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「東京ラビリンス」第27話・二人の誓約

「東京ラビリンス」第27話・二人の誓約
現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第27話・二人の誓約

「俺に抱かれるか?」
武蔵が突きつけた条件は、澪には理解しがたいものだった。
だが、そうすることでしか彼を納得させられそうもない。
澪は涙を滲ませながら、声を震わせながら、覚悟を決める。

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「俺に抱かれるか?」
「……えっ?」
 きょとんとする澪の左頬に、包み込むように大きな手が添えられ、グイッと端整な顔が近づけられる。息が触れ合うほどの距離にたじろぐが、見えない力で拘束されたかのように動けない。
「俺のためにそこまで出来るのなら信用してやるよ」
「えっと……どうして、そうなるの……?」
「そうすれば俺が納得できる」
 彼の理屈は正直よくわからなかったが、その眼差しは真剣そのもので、冗談ではないのだと思い知らされる。少なくとも彼に納得してもらうには、信じてもらうには、言うとおりにするしかないのだろう。恋人でもない彼に抱かれるしか——澪の目にうっすらと涙が滲んだ。
「こんなの……こんなのって、間違ってるよ……」
「所詮、おまえの覚悟は口先だけってことだな」
 武蔵は冷ややかにそう言い捨てると、すっと立ち上がり、躊躇いもせず背を向けて去っていく。
「待って!」
 よく通る声が部屋に響いた。
 武蔵は足を止め、スローモーションのように振り返る。その鉄仮面のような顔からは、感情を窺うことができない。気色ばんでいるようにも、呆れているようにも、興味をなくしているようにも見える。澪の心臓は、壊れてしまいそうなくらいに早鐘を打っていた。
「いいよ、その条件で」
 声は知らず知らず震えていた。それでも、潤んだ瞳のまま強気に見上げて言う。
「だから武蔵も約束して。必ず、みんなと協力するって」
「……約束する。俺も決しておまえを裏切ったりしない」
 武蔵は真摯にそう答えると、再び澪のもとへ戻ってきた。しゃがんで瞳の奥を探るように見つめたあと、澪の体をそっと仰向けに倒し、眉ひとつ動かすことなくそこに跨がる。そして、手錠で繋がれた両手を頭上に押しやりつつ、白いTシャツをまくり上げると、露わになった膨らみの片方を大きな手で覆った。
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