私はその母親を見届けたあと、のんびり休日の午後の余韻をグレインティーの香りを共に過ごした。
そしてグレインティーも飲みほし、今度は旅館探しに街に出た。
休日の午後でグレゴール帝国の首都にいるからか、人の量は今までに経験した事のないほどたった。私の故郷でこんなに人がごった返すことがあるのは、皇族が死ぬ時しか無いのだろうかと思うほどだ。
さて、私は旅人であるのだが最初に故郷を出発した時の資金は十日間食べていけるかどうかという中々悲しいものであった。
そこで私は旅人の代表的な稼ぎ方「魔物狩り」を始めたのだ。
魔物狩りというのは道中様々な所にいる魔物を剣術、魔術、呪術、暗殺術、等の様々な方法で殺す。殺した魔物をどうするかというと、ある魔物はその皮膚や羽毛がお金になったり。そして
またとある魔物は心臓がお金になったり。珍しいものでは鼻糞がお金になるらしい。
今度はキタクロオオギツネの毛皮で一儲けでもしようかね・・・・・・。
そんなことをぼんやりと考えながら街を歩いていると横から幼い声が聞こえてきた。
「あなた、旅人ね」
何だ、と思って声がした方に振り向くとそこには黒髪を肩まで伸ばした身長が普通の男より少し小柄な感じの女性が歩いてついてきていた。
服装と言えば、鋼の胸あてに膝当て、そして背中にはどす黒く弓幹の所々にオリーブの枝の装飾があしらってあった。その弓幹の長さは彼女の身長ほど合ったのでロングシューター(長弓使い)といったところだろうか。
「ちょっと、人の話聞いてる? あなた、旅人よね?」
そうだった、彼女の質問に答えるのを忘れていた。
「あぁ、はい。そうですけど何かご用でも?」
「えぇ。あなた、その剣はシュルツヴァー連邦国のオーブイルの流派よね」
「はい、そうですけど・・・・・・」
確かに私の剣はオーブイルの流派だ。
しかしなぜ彼女がそんなことを・・・・・・。
「グミエル・オーブイルが死んだ」
私は思わず立ち止まった。ロングシューターの女も立ち止まる。
「その話は・・・・・・信じても?」
「もちろんよ。グレゴールの情報網だから信用して構わないわよ」
私はただ、落胆した。
私はただ、落胆した。
グミエル・オーブイルは私の剣の師匠だった。
私はシュルツヴァー連邦国の貴族のはしくれの息子だった。
貴族のはしくれというのは要するに身分だけは保証されていた「落ちこぼれ」だったわけだ。
国にとってデイトン一家はお邪魔虫だったらしく、両親は暗殺された。公式発表では心中だったが。
その親なしの幼きホームレスの私を拾ってくれたのがグミエル師匠だ。
グミエル師匠は自分の子供でもないのに私に部屋を与えてくれて、まるで我が子のように可愛がってくれたものだ。そんなグミエル師匠がいたからこそ私は、魔術や剣術に打ち込むことができたのだ。
さらに、グミエル師匠はオーブイル流派の最後の伝承者でもある。そのグミエル師匠がなくなったということはオーブイル流派の終わりも意味する。
何ということだ・・・・・・。
何ということだ・・・・・・。
「そこでなのよ。あなた、神殺しという儀式を知っている?」
神殺し・・・・・・。聞いたことがない。
というか今はそれ所ではなく、頭の整理で手一杯だった。
「いや・・・・・・、聞き覚えは無い・・・・・・が」
無気力に私は答える。
ロングシューターの女は私の様子なんてお構いなしで説明を始める。
「神殺しっていうのはグレゴール帝国で代々語り継がれている神話なの。天界で地上堕ちを言い渡された七つの神は地上に落とされる。それは望まれた地上堕ちではない。要するに軍の兵士が戦場を選べないってとこね。そして落とされた七つの神はそれぞれの方法で地上を浄化する。しかし天界と地上での浄化の意味は少し違う。地上では清潔にすることを浄化。でも天界の浄化はこの世の人間を全て殺す」
「いや・・・・・・。ちょっと待て」
私は彼女の長い話を止める。
さっきから意味のわからないことばかり言われても、さらに私の頭が錯乱するだけだ。
「幾つかわからないことがある・・・・・・。ひとつは何で神が地上に落とされるか。もう一つ、神は普通何人と数えるべきじゃないのか?」
彼女はしばし、右手を顎に付いて俯く。
「神が地上に落とされるのは、いわば試験というところかしら。天界でも軍みたいに階級があるの。それに合格して昇格する。それが地上に神を落とす理由。
でもそれは望んで落とされているわけではないのよ」
「え? 神はその試験に合格すると昇格するんだろ? なら何で望まれたものでない?」
「さっき、天界にも階級があるというのは話したでしょ。だから神にも地上界で言うスラム(下級民)と呼ばれるものがあるわけ。その中から選ばれ落とされる。天界の人口と地上界の人口を同時に減らすために」
「待てよ。たった七つであっちでは人口が減ったことになるのか?」
「まさか。落とすのは天界で上等階級に脅威である神ばかりよ。聞いた話だと、反乱の神とかその辺が落とされるらしいわ」
「でも、人をたくさん倒したら天界に戻れるんだろ? それじゃ意味がないんじゃ・・・・・・」
「そこで神殺しよ。地上に落とされるのは上等階級の神に脅威の神ばかり。それを全て倒せたらすごいと思わない? 同時にそれが天界にとっての新たなる脅威だと思わない?」
「・・・・・・あー、確かに。言われてみればそうだな」
「そこで上等階級の神はその神殺しを行ったものが天界に反乱を企てないように何でも願いを叶えるの。それで満足させて反乱が起きないようにする・・・・・・。納得した?」
「あぁ、よくわかった。だが、神は何で七つと数えるんだ?」
「それね。神は大体その形をかたどった形をしている」
「その形・・・・・・とは?」
「・・・・・・説明が難しいんだけど、例えば鼠の神なら鼠の形をするし蛇の神なら蛇の形をする。そういうこと」
「じゃあ、銃とか剣の神はその形をすると?」
「まぁ、そうなるわね」
そうなのか・・・・・・。
「でも、そんなのは脅威にはならないからどうでもいいんだけどね」
確かに。そんな物になるだけでは、何の役にもならないだろうしな。
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主人公フレイルは幼いころに国の圧力で両親を失いながらも、剣術等の師匠グミエルと共に強く生きる。そして旅に出てしばらく。立ち寄ったグレゴール帝国で見知らぬ女からグミエルの死を告げられる。悲しみに打ち砕かれるグミエルだがその女が言う「神殺し」という儀式を行うと何でも願いがかなうというのだが・・・。