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ファンタジー小説「遠くの光に踵を上げて」番外編・明日に咲く花 - 選択

ファンタジー小説「遠くの光に踵を上げて」番外編・明日に咲く花 - 選択
ファンタジー小説「遠くの光に踵を上げて」
番外編・明日に咲く花 - 選択

「おまえのようにまわりを恨んでばかりの人間を、
守られていることに感謝もできない人間を、
私は守りたいとは思わない」
ラウルはきっぱりとそう言い放った。

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「……私のことを……見捨てるの……?」
 喉の奥から絞り出した声は小さく震えていた。
「おまえが私のところに来るというのならそれでもいい。自分で選べ」
「……どうして……そんな突き放したことを言うの……っ!」
 包帯をしていない方の目から雫がこぼれ、タイルに落下して弾けた。膝から体が崩れ落ちそうになり、両手でラウルの服を掴んでしがみつく。ラウルはそれでも無表情を崩さなかった。
「おまえはもう子供ではない。自分のことは自分で決めろ」
 その言葉はユールベルの胸に深く突き刺さった。
「みんな……みんなそう言うの……18だから子供じゃない、自立しろ、全部自分で選べって……そんなの本当は厄介払いしたいだけなんでしょう? やっと突き放せてほっとしているんでしょう? 物わかりのいいふりして、おまえのためだなんて言って……そんなのずるいわ! 卑怯よ! 嫌いだ、来るなって言われた方がまだましだわ!!」
 考えるよりも先に言葉が飛び出していた。何を言っているのか自分でもわからなくなっていた。頭の中はぐしゃぐしゃである。ただ、怖かった。我を忘れたように彼の胸を何度も叩き、溢れくるまま感情をぶつけて泣きわめく。
 ラウルは微動だにせずそれを受けていた。しかし、やがて面倒くさそうに溜息をつくと、ユールベルの細い手首を掴んで止め、その華奢な体を軽々と肩に担ぎ上げた。
「何する……のっ……!」
 ユールベルは背中側に頭を落とされ、逆さになったまま、広い背中を叩いて必死に抗議する。しかし、ラウルはまったくの無反応で、まわりの視線も気にせず、暴れるユールベルを抱えて大股で歩いていった。
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