現代ファンタジー小説「東京ラビリンス」
第13話・行き詰まる二人
「俺たち、結婚できるのかな」
誠一は不安に煽られてぽつりと呟く。
まだ17歳の彼女にこの話は早いだろうが、
このままでは、彼女の保護者代理で
師匠でもある楠悠人に——。
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「楠さん?」
「うん……」
澪はマグカップに手を伸ばしながら、小さな声を落とす。
「一緒に住んでるのか?」
「そうだけど……」
「大丈夫なのか?」
彼女に気のある男が同じ屋根の下で暮らしているとなれば、心配するのは当然のことだろう。澪には武術の心得があり、並みの男であればねじ伏せられるが、悪いことに相手はその武術の師匠なのだ。もし彼に変な気でも起こされたら、逃れるのは難しいのではないかと思う。しかし、澪は心底意外だというように、目をぱちくりさせながら、慌てて両手をふるふると振った。
「一緒の家だけど部屋は別々だし、全然大丈夫だから! 小さいときからずっと一緒に住んでるんだもん。今さらそんな……ていうか、無理やりどうこうする人じゃないよ……」
「ならいいんだけど」
今のところ、危険な事態には至っていないようだが、今後もそうだという保証はどこにもない。彼女が彼のすべてを理解しているとは限らないのだ。だが、それを言ったところで、聞き入れてはもらえない気がした。もう一度、紅茶を口に運んで、遠くを見やりながら小さく息をつく。
「俺たち、結婚できるのかな」
ぽつりとそうつぶやくと、隣で紅茶を飲みかけていた澪は、大きく目を見開いてゲホゲホとむせた。気管に入ったらしく、肩を揺らしながら涙目で咳き込み続けている。誠一は慌ててその背中をさすり、覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
明らかに動揺した声。彼女はおずおずと上目遣いで誠一を窺う。
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http://celest.serio.jp/celest/novel_tokyo.html
第13話・行き詰まる二人
「俺たち、結婚できるのかな」
誠一は不安に煽られてぽつりと呟く。
まだ17歳の彼女にこの話は早いだろうが、
このままでは、彼女の保護者代理で
師匠でもある楠悠人に——。
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「楠さん?」
「うん……」
澪はマグカップに手を伸ばしながら、小さな声を落とす。
「一緒に住んでるのか?」
「そうだけど……」
「大丈夫なのか?」
彼女に気のある男が同じ屋根の下で暮らしているとなれば、心配するのは当然のことだろう。澪には武術の心得があり、並みの男であればねじ伏せられるが、悪いことに相手はその武術の師匠なのだ。もし彼に変な気でも起こされたら、逃れるのは難しいのではないかと思う。しかし、澪は心底意外だというように、目をぱちくりさせながら、慌てて両手をふるふると振った。
「一緒の家だけど部屋は別々だし、全然大丈夫だから! 小さいときからずっと一緒に住んでるんだもん。今さらそんな……ていうか、無理やりどうこうする人じゃないよ……」
「ならいいんだけど」
今のところ、危険な事態には至っていないようだが、今後もそうだという保証はどこにもない。彼女が彼のすべてを理解しているとは限らないのだ。だが、それを言ったところで、聞き入れてはもらえない気がした。もう一度、紅茶を口に運んで、遠くを見やりながら小さく息をつく。
「俺たち、結婚できるのかな」
ぽつりとそうつぶやくと、隣で紅茶を飲みかけていた澪は、大きく目を見開いてゲホゲホとむせた。気管に入ったらしく、肩を揺らしながら涙目で咳き込み続けている。誠一は慌ててその背中をさすり、覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
明らかに動揺した声。彼女はおずおずと上目遣いで誠一を窺う。
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