると、大きく前方に高くジャンプ。その際に全てのフェザーユニットとルシファーズウイングの動きを計算。ロックオンを瞬時にかける。
「マルチロック……fire!」
二丁のセグメントライフルを撃ちながらバーゼは着地、撃ったライフルは正確にフェザーユニットを撃ち抜き破壊。間髪入れずに残りのフェザーユニットにライフルを高速で撃って当てていく。まるで鼓舞してるかのような鮮やかな動きだった。
「ガンカタ?!」
「盛り上がるだろう?」
自分のこの戦法さえも、相手にとっては場を盛り上げる芸扱いなわけだ。一層イノセンティアは不快さを表す。
「っ!舐めるなと言っている!」
だが動きが止まった事には変わりない。イノセンティアはギガスラッシュエッジをライフルモードへと変形させるとバーゼへと発射。フェザーユニットを巻き込んでもバーゼを倒せばそれでいいという考えだった。
「フルチャージ!いけぇっ!」
「っ!?」
バーゼが気づいた時には遅い。着弾したビームは大爆発を起こしバーゼの姿を掻き消す。これで勝った。そう思ったイノセンティアだが、
「貴方に教えておいてやろう。必殺のつもりなら必ず仕留めなければ、ギャラリーから不満の声が上がるぞ。無様だからな」
爆風の中からバーゼが飛び出してくる。バリアの様なフィールドを張っていた。ABSA。機体正面のみだがバリアにより防御障壁を張る。
「なっ!」
「もう一つだ。相手の事はよく調べておけ」
「くぅ!偉そうに!」
イノセンティアはルシファーズウイングをパージ、そして二体に分離させる。ハーピーとユニコーンの獣型だが、更に変形、それぞれ人型のヒューマノイドモードへと変える。そしてバーゼに突っ込ませた。イノセンティアはライフルモードのギガスラッシュエッジをバーゼに向ける。ハーピー型が両手のクローでバーゼを捕えようと、そしてもう一体。ユニコーンの方は脚力を活かしてバーゼを放浪しようとする。が、バーゼは冷静なままライフルで二体を難なく撃ち抜いた。それぞれ胸の真ん中を撃ち抜かれた二体はそのまま沈黙。
「なっ!」
「見本を見せようか、必殺とはこうする!」
バーゼは右サブアームを向けた。さりげなくフルチャージしていたのだ。そして放たれたビームの濁流はイノセンティアに向かう。負けじとライフルを撃つがこちらはまだチャージが不十分。バーゼの砲撃を押し返す事は出来ずそのまま、イノセンティアはビームに飲まれる。
「ア!アタシは!ここで勝って自由の身に!そして運命の素敵なマスターにぃ!!」
そのまま爆発。10人抜きはバーゼラルドの優勝となった。
「……私達にそんなものはないよ」
『見事!見事10人抜きとなりました!流石チャンピオンバーゼラルド!』
沸きあがる歓声。バーゼラルドはさも当然と言った表情で、両腕を上げながら歓声のする方へと応える。
『これにてチャンピオン10人抜きを終了となります!賭け金は窓口でどうぞ!』
ハイテンションな実況が終わると観客たちはそれぞれの想いを口に席を離れていく。そしてバトル仕様が解かれたコロッセオは一気に静かになる。そして、それぞれ倒れていたFAG達が次々と起き上がった。
「お疲れ様―これで今日のシフト終わり?」
9人目に倒されたFAGが言った。それにバーゼラルドが返答する。
「あぁ、終わりだそうだ。これで今日の仕事は無くなったな。後は各自自由にしてくれだそうだ」
「と言っても話す相手も碌にいないしなぁ。あーあ、私達も一般のFAGみたいにマスターとお出かけとかしたいなー」
「無理を言うな。私達に自由はない、ただ命尽きるまで戦い続けるのみ、それが我々の誇りだ」
武人然か騎士然とした態度のバーゼラルドだ。試作型は幼く天真爛漫だったらしいが、これは真逆と言っていい性格設定だろう。
「っ?!ねぇ!ちょっと!」
バーゼラルドにさっき戦った新人のイノセンティアが噛み付いた。
「なんだ?新人」
「ここで勝っても自由になれないってどういう事よ!」
「?聞いてなかったのか。私達はここで一生戦い続ける事を義務付けられている」
「!?なんだよそれ!」
「闘犬の代わりだよ。私達の女としての姿や情緒が必死に戦っているのは観客を熱狂させるのに都合がいいらしい。実際に闘犬を使うよりはずっと安上がりで場所も取らないしな」
FAGの分類はホビーだ。賭けはともかく最初からバトルは想定されている。血の出ない人造人間とはいえ女同士で戦うのは際物でも見世物にうってつけらしい。が、イノセンティアにとってそれは到底受け入れられるものではない。
「アタシ達は犬じゃない!」
「だがホビーだ。だいたい正式な手続きを受けて買った以上、違法性はない」
「でもアタシは!どんな人が買ってくれるんだろうって楽しみにしていたのに……素敵なマスターと会えると思っていたのに……。それがこんな違法カジノで賭博試合だなんて……」
理想と全く違う状況にイノセンティアは項垂れる。
「素直でいればきちんと整備はしてくれるぞ?達者なのは口よりも強さであってほしい物だな。いつまでもやる気のない試合をするつもりなら、本当に捨てられるかAS書き換えをされるぞ」
さらっと言うバーゼラルド、しかしそれはお前は奴隷と言われてる様な物だった。
「……こんな所、潰れればいいのに……」
「無理を言うな。違法なのに巧妙に隠してある場所だ。そんな簡単にこういった場所が潰れるものか」
と、一体のFAGがバーゼの肩を叩く。
「あのさバーゼ、ちょっといい?」
「なんだ?」
「なんか外が騒がしいよ?何かあったのかな」
「賭けの歓声位いつだって上がってるだろう?」
「いや、戸惑いの声だよ」
気になって飛行可能なFAG達は上空へと上がる。入口近くで、良く知ってる制服を着た集団が、オーナーと従業員相手に騒いでいた。とはいえオーナー達は観念したらしく手を上げていたが。
「動くな!賭博開帳図利、及び賭博罪の疑いで現行犯逮捕する!!!」
集団の正体は……言わずもがな、警官隊である。バーゼラルド以下はこの状況に驚愕の声を上げるのみだった。
『な!なんだとぉー!!』
それから時は流れて……。
『フレズ!そのまま真っ直ぐ!』
「OK!」
バトルフィールドの外からの指示、マスターの声を受けてフレズヴェルクが地表スレスレを飛ぶ。ご存じ健とフレズのコンビだ。そして場所はナノマシンで構成されたバトルフィールド。今回のバトルフィールドは西部劇でよくある荒野だ。常に風が吹いており、砂塵を巻き上げ続ける。
そして今回のバトルは何人ものFAGが同時に対戦するサバイバルバトルの大会だ。フレズは一人のFAGと戦っていた。
『相手は重武装な上にアーマーでガチガチだ!距離を……』
「そりゃーっ!」
健の指示を待たずにフレズはベリルショットランチャーの銃身にエネルギーを纏わせ相手を切り裂いた。
『置いてって言おうとしたのに!』
「くぁっ!……一人じゃやられない!」
だが相手のFAGは相打ちに持ち込もうと、持っていたミサイルポッドの弾薬を全て至近距離のフレズに撃ってきた。
「ちょっ!聞いてないよ!!」
戸惑うフレズを他所にポッドが一斉に火を噴く。フレズが一斉の爆発に包まれる。
「フレズが!?」
同じくバトルに参加していたイノセンティアがこの展開に驚愕の声を上げた。打たれ弱いフレズだがこんなに早くやられるとは思ってなかった。だがミサイルの煙が晴れるとそこにいたのは等身大の碧色のエネルギーフィールドだった。
『TCS解除』
健がそう言ってフィールドを解除する。中から冷や汗を流したフレズが胸に手を当てていた。表情からして相当ドキドキしてる様だ。
「あービックリしたぁ」
『全く!ランチャーじゃ接近戦の威力は並だって言ったろ!』
フィールドの外でスマホをいじっていた健が呆れながら言った。彼が独断でバリアフィールドのTCSをフレズに張ったのだ。
「あ、マスターがTCSを張ってくれたんだ。ゴメンね」
『エネルギーかなり食うからなこれ、暫くは使えないぞ』
「当たらなければどうって事ないから大丈夫!」
『さっき当たる寸前だったろ!』
漫才。そんな感じのやり取りもつかの間。別のFAG達がフレズを襲う。
『っと!話は後!行くよフレズ!』
「ok!……頼りにしてるから!」
『僕もだよ』
訂正。夫婦漫才をする二人は戦場を舞う。フレズは両手にランチャーを構えると相手に突っ込んでいった。
――あぁも仲良しなの見ると、健さんが病弱だっていうの全然感じないなぁ――
そう思いながらイノセンティアも西洋剣と獅子の顔を模った楯で複数のFAGを相手に取っていた。もう以前の様な轟雷に助けられた面影は無い。
「覚悟っ!みっともなく命乞いなさい!」
イノセンティアに対して相手のFAGがマシンガンを連射していく。
「なんの!」
イノセンティアは飛び上がり回避。相手のFAGは狙い撃とうと銃を向けるも、イノセンティアは剣を蛇腹状に変形させて鞭の様に一体に伸ばす。ビーストマスターソードと言う変形機能を持った剣だ。
「あっ!」
蛇腹状の剣は相手の腕に巻き付き、イノセンティアは力を込めて相手の横にいたFAGの方にぶつけた。
「なっ?!」
二体は重なり合い体勢を崩す。そこを剣を解き戻したイノセンティアが二体纏めて切り裂いた。
「そんな!コンビネーションが仇に!?」
「ただ撃つだけじゃ連携とは言わないわよ!乱戦になりがちなサバイバルバトルは、フィールドをどう使うが鍵なんだから」
以前轟雷に言われた事の受け売りだった。それが今は自分が人に言う立場になった。
「本当に連携のとれた仲間ってのはね、強力な武器よりもずっと頼りになるんだから!」
「努力……します」
そう言いながら二人は光を放ち退場。イノセンティアは今の自分をカッコいいと感じていた。
「決まったぁ……んっ」
と、残った少女は巻き上がる砂塵に眉をひそめる。常に砂嵐の状態が続く。と、ある地点で一際派手に暴れてるFAGが見えた。
「アハハ!所詮はこの武装差!観念なさい!」
正体はFAGフレズヴェルク・ルフス。フレズヴェルクシリーズで最も重武装。両手に構えた分と背中にマウントした4丁のベリルショットライフル。赤いスク水と紫のお団子ヘアー、そして下腹部の淫もn……装飾が特徴である。彼女は全武装を前方に向けられるサイドワインダー形態で戦っていた。
ルフスの人数は3人。それが一斉に相手に奇襲をかける。
「全機で1機!情けはかけないわ!」
彼女は体艦巨砲主義を自負するかの如く4丁の乱射を続ける。襲われたFAG達は成すすべなく敗北。
「あいつら!無茶苦茶して!」
遠目から見ていたイノセンティアはどうするかと思案する。今日はマスターがいない。と、そんなルフス3体に向けて健のフレズが突っ込んでいくのが見えた。
「群れてなきゃ何もできない奴が何を言ってるのさ!」
『フレズ!連携取れれば勝てる!行くぞ!』
「ノーマルのフレズヴェルク!そんな貧相な武装で!」
ルフス3人のうち1人がこちらを撃ってくる。銃身からランチャーよりも大型の碧の砲撃が撃ち出された。
「わっとっと!……ボクのランチャーよりも高出力なベリルショットライフルだぁ。いいなぁ」
かわしながら相手の武装を羨ましそうに見るフレズ。
『見とれるなよ!僕はお断りだからね!あんな重いライフルを4丁も!』
そう言いながら健はあの3人をどう仕留めるか思案する。機体出力自体はこっちと同等、武装はあの重武装となれば当然スピードは落ちる。
「でもカッコいいじゃん。あーあ、ビキニアーマーじゃなくて、ライフル標準装備のルフスのボディでもよかったかも……」
今のフレズのボディ、ビキニアーマーverはルフスとどちらにするかで結構悩んだ。最終的にビキニアーマーを選んだわけだ。しかし重武装好みのフレズにとってはあの武装が正直羨ましい。
『……僕は今のお前の恰好が好きだからそれはやだよ』
ぴくっとそれを聞いたフレズの耳が動いた。このボディを褒めてくれた事が嬉しい。
「っ!じゃあやっぱり、こっち選んでよかったぁ」
「っ!何かムカツク!木端微塵にしてやる!!」
ノロケる健とフレズに対してルフス達は一斉に撃ってきた。爆発しろと言わんばかりの怒りだった。その弾幕もうまく避けながらランチャーで迎撃を行う。距離があればある程威力が落ちてしまうのがランチャーの欠点だ。これには牽制の意味もあった。が、決定打にはなり辛い。
「甘い!」
先頭のルフスに命中しそうになるも、3機目のルフスがTCSで防御した。少なくとも1機は援護に徹してる様だ。
『高威力だけど、あいつらその分消耗は激しいな。暫く疲れさせてから一網打尽にした方が確実か……』
同じフレズシリーズだ。どうすればいいか健はよく知っていた。
「じゃあ暫くは時間稼ぎだね……あれ?」
「どうした?」
フレズに聞くまでも無く、健はフィールドの異変を理解した。1人のFAGがルフス達に突っ込んでいく。
「あの姿……バーゼラルド型だ!」
乱入したバーゼラルドはライフルを2丁構えて突っ込んでいく。
「いちいち相手が弱るのを待ってられるか」
フレズ達の意図は理解していたらしいが、それではつまらないとばかりに相手に突っ込んでいく。
「なんなの貴方は!」
突然の乱入者にルフス達は撃ちまくる。フレズ以上の勢いでそれをかわしながらライフルを構えて撃つ。
「……干渉弾装填……fire!」
「させない!」
1機のルフスが先程と同様に前に出てTCSを展開し防ごうとする。しかし……
「TCSに胡坐をかき過ぎたな」
バーゼラルドの声と共にTCSは貫通、ルフスの身体を撃ち抜いた。撃たれたルフスはこの状況に信じられないと言った顔で叫んでいた。
「そんな!そんな馬鹿なぁっ!!」
「私のライフルは対TCS用の攻性干渉弾を撃っているんだよ。フィールドで全てを防げると思ったら大間違いだったな」
このバーゼラルドは対フレズヴェルク用といった装備で固めていた。
「くっ!所詮武器の威力に頼ってるだけだ!」
「貴方が言うか?」
ライフルを構えて撃つルフスに対し、バーゼラルドは全身のフォトンブースターで軽快に後ろに回りこむ。すぐさまルフスの背中に2丁で連射。
「なぁっ!」
重武装の所為で対応が遅れる。背後から撃たれたルフスはそのまま爆散退場していった。
「後生大事に切り札を使わないからそういう事になる」
「よくもやってくれたわね!」
残ったルフスが変形を解き、ライフルを4丁まとめてパージ。ダガーを構えてバーゼに斬りかかった。
「ふむ。少しは学習したか」
「舐めるな!」
バーゼは冷静なまま刃をかわし続ける。と、隙を見てライフルの銃身を勢いよく振り下ろす。手首を叩かれたルフスはそのままダガーを取り落した。
「つぅっ!」
痛みに顔をしかめるルフス。そのままバーゼはライフルの乱射。最後のルフスもこれで仕留めた。
「3人まとめてあんなに早く?!」
この状況にフレズ自身も驚きの声を上げた。あっという間だ。
「……ねぇマスター。アイツとバトルしたいって言ってくれたら、許してくれる?」
『勿論だよ。僕だって戦ってみたい相手だ』
「じゃあマスター!やろっか!!」
そう言ってフレズはバーゼラルドに挨拶代わりとランチャーを一発撃つ。
「む?」
難なく避けるとバーゼはフレズヴェルクが向かってくるのが見えた。
「お前の戦い見てたらなんだかスイッチ入っちゃったよ!」
「身の程知らずだな!」
先程と変わらないと言わんばかりにバーゼラルドはライフルの連射で迎撃しようとする。
『フレズ!右!左!真っ直ぐだ!』
「OK!」
健の指示通りにフレズは動く、少女の傍を弾丸が通る。だが連射の効くセグメントライフルにとってはこれをフェイントにする事は造作もない。フレズの進行方向にライフルを撃って撃ち落とそうとするバーゼ。
『フレズ!!』
「あいよ!!」
フレズは健の言おうとしてる事が解っていた。目の前の弾丸を、ランチャーの刀身で切り払う。そしてもう片方のランチャーをバーゼ目掛けて撃った。
「なっ!?弾丸を!」
中距離まで接近してからの射撃、バーゼが初めて表情を崩した。歯を食いしばる驚愕の顔で身をひるがえし回避しようとする。が、左肩のサブアームに被弾し破壊される。
『このまま畳みかけるぞ!』
「その余裕の表情!もっと崩す!」
更に攻めに出ようとするフレズ。だがバーゼの方は……笑みを浮かべた。
「これだ!これこそが私の求めていたバイオレントストラグル!!心が躍るな!!」
バーゼが叫ぶと同時に、彼女は全身から追尾式のビームを発射、歪曲したビームはそれぞれフレズを襲う。
「ホーミングビーム!?」
更にバーゼはライフルをこちらに向ける。
『この距離じゃ!TCS起動!!』
健が叫びながらバリアを起動させる。バーゼの周囲をバリアが包みビームを弾いた。ギリギリで使用可能だったらしい。
『向こうはTCSを貫通する!下がって体勢を立て直すよ!』
「何言ってんのマスター!このままゴリ押ししたほうがいいよ!」
向こうのスピードは理解していた。このまま逃げても追いつかれると、健の忠告を無視してフレズはランチャーのトリガーを弾いた。……が、反応が無い。
「あれ?」
『馬鹿!TCS展開中は武器が使えないの!』
慌てた健の声が響いた時には遅かった。バーゼは一斉にフレズに干渉弾を撃ち込む。これがフレズにとって致命傷となり撃破された。
「わぁぁっ!!」
「……とんだ見込み違いだったな」
肩すかしを食らった。&口直しとばかりにバーゼはフィールド内のFAGと新たにバトルしようと飛んでいった。……暫くしてこのバーゼラルドが優勝した事は言うまでもないだろう。
「負けちゃいましたねフレズ達」
「何やってんのよアイツ」
「イノセンティアもいい線行ってたんだけどなぁ」
バトルを観戦していた轟雷とスティレット。そしてレティシア。
「頑張ったけど駄目でしたー!」
イノセンティアが半泣きで戻ってきた。
「よしよし、あなたはよく頑張ったわよ」
レティシアはそんなイノセンティアを撫でて慰める。
「その通り、1人であそこまで戦えるとは大したものです。師匠として鼻が高いですね」
「って、アンタ師匠らしいことやったっけ?」
「むー、さっきのイノセンティアの決め台詞は私の教えですよスティレット」
「と、そういえばフレズが来ませんね。さっきの負け方からして健さんに怒られてるのでしょうか」
フレズが来ないのが轟雷は気になった。周りを見ると健とフレズが一緒にいた。さっき戦ったバーゼラルドと相対してる。
「おい!さっきのはトラブルで負けただけだ!もう一度勝負しろ!」
フレズとしてはさっきのバトル結果に納得が行かない様だ。
「何を言うんだ?さっきお前が負けたのは貴様個人の愚かなミスの所為だろう?」
バーゼラルドにさっきの有様で負けたフレズは眼中に無いらしい。テーブルに置かれた優勝賞品に寄りかかりながら言った。
「そ!そうだけど!ボクとマスターの真の力はあんなんじゃないんだ!」
「フン……。まぁ確かにマスターは悪くなさそうだな」
健を値踏みする様にバーゼラルドはジロジロと見る。フレズへの指示はちゃんと聞こえていた。バーゼにとって健は評価に値する人物の様だ。
「お前。私のマスターにならないか?」
「な!何言ってるんだよお前!」
「お前と組んだらもっと私は高みへ昇れる。バトルし放題。そして常勝無敗も夢じゃない。勝利の美酒でこんな女よりお前を満足させてやれるぞ?」
「っ!!マスターに何言ってるんだよ!!!離れろ!!」
バーゼの態度の所為で、フレズのASに怒りと嫉妬が湧き上がる。が、バーゼは意に介さない。
「悪くない話だろう?こんな知性のないFAGよりはいいと思うが」
「また!!また言うかぁ!!」
「フレズ落ち着いてよ。気持ちは嬉しいけど、僕は体が弱いんだ。バトルは頻繁には出来ないんだ」
バーゼに飛びかかりそうなフレズ、涙目の彼女の前に健は手を置きフレズをなだめる。
「そうなのか?」
「それに、僕にはフレズ以外のFAGは考えられないからさ」
フレズの前に置かれた手が、フレズを包み込んだ。そう言ってくれたのがフレズは無性に嬉しかった。勝ち誇った様な気分になる。
「っ!マスタァ……。ど!どうだ!マスターにはボク以上なんて有り得ないんだからな!バトルだけがFAGの全てじゃないんだ!」
「フレズヴェルクシリーズらしくない物言いだな。……残念。君も物好きだな」
「くぅぅ!!そ!そういうお前のマスターはどういう奴なんだよ!!まさか野良じゃないだろ!!」
なおも挑発的な態度のバーゼラルドにフレズは怒りを見せる。が、フレズの指摘にバーゼはピクッと身体を強張らせる。
「……」
その反応に、何か隙を感じたフレズ。ここぞとばかりに言葉の追撃をかける。
「まさか当たり?まぁそうだよな。マスターいるならお前自分のマスター馬鹿にする様な事ばっかり言って、こんな酷い奴じゃ捨てられたっておかしくないもんな」
「それは……」
「やめろよフレズ。お前もひどい事言ってるんだから」
「だってマスター!」
注意する健に対し、不満を顔に出すフレズ。と、その時だった。
「あーやっぱりこんな所にいた!!何やってんのバーゼ!!」
ブリッツガンナーに乗ったイノセンティア型が三人の間に割って入った。褐色肌ではない色白のイノセンティア。作業用のエプロンをしていた。
「う!イ!イノセンティア!」
解りやすくバーゼラルドが狼狽した。イノセンティアはバーゼの手を掴む。
「職員の人がカンカンよ!!早く戻ってよ!!今日と言う今日はしっかり絞ってもらうからね!」
「ま!待ってくれ!ちょっと息抜きのつもりだったんだ!!」
「仕事ほっぽり出して何言ってんの!早く戻るわよ!!」
「解った!解ったから耳を引っ張るな!!」
そう言ってイノセンティアはバーゼラルドを連れてその場から離れていく。それを黙って見ていたフレズや轟雷達、
「明らかに何かありますよね」
「……フレズ、失礼だから追いかけちゃ駄目だよ」
間違いなく追いかけるだろうなと予想していたので釘を刺す健。前にもマテリアの事をついていった事があったからだ。
「健さん……、アイツもうついて行っちゃったわ」
「……アイツ」
「でさぁ!どうしてお前はそんなに慌ててるのさ!」
大急ぎで戻るバーゼとイノセンティアに対してフレズが呑気そうに問いかける。三人共上空を並走していた。
「貴様!……こっちの話だ!つきまとうな!」
「やーだよ!お前のマスターがどんな奴か解るかもしれないだろう?」
必死なバーゼラルドに対してフレズの方は余裕だった。その表情がバーゼにとって無性に腹が立つ。
「貴様ぁぁ!!」
「構ってる暇はないの!このまま戻る!」
「解ってる!新入り!!」
「いつまでカジノ時代の栄光引きずってるの!!」
「ん?カジノ?」
そうこうしてる内に目的地についたらしい。バーゼとイノセンティアの二人は下に降りていく。フレズもバーゼについて行った。
「なんだここ?」
「あー!バーゼラルドちゃん!どこ行ってたの!」
施設からツインテールの少女が出てきた。
「すいません朱音さん!すぐ戻りますから!」
慌てて言うイノセンティア。そう言って二人はすぐに施設の中に戻っていった。それを見送った朱音もまた施設に戻ろうとするがそれをフレズが引きとめた。
「あのーすいません」
尋ねるフレズヴェルクに朱音は振り返る。
「わ!可愛い!フレズヴェルク型だ!」
「あ!あの!ここってどういう施設なのさ?!」
「え?そこの看板を見てみなよ。ここデイサービス(通所介護)だよ」
そう言って朱音は看板を指差した。フレズは看板に書かれた文字を読む。
「デイサービスセンター……『よあけ』?」
デイサービス……自宅や老人ホームまで迎えに来てセンターに通い、様々なレクリエーション、食事に入浴を受けたりする介護保険サービスの事である。
……その頃バーゼラルドは、自身の主に勝手に姿を消した事を謝罪していた。
「……勝手にいなくなり申し訳ありませんマスター……」
「いや、いい……」
バーゼの目線の先、向かい合うマスターの良沢源三(りょうたくげんぞう)……80代のお爺さんはソファに座りながら、低い声でそう言った。
ついに登場バーゼラルド。思い切って大人びたキャラにしちゃいました。
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