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「東京ラビリンス」第43話・束の間の日常

「東京ラビリンス」第43話・束の間の日常
現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第43話・束の間の日常

「男性との外泊など認められるとお思いですか?」
澪の外泊許可を求める誠一に、
保護者代わりの悠人は不快感を示す。
当然だろう。
澪がまだ高校生だというのもあるが、
何より、彼自身が澪に想いを寄せているのだから。

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「君は……非常識にも程があるだろう」
「承知の上でお願いしています」
 誠一は、とある頼みごとをするために悠人の部屋を訪れていた。
 ノートパソコンに向かって作業をしていた彼は、誠一をベッドに腰掛けさせ、自身は椅子をベッドの方にまわして向かい合った。最初は穏やかに微笑さえ浮かべながら応対していたが、誠一が頼みごとを口にした途端、その表情を大きく曇らせて不快感を露わにしたのだ。それでも怯まない誠一を見ると、ますます目つきを険しくして言い返す。
「こんなときに楽しむなと言っているのではありません。むしろ、澪たちには普段どおりの生活をしてほしいと思っています。南野さんもたまには息抜きをすればよいでしょう。ただ、澪は高校生です。男性との外泊など認められるとお思いですか?」
 その声に非難めいた色がまじった。当然の反応だろう。もちろん誠一としても想定内である。
「通常ならそうでしょうが……」
「今さら、と言いたいのですか?」
 理論武装を展開しようとした矢先に挫かれてしまい、言葉に詰まる。自分の考えはすべて見透かされているのだろうか。胸中に湧き上がったその不安を証明するかのごとく、悠人は射るような鋭い眼差しを向けて冷ややかに続ける。
「確かに、夜中に澪をあなたのところまで送り届けたことはありました。ですが、あのときは澪の気持ちを慮ってそうせざるを得ないと判断したからで、今とは明らかに状況が違います」
「それは、そうですが……」
 誠一はどう反論しようかと頭を巡らせる。追いつめる言葉なら思いつかないでもなかったが、下手を言って取り返しのつかなくなる事態は避けたい。悠人との関係を悪くするわけにはいかないのだ。やはりここは素直に引き下がった方が賢明かもしれない。そんなことを考えていると——。
「いいでしょう」
「えっ?」
 発言の意味を測りかねて、誠一はとっさに聞き返した。
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