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恋愛ファンタジー小説「ピンクローズ - Pink Rose -」第31話・あの頃、思い描いた未来(最終話)

恋愛ファンタジー小説「ピンクローズ - Pink Rose -」第31話・あの頃、思い描いた未来(最終話)
恋愛ファンタジー小説「ピンクローズ - Pink Rose -」
第31話・あの頃、思い描いた未来(最終話)

あれから4年。
誰も来ない医務室で空疎な日々を送るラウルのもとに、
突然サイファがひょっこりとやってきた。
「娘を連れてくるよ」
その言葉の真意を知ったとき、ラウルは——。

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 レイチェルとの約束の日から4年が過ぎた。
 家庭教師終了とともに常勤に戻ったラウルは、これといった用件もなく、医務室を離れることはほとんどなくなっていた。せいぜいが報告書の提出と会議のときくらいである。あとは滅多に来ない患者を待ち、日がな一日、読書にふけったりカルテの整理をしたりするだけだった。
 会わないというのが彼女の答えなのだと、あのときはそう考えた。
 しかし、今になって思えば、それは事情を知ったサイファの判断だったのだろう。それまで何かにつけ医務室を訪れていた彼が、その日以来、急にぱったりと来なくなったのである。レイチェルとの関係を知られてしまったとしか考えられない。
 しかし、二人は予定どおり結婚し、子供も生まれたと聞いた。
 おそらくサイファは全てを承知の上で、彼女を受け入れることを選んだのだ。意地や体面もあったのかもしれないが、それだけではなく、彼女への想いを失わなかったのだと信じたい。
 レイチェルは、今、幸せなのだろうか——。
 何度も繰り返し心の中で問いかけてきたことだが、答えが返ってくるはずもなく、また、それを知るすべも持ち合わせていない。机の上に佇む一輪挿しのピンクローズを見つめながら、ラウルはただ祈ることしかできなかった。
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▼ピンクローズ - Pink Rose -
http://celest.serio.jp/celest/novel_pinkrose.html