現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第24話・覚悟の行方
誠一は、誘拐の裏にある真実を悠人に聞かされる。
刑事として、恋人として、澪に犯罪を強要した彼らに
反発を覚えつつも、澪救出のために協力を約束する。
しかし、捜査一課で待ち受けていたことは——。
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「大丈夫ですか、南野さん」
「…………いや、はい……」
吐き気がこみ上げるくらいの酷い目眩、頭の中をかき混ぜられるような感覚。雑多な感情の渦に飲み込まれ、自分の気持ちがわからなくなっていた。それでも、必死に整理をつけようとする。
警察が怪盗ファントムを黙認していたことについては、やはりそれなりに衝撃を受けたし怒りも感じる。しかし、警察を汚れなきものと信じるほどの純粋さは持ち合わせておらず、特に公安絡みということであれば、善悪は別にして十分にありうる話だろうと腑には落ちた。
それよりも、問題は澪の方である。
澪と遥が怪盗ファントムをやっていたのは、家族である祖父に懇願されてのことだ。つまり「家の事情」である。遥はどうだかわからないが、澪の方は間違いなく悩んでいた。そのうえ、研究所で行われていた残酷な事実を突きつけられ、なおかつそれを自らの手で曝くなど、母親を尊敬していた彼女にはつらすぎる現実だろう。挙げ句、正体不明の危険な男に誘拐され、さらに事故に遭ったかもしれないなんて——。
「何か、手がかりは……」
「いま探しているところです。我々は、澪の生存を信じています」
悠人は寸分の迷いも見せずに断言した。もちろん誠一も信じたいとは思っているのだが、あまりにも悪い状況が重なりすぎて、どうしても暗澹とした気持ちにならざるを得ない。悠人から聞いた話だけでも十分に悪夢のようだが、もうひとつ、彼らは知らないであろう絶望的な情報があるのだ。
「もしかしたら、澪を攫った男は指名手配犯かもしれません」
そのことを告げると、正面の悠人と遥は僅かに目を大きくした。
「それは、どういうことでしょうか」
「私が刑事になって間もないころですから……今から約5年ほど前のことになりますが、指名手配犯としてあの男の写真がまわってきました。写真の方は金髪碧眼だったのですが、顔は同じですし、同一人物の変装で間違いないと思います。ただ、直後に指名手配そのものが撤回され、記録からも跡形なく抹消されたようです。先輩は、公安に持って行かれたんだろうと言っていました」
話を聞くにつれ、悠人の表情は険しさを増していった。
「彼の容疑は?」
「……手配書には、殺人と」
口にすることであらためてその深刻さを思い知った。誠一の指先は冷たくなっていく。悠人と遥の顔からは血の気が失せているように見えた。次第にうつむきぎみになる三人に、息の詰まるような重たい空気がのしかかった。
悠人は顔を上げると、切迫した眼差しで訴える。
「南野さん、どうか澪を救うため我々に力をお貸しください。そのためにすべてをお話ししました……犯罪者に協力できないとおっしゃるなら、諦めるより他に仕方ありませんが」
「いえ、手伝わせてください」
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http://celest.serio.jp/celest/novel_tokyo.html
第24話・覚悟の行方
誠一は、誘拐の裏にある真実を悠人に聞かされる。
刑事として、恋人として、澪に犯罪を強要した彼らに
反発を覚えつつも、澪救出のために協力を約束する。
しかし、捜査一課で待ち受けていたことは——。
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「大丈夫ですか、南野さん」
「…………いや、はい……」
吐き気がこみ上げるくらいの酷い目眩、頭の中をかき混ぜられるような感覚。雑多な感情の渦に飲み込まれ、自分の気持ちがわからなくなっていた。それでも、必死に整理をつけようとする。
警察が怪盗ファントムを黙認していたことについては、やはりそれなりに衝撃を受けたし怒りも感じる。しかし、警察を汚れなきものと信じるほどの純粋さは持ち合わせておらず、特に公安絡みということであれば、善悪は別にして十分にありうる話だろうと腑には落ちた。
それよりも、問題は澪の方である。
澪と遥が怪盗ファントムをやっていたのは、家族である祖父に懇願されてのことだ。つまり「家の事情」である。遥はどうだかわからないが、澪の方は間違いなく悩んでいた。そのうえ、研究所で行われていた残酷な事実を突きつけられ、なおかつそれを自らの手で曝くなど、母親を尊敬していた彼女にはつらすぎる現実だろう。挙げ句、正体不明の危険な男に誘拐され、さらに事故に遭ったかもしれないなんて——。
「何か、手がかりは……」
「いま探しているところです。我々は、澪の生存を信じています」
悠人は寸分の迷いも見せずに断言した。もちろん誠一も信じたいとは思っているのだが、あまりにも悪い状況が重なりすぎて、どうしても暗澹とした気持ちにならざるを得ない。悠人から聞いた話だけでも十分に悪夢のようだが、もうひとつ、彼らは知らないであろう絶望的な情報があるのだ。
「もしかしたら、澪を攫った男は指名手配犯かもしれません」
そのことを告げると、正面の悠人と遥は僅かに目を大きくした。
「それは、どういうことでしょうか」
「私が刑事になって間もないころですから……今から約5年ほど前のことになりますが、指名手配犯としてあの男の写真がまわってきました。写真の方は金髪碧眼だったのですが、顔は同じですし、同一人物の変装で間違いないと思います。ただ、直後に指名手配そのものが撤回され、記録からも跡形なく抹消されたようです。先輩は、公安に持って行かれたんだろうと言っていました」
話を聞くにつれ、悠人の表情は険しさを増していった。
「彼の容疑は?」
「……手配書には、殺人と」
口にすることであらためてその深刻さを思い知った。誠一の指先は冷たくなっていく。悠人と遥の顔からは血の気が失せているように見えた。次第にうつむきぎみになる三人に、息の詰まるような重たい空気がのしかかった。
悠人は顔を上げると、切迫した眼差しで訴える。
「南野さん、どうか澪を救うため我々に力をお貸しください。そのためにすべてをお話ししました……犯罪者に協力できないとおっしゃるなら、諦めるより他に仕方ありませんが」
「いえ、手伝わせてください」
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