現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第53話・傷心旅行
「私だって傷心旅行したいんだからね」
澪はひとり黙って小笠原に向かった遥のあとを追い、
ターミナルで姿を見つけると、
そう冗談めかしつつニコッと笑ってみせる。
ガラス窓の向こうには出航間近の旅客船が停泊していた。
-------------------
澪はタクシーから降りると、脇目もふらず客船ターミナルに駆け込んだ。
ターミナルといっても、空港とは規模からして比べものにならないが、それでも思ったより明るく広々としていた。シンプルながら開放感のあるデザインがそう感じさせるのかもしれない。正面はほぼ全面ガラス張りになっており、その向こうには停泊中の大型旅客船が見えた。あれが小笠原行きの船なのだろう。
スクールバッグを肩に掛け、奥の待合いスペースに小走りで足を進める。
家族連れや友達同士など観光旅行客と思われる人たちが各々談笑している中で、遥はひとりぼんやりと窓の外を眺めていた。足元には黒いスポーツバッグが置かれている。
「よかった、間に合って……」
澪がほっと吐息まじりの声を落とすと、遥は振り向いて目を丸くした。
「澪……なんで……?」
「黙ってひとりで行くなんてずるいよ」
「見送り、ってわけじゃないよね?」
「私だって傷心旅行したいんだからね」
澪は冗談めかしてそう言い、左手を腰に当てながらニコッと笑ってみせる。一拍の間のあと、遥はわざとらしく大きな溜息を落とすと、別に傷心旅行じゃないけどねとぶつくさ言いつつ、スポーツバッグを肩に掛けて立ち上がった。
-------------------
http://celest.serio.jp/celest/novel_tokyo.html
第53話・傷心旅行
「私だって傷心旅行したいんだからね」
澪はひとり黙って小笠原に向かった遥のあとを追い、
ターミナルで姿を見つけると、
そう冗談めかしつつニコッと笑ってみせる。
ガラス窓の向こうには出航間近の旅客船が停泊していた。
-------------------
澪はタクシーから降りると、脇目もふらず客船ターミナルに駆け込んだ。
ターミナルといっても、空港とは規模からして比べものにならないが、それでも思ったより明るく広々としていた。シンプルながら開放感のあるデザインがそう感じさせるのかもしれない。正面はほぼ全面ガラス張りになっており、その向こうには停泊中の大型旅客船が見えた。あれが小笠原行きの船なのだろう。
スクールバッグを肩に掛け、奥の待合いスペースに小走りで足を進める。
家族連れや友達同士など観光旅行客と思われる人たちが各々談笑している中で、遥はひとりぼんやりと窓の外を眺めていた。足元には黒いスポーツバッグが置かれている。
「よかった、間に合って……」
澪がほっと吐息まじりの声を落とすと、遥は振り向いて目を丸くした。
「澪……なんで……?」
「黙ってひとりで行くなんてずるいよ」
「見送り、ってわけじゃないよね?」
「私だって傷心旅行したいんだからね」
澪は冗談めかしてそう言い、左手を腰に当てながらニコッと笑ってみせる。一拍の間のあと、遥はわざとらしく大きな溜息を落とすと、別に傷心旅行じゃないけどねとぶつくさ言いつつ、スポーツバッグを肩に掛けて立ち上がった。
-------------------
http://celest.serio.jp/celest/novel_tokyo.html