ファンタジー小説「遠くの光に踵を上げて」
番外編・明日に咲く花 - 姉弟
「そんな姉さんを放っておけないんだ」
アンソニーは苦しい胸の内を淡々と吐露し始める。
その言葉から、サイラスは姉弟である二人の
関係を知ることになる。
-------------------
日は傾きつつあるが、まだ空は青く、空気も暖かいままだった。
アカデミーを出たサイラスは、大きく深呼吸をして凝り固まった背筋を伸ばすと、研究所に向かって歩き出した。教師としての仕事や雑務が多いため、日が落ちてから研究所に向かうことが多く、明るいうちにこの道を歩けるのは、今日のように仕事を放り出してきたときくらいである。残してきたアンジェリカには悪いことをしたと思いつつも、この開放感に幸せを感じていた。
「先生!」
背後から弾んだ声が聞こえて振り返ると、金髪の少年が人なつこい笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。その後ろから、小柄な少女もついてきている。
「やあ、アンソニー」
サイラスは笑顔で応じた。少女の方に見覚えはなかったが、少年がユールベルの弟であることはすぐにわかった。サイラスは人の顔を覚えるのは得意な方ではないが、その人目を引く容姿のせいか、一度会っただけにもかかわらず強く印象に残っていた。
「今から研究所へ行くの?」
「そう、君は学校帰り?」
「そんなところ。ちょっと遠回りして寄り道してたけど」
身長はサイラスと変わらないくらいだが、屈託なく答える表情は年相応に子供であり、サイラスは少しほっとしていた。ユールベルの家で見たときの彼はやけに大人びていて、時折、ふと深く仄暗い何かをその瞳に覗かせることもあり、何となく気になっていたのだ。
アンソニーは隣の少女の肩を引き寄せて続ける。
-------------------
▼遠くの光に踵を上げて
http://celest.serio.jp/celest/novel_kakato.html
番外編・明日に咲く花 - 姉弟
「そんな姉さんを放っておけないんだ」
アンソニーは苦しい胸の内を淡々と吐露し始める。
その言葉から、サイラスは姉弟である二人の
関係を知ることになる。
-------------------
日は傾きつつあるが、まだ空は青く、空気も暖かいままだった。
アカデミーを出たサイラスは、大きく深呼吸をして凝り固まった背筋を伸ばすと、研究所に向かって歩き出した。教師としての仕事や雑務が多いため、日が落ちてから研究所に向かうことが多く、明るいうちにこの道を歩けるのは、今日のように仕事を放り出してきたときくらいである。残してきたアンジェリカには悪いことをしたと思いつつも、この開放感に幸せを感じていた。
「先生!」
背後から弾んだ声が聞こえて振り返ると、金髪の少年が人なつこい笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。その後ろから、小柄な少女もついてきている。
「やあ、アンソニー」
サイラスは笑顔で応じた。少女の方に見覚えはなかったが、少年がユールベルの弟であることはすぐにわかった。サイラスは人の顔を覚えるのは得意な方ではないが、その人目を引く容姿のせいか、一度会っただけにもかかわらず強く印象に残っていた。
「今から研究所へ行くの?」
「そう、君は学校帰り?」
「そんなところ。ちょっと遠回りして寄り道してたけど」
身長はサイラスと変わらないくらいだが、屈託なく答える表情は年相応に子供であり、サイラスは少しほっとしていた。ユールベルの家で見たときの彼はやけに大人びていて、時折、ふと深く仄暗い何かをその瞳に覗かせることもあり、何となく気になっていたのだ。
アンソニーは隣の少女の肩を引き寄せて続ける。
-------------------
▼遠くの光に踵を上げて
http://celest.serio.jp/celest/novel_kakato.html