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「東京ラビリンス」第33話・切れない縁

「東京ラビリンス」第33話・切れない縁
現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第33話・切れない縁

澪は武蔵に気持ちを残しつつも、体の関係に終止符を打とうとする。
そのとき、祖父に呼び出されて思いもしなかった真実を聞かされた。
絵空事の家族、そして、武蔵が私の本当の——。

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「さっそく朝帰りかよ」
「いけない?」
 澪は反抗的に言い返す。武蔵が動けるほど元気になったのは良かったが、誠一の家に行ったことを咎められる謂われはない。保護者の許可はもらってあるのだ。口をとがらせて男物の傘を隅に立てかけていると、武蔵はさらに嫌味っぽく追い打ちをかける。
「随分薄情だよな。重傷の俺をほっぽって彼氏のところにしけ込むとは」
 そのことに関しては反論のしようがなかった。だからといって、こんな言われ方をされては詫びる気になれない。口を固く引き結び、下を向いたまま彼の前を通り過ぎようとする。が、不意にガシッと手を掴んで引き止められた。振り向くと、鮮やかな青の瞳が射抜くように見つめていた。
「続き、帰ってからって約束したよな」
 熱を帯びた深みのある低音に、思わず胸が震える。澪は慌てて目を逸らせた。
「ごめん……私、やっぱり誠一が好きだから」
「俺のことは好きじゃないっていうのかよ」
「誠一を裏切らないって、そう決めたから」
「そんな答えじゃ、納得いかないな」
 武蔵は握りしめた澪の手を放そうとしなかった。逆に、気持ちを伝えるようにじっと力を込めてくる。何とかしてその温もりから逃れたかったが、だからといって、力任せに振り払うようなことはしたくない。
「お願い、わかって……武蔵のこと嫌いになりたくないよ……」
 今にも泣き出しそうに懇願する。
 そのとき——。
「あんまり澪をいじめないでくれる?」
 冷ややかな声を響かせた遥が、牽制するように睨みをきかせてやってきた。
 武蔵はムッと眉を寄せ、悪びれもせず堂々と釈明する。
「いじめてるわけじゃない。自分の気持ちに素直になれって言ってるだけだ」
 ドクリ、と澪の心臓は大きく蠢いた。
 彼に対する気持ちはすっかり見透かされている。だが、素直になれと言われても受け入れられない。もう二度と誠一を裏切るようなことはしないと決めたのだ。だから、武蔵に何を言われたとしても、自分の気持ちがどうであっても——。
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