現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第60話・二枚の婚姻届
「私と結婚してください!!!」
澪は一息にそう言い切ると勢いよく土下座をした。
そのまま身じろぎもせず目をつむって返事を待つ。
しかし、彼は何も言わずに立ち上がると、
背を向けてその場を去っていった。
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「あ……あのね……っ!」
どくどくと心臓が暴れるのを感じながら、口を切る。
誠一はティーカップを手にしたままビクリとして顔を上げた。半分ほど残っていた紅茶が大きく揺れている。それをこぼさないよう慎重な手つきでテーブルに戻すと、訝しげに澪を覗き込んだ。
「……どうした?」
「誠一にお願いがあるの」
澪は二人のケーキプレートとティーカップをそそくさと端に寄せて、トートバッグから取り出した透明なクリアファイルを彼の前に置いた。
「……えっ?!」
「私と結婚してください!!!」
彼がその中身に気付いて大きく目を見開くと同時に、一息にそう言い切り、クッションごと下がり勢いよく土下座をした。長い黒髪を大きく乱したまま頭を伏せ続ける。心臓が早鐘のように激しく打ち、次第に息苦しさが増し、じわりと汗が滲むのを感じた。それでも、身じろぎもせずギュッと目をつむり返事を待つ。
「どうして……」
思わずこぼれたような虚ろな声が、頭上から聞こえた。
澪は伏せていた顔をおずおずと上げていく。
「あの、このまえ断ったばかりなのに勝手だとは思うけど……」
クリアファイルに伸びている彼の手元を見つめながら、慎重に言葉を選びつつ理由を説明しようとする。しかし、彼は最後まで話を聞くことなくテーブルに手をついて立ち上がり、背を向けて寝室へ入っていった。そのときの彼がどんな表情をしていたか、後ろ姿しか目にしていない澪にはわからなかった。
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http://celest.serio.jp/celest/novel_tokyo.html
第60話・二枚の婚姻届
「私と結婚してください!!!」
澪は一息にそう言い切ると勢いよく土下座をした。
そのまま身じろぎもせず目をつむって返事を待つ。
しかし、彼は何も言わずに立ち上がると、
背を向けてその場を去っていった。
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「あ……あのね……っ!」
どくどくと心臓が暴れるのを感じながら、口を切る。
誠一はティーカップを手にしたままビクリとして顔を上げた。半分ほど残っていた紅茶が大きく揺れている。それをこぼさないよう慎重な手つきでテーブルに戻すと、訝しげに澪を覗き込んだ。
「……どうした?」
「誠一にお願いがあるの」
澪は二人のケーキプレートとティーカップをそそくさと端に寄せて、トートバッグから取り出した透明なクリアファイルを彼の前に置いた。
「……えっ?!」
「私と結婚してください!!!」
彼がその中身に気付いて大きく目を見開くと同時に、一息にそう言い切り、クッションごと下がり勢いよく土下座をした。長い黒髪を大きく乱したまま頭を伏せ続ける。心臓が早鐘のように激しく打ち、次第に息苦しさが増し、じわりと汗が滲むのを感じた。それでも、身じろぎもせずギュッと目をつむり返事を待つ。
「どうして……」
思わずこぼれたような虚ろな声が、頭上から聞こえた。
澪は伏せていた顔をおずおずと上げていく。
「あの、このまえ断ったばかりなのに勝手だとは思うけど……」
クリアファイルに伸びている彼の手元を見つめながら、慎重に言葉を選びつつ理由を説明しようとする。しかし、彼は最後まで話を聞くことなくテーブルに手をついて立ち上がり、背を向けて寝室へ入っていった。そのときの彼がどんな表情をしていたか、後ろ姿しか目にしていない澪にはわからなかった。
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