現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第47話・消えゆく命を前にして
美咲は、助からないかもしれない——。
大理石の床に広がる血溜まり、鮮血で赤に染まった白衣が
いかにおびただしい出血があったかを物語っている。
澪は一筋の涙を零しながらも、決意を固めた。
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「澪、頼む……今できることを考えてくれ」
「っ……そんなの、わからないよ……」
澪は今にも泣きそうになっていた。目頭が熱くなり、涙がじわりと滲んでくるのがわかる。しかし、武蔵は気付いているのかいないのか、後ろから澪と遥を勢いよく懐に引き入れ、二人を囲い込むような形で結界に両手を置いた。
「俺の手におまえらの手を重ねて、そこに気を集中させてくれ。俺に送るようにイメージしてみろ」
それが、今の澪と遥にできるたったひとつのことであり、そしてやらなければならないことなのだろう。遥は請われるまま武蔵の片手に己の手を重ね、気持ちを整えるように目を閉じて浅く呼吸をする。しかし、澪は唇を引き結んだまま立ち尽くすだけだった。
「澪……!」
促す武蔵の声には切実さが滲んでいた。
澪は正面を見つめる。美咲の姿はメルローズの発する光に包まれて、もうほとんど見えなくなっていた。辛うじて投げ出された片手と足先が覗く程度である。それももうピクリとも動かない。まわりの床に広がるおびただしい血の跡が惨状を物語っていた。
お母さまは、助からないかもしれない——。
それは遥に言われずとも感じていたことだ。けれど、まだそうと決まったわけではない以上、何もしないまま諦めたくはなかった。命の灯火が消えゆくのを見ているだけなどつらすぎる。だからといって、今の自分ではどうしようもないこともわかっている。開いたままの目から一筋の涙が伝った。
「すまない……」
武蔵の謝罪が何に対してのものかはわからない。しかし、本当に謝罪すべきはむしろ自分の方だろう。今は一刻を争う状況なのだ。澪は決意を固めると、彼の手に火傷を負っていない方の手を重ね、遥と同じように目を閉じて気持ちを集中させた。
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http://celest.serio.jp/celest/novel_tokyo.html
第47話・消えゆく命を前にして
美咲は、助からないかもしれない——。
大理石の床に広がる血溜まり、鮮血で赤に染まった白衣が
いかにおびただしい出血があったかを物語っている。
澪は一筋の涙を零しながらも、決意を固めた。
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「澪、頼む……今できることを考えてくれ」
「っ……そんなの、わからないよ……」
澪は今にも泣きそうになっていた。目頭が熱くなり、涙がじわりと滲んでくるのがわかる。しかし、武蔵は気付いているのかいないのか、後ろから澪と遥を勢いよく懐に引き入れ、二人を囲い込むような形で結界に両手を置いた。
「俺の手におまえらの手を重ねて、そこに気を集中させてくれ。俺に送るようにイメージしてみろ」
それが、今の澪と遥にできるたったひとつのことであり、そしてやらなければならないことなのだろう。遥は請われるまま武蔵の片手に己の手を重ね、気持ちを整えるように目を閉じて浅く呼吸をする。しかし、澪は唇を引き結んだまま立ち尽くすだけだった。
「澪……!」
促す武蔵の声には切実さが滲んでいた。
澪は正面を見つめる。美咲の姿はメルローズの発する光に包まれて、もうほとんど見えなくなっていた。辛うじて投げ出された片手と足先が覗く程度である。それももうピクリとも動かない。まわりの床に広がるおびただしい血の跡が惨状を物語っていた。
お母さまは、助からないかもしれない——。
それは遥に言われずとも感じていたことだ。けれど、まだそうと決まったわけではない以上、何もしないまま諦めたくはなかった。命の灯火が消えゆくのを見ているだけなどつらすぎる。だからといって、今の自分ではどうしようもないこともわかっている。開いたままの目から一筋の涙が伝った。
「すまない……」
武蔵の謝罪が何に対してのものかはわからない。しかし、本当に謝罪すべきはむしろ自分の方だろう。今は一刻を争う状況なのだ。澪は決意を固めると、彼の手に火傷を負っていない方の手を重ね、遥と同じように目を閉じて気持ちを集中させた。
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