現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第44話・捨て身の覚悟で
澪だけは、絶対に——。
いざというときは身を挺してでも彼女を守りたい。
繋いだ手の柔らかな温もりを感じながら、そう決意を新たにする。
しかし、本当に彼女を案じるのであれば、そもそも行かせるべきではなかったのだ。
この後に起こる取り返しの付かない出来事によって、誠一はそう後悔することになる。
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「私、行きます!」
「僕も」
澪が勢いよく挙手し、続いて遥も面倒くさそうに手を挙げる。
誠一は口を引き結んだ。本当は二人には行ってほしくないが、母親が連れ去られている以上、引き留めることはできないそうにない。ならば、せめて自分が守らなければと手を挙げた。ソファに座る悠人も同じ気持ちなのか、複雑な表情を浮かべつつ同じように手を挙げた。
「おじさんはどうします?」
大地が楠長官に水を向けると、彼は眉を寄せたまま腰に手を当てて息をついた。
「私はここに残る。状況は逐次連絡してもらえるとありがたい」
「そんな余裕があればいいんですけどね」
大地は飄々とした声で茶化すようにそう答えたが、顔は笑っていなかった。すぐに呼びつけるような視線を皆に送ると、シャツの胸ポケットから携帯電話を取り出し、事務的な口調で通話しながら執務室を退出する。楠長官以外の全員がそのあとを追った。
白い無機質な廊下を、不揃いな靴音を響かせながら歩いて行く。
誠一は半歩前を歩いていた澪の手を取り、元気づけるように、安心させるように、しっかりと柔らかく握り締めた。彼女は少し驚いたように振り返ったが、その手が誠一だとわかると、にっこりと安堵まじりの笑みを浮かべる。
澪だけは、絶対に——。
これから具体的に何をするのかもよくわかっておらず、誠一に何が出来るのかも定かでないが、いざというときは身を挺してでも彼女を守りたい。自分はそのために付いてきたのだ。繋いだ手の柔らかな温もりを感じながら、そう決意を新たにする。
しかし、本当に彼女を案じるのであれば、そもそも行かせるべきではなかったのだ。
その判断が下せなかったのは認識の甘さゆえに他ならない。もっと慎重に考えるべきだった。この後に起こる取り返しの付かない出来事によって、誠一はそう後悔することになる。
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http://celest.serio.jp/celest/novel_tokyo.html
第44話・捨て身の覚悟で
澪だけは、絶対に——。
いざというときは身を挺してでも彼女を守りたい。
繋いだ手の柔らかな温もりを感じながら、そう決意を新たにする。
しかし、本当に彼女を案じるのであれば、そもそも行かせるべきではなかったのだ。
この後に起こる取り返しの付かない出来事によって、誠一はそう後悔することになる。
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「私、行きます!」
「僕も」
澪が勢いよく挙手し、続いて遥も面倒くさそうに手を挙げる。
誠一は口を引き結んだ。本当は二人には行ってほしくないが、母親が連れ去られている以上、引き留めることはできないそうにない。ならば、せめて自分が守らなければと手を挙げた。ソファに座る悠人も同じ気持ちなのか、複雑な表情を浮かべつつ同じように手を挙げた。
「おじさんはどうします?」
大地が楠長官に水を向けると、彼は眉を寄せたまま腰に手を当てて息をついた。
「私はここに残る。状況は逐次連絡してもらえるとありがたい」
「そんな余裕があればいいんですけどね」
大地は飄々とした声で茶化すようにそう答えたが、顔は笑っていなかった。すぐに呼びつけるような視線を皆に送ると、シャツの胸ポケットから携帯電話を取り出し、事務的な口調で通話しながら執務室を退出する。楠長官以外の全員がそのあとを追った。
白い無機質な廊下を、不揃いな靴音を響かせながら歩いて行く。
誠一は半歩前を歩いていた澪の手を取り、元気づけるように、安心させるように、しっかりと柔らかく握り締めた。彼女は少し驚いたように振り返ったが、その手が誠一だとわかると、にっこりと安堵まじりの笑みを浮かべる。
澪だけは、絶対に——。
これから具体的に何をするのかもよくわかっておらず、誠一に何が出来るのかも定かでないが、いざというときは身を挺してでも彼女を守りたい。自分はそのために付いてきたのだ。繋いだ手の柔らかな温もりを感じながら、そう決意を新たにする。
しかし、本当に彼女を案じるのであれば、そもそも行かせるべきではなかったのだ。
その判断が下せなかったのは認識の甘さゆえに他ならない。もっと慎重に考えるべきだった。この後に起こる取り返しの付かない出来事によって、誠一はそう後悔することになる。
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