現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第23話・代償
「澪ちゃんのことが好きなんでしょう?」
澪を救出するためなら、なりふり構っていられない。
悠人は会いたくもないかつての恋人に協力を仰いだ。
彼女は快く引き受けつつも、代償と言わんばかりに
容赦ない質問を浴びせていく。悠人の答えは——。
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「ねえ、悠人さん」
由衣はスケッチブックに鉛筆を走らせながら、呼びかける。
「悠人さんは、澪ちゃんのことが好きなんでしょう?」
不意に図星を指され、悠人は外に目を向けたまま小さく息を呑んだ。彼女の真意を測りかねているのだろう。窓ガラスに置いた指先に力をこめ、少しだけ顎を引いて表情を引き締めた。
それでも由衣は躊躇なく踏み込んでいく。
「だから今まで独身だったのね」
「いや……それ、は……」
「私、洞察力には自信があるのよ」
その一言で、悠人は口をつぐんだ。
由衣は手を動かしながら一方的に話を続ける。
「澪ちゃんに向けたあなたの眼差し、そして、今日のあなたの態度で確信したわ。悠人さんって意外と気持ちを隠すのが下手なんだもの。初めて会ったあのときから……私と付き合うのが本意でなかったことも、私との会話を面倒がっていたことも、最後まで好きになってくれなかったことも、すべて承知していたのよ」
その口調はとても穏やかだった。責めているようには聞こえないが、本音はわからず、遥は固唾を呑んでじっと彼女を見つめる。悠人も同様の心境なのだろう。いや、当事者であるがゆえ、より大きな不安を感じているはずだ。後ろ姿が心なしか硬直しているように見えた。
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