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「東京ラビリンス」第37話・責任の所在

「東京ラビリンス」第37話・責任の所在
現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第37話・責任の所在

「君たちが殺した人数に比べれば可愛いものだろう?」
すべては小笠原のフェリー事故から始まった。
あの惨劇の生き残りである大地と美咲には、
研究を行わねばならない彼らなりの事情があったのだ。

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「自分は可哀想な被害者です、って顔だな」
 大地にせせら笑いながらそう言われ、武蔵の瞳にカッと激情の炎が燃えさかった。ガシャガシャン、とパイプ椅子を蹴飛ばして机に飛び乗り、向かいに座る大地の胸ぐらを掴み上げる。
「貴様……」
 ギリギリと奥歯を軋ませ、唸るように喉の奥から声を絞り出す。借り物のカッターシャツがミチミチとちぎれそうな音を立て始めた。それでも武蔵の力は緩まない。皆、息を詰めて二人を見つめる。しかし、腰が少し浮き上がっているものの、大地はいまだ余裕の薄笑いを浮かべていた。
「先に仕掛けたのは君たちの方じゃないか」
「……えっ?」
 武蔵は訝しげに聞き返した。
 大地の目はますます挑発的になる。
「たった一日で、何の罪もない人間を643人も殺しただろう。生き残ったのは僕と美咲だけだ。あの事件さえなければ、僕たちもこんなことに手を染めずに済んだんだ。人生を狂わされたのはこっちの方さ」
「あ……あれは……」
 武蔵の狼狽ぶりは傍目にもわかるほどだった。大地の胸ぐらを掴む手も弱まる。
「知っていたから美咲を突き止められたんじゃないのか。小笠原フェリー事故の生き残りということで目をつけたんだろう? 被害者面して、自分たちの先制攻撃のことはずっとみんなに黙ってたんだな」
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