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「遠くの光に踵を上げて」番外編・明日に咲く花 - 終幕

「遠くの光に踵を上げて」番外編・明日に咲く花 - 終幕
ファンタジー小説「遠くの光に踵を上げて」
番外編・明日に咲く花 - 終幕

「……私たちって、そういう関係?」
「これからそうなるんじゃ、駄目か?」
彼の言うことはあまりにも飛躍していた。
確か、自分は終幕を下ろそうとしていたはずなのに——。

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 時折吹く風が冷たい。
 空はすっかり濃紺色に塗り替えられていた。星もあちらこちらで瞬き始めている。
 二人は、植え込みまわりの煉瓦に、並んで座っていた。
 ユールベルが泣き崩れたあと、ジョシュは何も言わずに、ずっと背中に手を置いて寄り添ってくれていた。ひとしきり泣き疲れるまで泣いて、少し落ち着いてくると、すぐ近くの植え込みの方へそっと促された。それから1時間ほど、ただ黙って膝を抱えるだけである。彼がどう思っているのか不安だったが、それを知るのが怖くて、尋ねることも顔を向けることもできない。
「なあ……」
 不意に落とされた声に、ユールベルの体がビクリと震えた。それでも彼は言葉を繋げる。
「おまえ、あの家を出てさ、俺の家に来ないか?」
「……えっ?」
 ユールベルは大きく目を見開いて振り向いた。
「おまえの家と比べるとだいぶ狭いけど……いや、もう少し広いところに引っ越してもいい。今までと同等というわけにはいかないが、なるべく不自由させないようにするから」
「……私たちって、そういう関係?」
「これからそうなるんじゃ、駄目か?」
 ジョシュは許しを請うように尋ね返す。
 ユールベルは眉を寄せてうつむいた。頭が混乱する。彼の言うことがあまりにも飛躍しすぎて、まともに受け止めることができなかった。家を出るように勧める理由はわかっているつもりだ。だからといって、どうして彼と一緒に住むことになるのかは理解できない。確か、自分は終幕を下ろそうとしていたはずなのに——。
「軽薄な気持ちじゃない。俺は、真剣におまえと……」
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