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「遠くの光に踵を上げて」番外編・明日に咲く花 - 約束

「遠くの光に踵を上げて」番外編・明日に咲く花 - 約束
ファンタジー小説「遠くの光に踵を上げて」
番外編・明日に咲く花 - 約束

「ごめんなさい、その日も予定があるの……言い訳じゃなくて……」
彼女がサイラスの誘いを断ったことには安堵したものの、
それは自分以外の誰かとすでに約束しているということで。
もちろん、誰と休日を過ごそうと彼女の自由なのだが——。

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「じゃあさ、今度の休日、もし良かったらどこか遊びに行かない?」
「えっ……」
 気楽なサイラスの言葉と、戸惑いを隠せないユールベルの声。そのとき二人がどんな表情をしているのか、気になって仕方なかったが、柱の陰から顔を出すなどという危険なことはできない。ただフォークを握りしめたまま、奥歯を食いしばり、じっとどちらかの次の言葉を待つ。
「あ、別に無理しなくていいんだけど」
「そうじゃなくて、予定があるから……」
「そっか」
 彼女とは次の休日も会う約束をしている。予定とはおそらくそれのことだろう。サイラスの誘いより自分との約束を優先してくれたことに、ジョシュはほっと胸を撫で下ろした。が、それも一瞬のことである。
「じゃあ、その次の休日はどうかな?」
「ごめんなさい、その日も予定があるの……言い訳じゃなくて……」
 ユールベルは申し訳なさそうに言う。
 ジョシュはフォークの先を見つめて眉をひそめた。自分がユールベルと約束をしたのは次の休日だけである。いつも帰り際に次の約束を取り付けているのだが、その先の約束まではしたことがない。だから、彼女のその予定は、自分以外の誰かとの約束ということになる。もちろん、誰と休日を過ごしても彼女の自由なのだが——。
「そっか、じゃあ暇なときがあったら誘ってくれる?」
「ええ……」
 サイラスの声は明るいままだった。
 ジョシュは口を引き結んで、フォークをサラダに突き刺した。二人が楽しそうにとりとめのない話を続けるのを聞きながら、身を隠したまま、音を立てないようひっそりとサラダを口に運んだ。
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