現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第57話・証人
「そいつはちょっと考えが甘いんじゃないか?」
澪が自分なりに一生懸命考えた目論見を、
篤史に悉く否定されてしまう。
想像以上に橘財閥の力は大きかったようだ。
悩んだすえに澪が取った行動は——。
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「だから、頭のいい篤史に助けを求めてるの」
「知らねぇって言ってんだろ」
「うん、だからハッキングして調べてよ」
真っ先に彼を訪ねたのはそういう目論見があったからだ。橘のコンピュータのどこかには大地の連絡先が書かれているはずで、天才ハッカーならそれを調べることくらい造作もないだろう。澪がにっこり微笑むと、篤史は思いきり眉をひそめてじとりと睨み返した。
「断る」
「タダでとは言わないよ?」
「あのなぁ」
彼は苛ついたようにそう言うと、前髪を掻き上げながら大きく溜息を落とした。
「はした金をもらったところで全然わりに合わねぇよ。じいさんと悠人さんを敵に回したら俺の人生詰む。おまえに手を貸すだけならまだしも、橘にハッキングなんて重大な背信行為だからな」
「それ、は……」
深く考えていなかったが、言われてみればそういうことになるのかもしれない。さすがに彼の人生を犠牲にするわけにはいかないので、これに関しては諦めるしかないと結論づけると、じゃあ、と言いつつ彼の眼前にクリアファイルを掲げて見せた。中の紙切れが婚姻届であることも、澪と誠一の名が書いてあることも、この距離なら一目で認識できるだろう。
「せめて証人になって?」
「それも断る」
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http://celest.serio.jp/celest/novel_tokyo.html
第57話・証人
「そいつはちょっと考えが甘いんじゃないか?」
澪が自分なりに一生懸命考えた目論見を、
篤史に悉く否定されてしまう。
想像以上に橘財閥の力は大きかったようだ。
悩んだすえに澪が取った行動は——。
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「だから、頭のいい篤史に助けを求めてるの」
「知らねぇって言ってんだろ」
「うん、だからハッキングして調べてよ」
真っ先に彼を訪ねたのはそういう目論見があったからだ。橘のコンピュータのどこかには大地の連絡先が書かれているはずで、天才ハッカーならそれを調べることくらい造作もないだろう。澪がにっこり微笑むと、篤史は思いきり眉をひそめてじとりと睨み返した。
「断る」
「タダでとは言わないよ?」
「あのなぁ」
彼は苛ついたようにそう言うと、前髪を掻き上げながら大きく溜息を落とした。
「はした金をもらったところで全然わりに合わねぇよ。じいさんと悠人さんを敵に回したら俺の人生詰む。おまえに手を貸すだけならまだしも、橘にハッキングなんて重大な背信行為だからな」
「それ、は……」
深く考えていなかったが、言われてみればそういうことになるのかもしれない。さすがに彼の人生を犠牲にするわけにはいかないので、これに関しては諦めるしかないと結論づけると、じゃあ、と言いつつ彼の眼前にクリアファイルを掲げて見せた。中の紙切れが婚姻届であることも、澪と誠一の名が書いてあることも、この距離なら一目で認識できるだろう。
「せめて証人になって?」
「それも断る」
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