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「東京ラビリンス」第35話・疑心暗鬼

「東京ラビリンス」第35話・疑心暗鬼
現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第35話・疑心暗鬼

匿っていた少女が呆気なく攫われた。
相手の手際の良さを考えると、
この中の誰かが裏切っているとしか思えない。
互いが猜疑心をぶつけあう中、
澪だけが「やめてよ!!」と声を上げた。

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「だが、こいつらはなぜメルローズの居場所を知っていた? この屋敷にいることは見当がついていたかもしれないが、何十も部屋があるのに、迷った形跡もなく短時間ですんなりメルローズを拉致している。俺でさえさっき初めて聞いたんだぞ。それも、篤史の部屋の隣ってだけで、実際どこなのかは知らなかった」
 それを聞いて、皆、難しい顔で考え込んだ。
 楠長官たちが剛三の書斎に通されたあと、悠人と誠一が澪の部屋に行き、残った剛三がひとりで応対して、しばらく後に悠人が戻り、楠長官たちが書斎をあとにする——というのがおおよその流れである。この間にどうやってメルローズの居場所を掴んだというのだろうか。剛三がひとりで応対しているときに口を滑らせたのでは、と疑いたくなるが、百戦錬磨の彼がそのような軽率な失敗はしないだろう。万が一、失敗していたとすれば、気付いた時点で自ら告白するはずである。
 武蔵は刺すような眼差しを誠一に向けた。
「裏切り者がいるとしか思えない」
 あたりの空気が一瞬にして凍りつく。はっきりと名前は口にしていないが、誠一を疑っていることは明らかだ。狼狽える彼を庇うように、澪はその前に飛び出し、キッと眉を吊り上げて立ちはだかった。
「誠一は絶対に裏切ったりしない!」
「こいつ、公安の人間だろう」
「好きでそうなったんじゃないよ!」
「そんなことはわかっている」
 武蔵は目つきを鋭くし、再び、澪から誠一へ視線を移した。
「澪を救出する手がかりを掴むために、意に沿わない人事を受け入れ、あえて公安に留まったんだったな。だが、澪は無事に戻ってきた。目的を果たした今、もう上司の命令を拒む理由はないだろう。なあ、真面目そうな南野誠一さん?」
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