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「東京ラビリンス」第38話・拒絶よりも残酷な

「東京ラビリンス」第38話・拒絶よりも残酷な
現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第38話・拒絶よりも残酷な

「僕はさ、美咲とおまえになら殺されても構わないと思っている。絞めたいのなら絞めろよ」
彼が話すたび、首にかけた手のひらに振動を感じ、体の芯がゾクリとした。
たったこれだけのことで——。
悠人はきつく目をつむってググッと力を込めていく。

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「……その質問には、あのとき答えただろう」
「できれば言葉で聞かせてほしいね、その口から」
 大地は目を細めて蠱惑的な視線を送ると、固く引き結ばれた唇にすっと手を伸ばす。男性にしては細くきれいな指先が、微かに触れたその瞬間——悠人の中で何かがぷつりと切れた。その手を叩きつけるように薙ぎ払うと同時に、上体をベッドに押し倒し、膝立ちで跨がりながら首に両手を掛ける。真上から見下ろした彼は、鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くしていたが、ややあって状況を把握すると愉快そうにふっと笑う。
「僕はさ、美咲とおまえになら殺されても構わないと思っている。絞めたいのなら絞めろよ」
 彼が話すたび手のひらに振動を感じ、体の芯がゾクリとした。
 たったこれだけのことで——。
「どうした?」
 そっと穏やかに問いかける唇に、薄い微笑が浮かんだ。
 悠人はきつく目をつむってググッと両手に力を込めていく。そこから彼の体温と脈動が伝わる。彼の体が柔らかくないベッドに沈むと、潰れた呻き声が上がり、苦しげにもがき始めたのがわかった。彷徨っていた彼の手がジャケットの袖口を掴む。やがて、その手がだらりと落ちた気配に気付くと、ハッと大きく目を見開いて力を緩めた。
「大地!」
 ぐったりとした彼を見て体中から血の気が引いた。しかし、すぐに彼はゲホッと咳き込んで身を捩った。うっすらと痕の付いた首に手を当て、背中を大きく揺らしながら、ぜいぜいと荒い息遣いで喘いでいる。
「おまえは中途半端なんだよ」
 吐き捨てるようにそう言うと、またがっていた悠人を押しのけてベッドから体を起こした。大きく息をつき無造作に前髪を掻き上げる。そして、酷薄な眼差しを悠人に向けて口を開いた。
「いろんなものを引きずっているせいで、本当の望みは何なのか、自分でもわからなくなってるんだろう。僕は決して見失わない。そして、いくら非難されようとも、誰から恨みを買おうとも、本当に欲しいものは必ずこの手で掴み取る」
 格好をつけているわけでも大袈裟に言っているわけでもない。実際に大地はそういう生き方をしてきたのだ。他人の事情を顧みず強引に突き進んでいく彼に、許し難い腹立たしさを感じながら、同時に焦がれるように強く惹かれてもいた。けれど——。
「僕は、おまえのようにはならない」
「覚悟もないくせに、物欲しそうな顔ばかりしやがって」
 大地は唾棄するように言い放つ。
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