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「東京ラビリンス」第48話・残酷な選択

「東京ラビリンス」第48話・残酷な選択
現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第48話・残酷な選択

「故郷を見捨てて、僕らを助けて」
遥の迫っている決断はこの上なく残酷なものだ。
大切な人たちと故郷を見捨てさせようというのだから。
武蔵は眉を寄せてうつむいた。
グッと奥歯を食いしばり、目をつむり、手に力を込め、額に汗を滲ませる。
そして——。

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「武蔵が残ることでこの国が救えるのならわかるけど、その可能性はほぼ皆無で、無駄死にになる可能性の方が圧倒的に高いんだよね? 故郷を思う気持ちはわかるけど、他に大切なものはないの? 今の澪を救えるのは武蔵だけだよ。メルローズを守れるのも武蔵だけ」
「…………」
 武蔵は体をこわばらせ、澪の肩を抱いたまま無言で考え込んだ。メルローズのことも澪のことも大切に思っているだろうが、この国にはおそらくそれ以上に大切な人たちがいるはずである。だからこそ留まろうとしたのだ。簡単に覆せるような軽い決意だとはとても思えない。しかし、遥はなおも淡々とした口調で畳みかける。
「故郷を見捨てて、僕らを助けて」
 彼の迫っている決断はこの上なく残酷なものだ。取り繕うことなく放たれたまっすぐな言葉に、武蔵は眉を寄せてうつむいた。グッと奥歯を食いしばり、目をつむり、手に力を込め、額に汗を滲ませる。息の詰まるような重い沈黙。時が止まったかのような静寂。そして——。
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