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「東京ラビリンス」第36話・遠い約束

「東京ラビリンス」第36話・遠い約束
現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第36話・遠い約束

「愛してる」
その伝言を聞き、悠人は弄んでいるだけだと怒りを露わにする。
しかし、そこに込められた本当の意味に気付くと、
遠い昔の約束を果たすべく、大地を警察から奪還すると言い出した。

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「南野さん」
 誠一はその声で現実に引き戻される。顔を上げると、真剣な眼差しで見つめる悠人がいた。
「メルローズが警察庁内のどこにいるか、探せませんか」
「探してはみますけど……自分にはほとんど何の権限もありませんし、協力を頼める仲間もいないので、発見の可能性は低いのではないかと思います。いまだに橘大地さんの拘留場所さえ把握できていませんし……あ、そういえば」
 瞬間、まわりの皆が一斉に振り向いた。誠一はビクリとして少し上体を引く。
「あっ、いえ、メルローズの話とは全然関係ないんですけど、大地さんから伝言を預かっていたことを思い出しまして……その、楠さんへの……」
「大地から、僕に?」
 悠人は見当がつかないとばかりに眉をひそめた。
 誠一は小さく頷いたあと、あたりに目を配りつつ声を低める。
「でも、ここではちょっと……」
「構わないから言ってくれ」
 強い口調で促されるが、それでも踏ん切りは付かなかった。どういう意味があるのかは知らないが、あんなことを本当にみんなの前で言ってもいいのだろうか。後悔するのではないだろうか——そんな心配をよそに、悠人はますます苛立ちを募らせて声を荒げる。
「変にコソコソすると、またみんな疑心暗鬼になるだろう」
「それは、そうかもしれませんが……」
「大地に言われて困るようなことは何もない」
 躊躇う理由をわかっているとは思えないが、ここまで言われては仕方がない。意を決して顔を上げると、集まっていた皆の視線を敢えて無視し、彼の目をじっと見つめて言葉を落とす。
「愛してるよ、って……」
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