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「東京ラビリンス」第46話・銀の弾丸

「東京ラビリンス」第46話・銀の弾丸
現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第46話・銀の弾丸

「この弾丸で、二十年以上にわたる長き悪夢と恐怖を終わらせる」
溝端は美咲の胸に銃口を突きつけてそう言った。
彼の望む未来のためにここで犠牲になれと——。

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 ミサキ、ミサキっ——。
 舌足らずな幼い声が扉の向こうから漏れ聞こえてきた。おそらくメルローズのものだろう。切迫した声音ではないが健気に何度も呼びかけている。たどり着いた武蔵がすぐさま重厚な両開きの扉を押し、澪と遥も加勢するが、鍵が掛けられているのかビクともしなかった。
 中からカチャリと無機質な音が響いたあと、溝端と思しき声がそれに続く。
「橘美咲女史、これまでのあなたの働きには感謝しています。恨みは何ひとつありませんが、日本の未来のためにここで犠牲になっていただきたい。この弾丸で、二十年以上にわたる長き悪夢と恐怖を終わらせる」
 犠牲って、弾丸って——?!
 澪は血の気がすうっと引いていくのを感じた。いったい何がどうなっているのだろうか。一緒にいるはずの美咲の声が聞こえてこないことにも、大きく不安が煽られる。
「二人とも退け!」
 武蔵は両脇にいた澪と遥を下がらせると、両手を前に突き出し、鍵穴の付近に強烈な白い光を放射する。何かが弾けたような音がして、その部分が大きくひしゃげた。澪、遥とともに、再び力を込めて扉を押し開けていく。
「お母さまっ!!」
 薄く開いた扉から、澪は誰よりも先に中へ駆け込んでいった。そこには思ったとおりの三人がいた。濃紺色のスーツを着て冷ややかな顔をした溝端が、左手でメルローズを自分のもとに押さえつけ、右手の拳銃を美咲の胸元に突きつけている。引き金には指がかかっていた。それを目にした澪はビクリとして足を止める。
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