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ファンタジー小説「遠くの光に踵を上げて」番外編・明日に咲く花 - 攻防

ファンタジー小説「遠くの光に踵を上げて」番外編・明日に咲く花 - 攻防
ファンタジー小説「遠くの光に踵を上げて」
番外編・明日に咲く花 - 攻防

レオナルドは毎日のように付き合えと偉そうに迫り続ける。
彼のことが嫌いなわけではない。
だが、彼とは付き合うわけにはいかない理由がある——。

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「随分と卑怯な手を使ってくれたな」
「レオナルド……っ!」
 木の陰からぬっと姿を現したレオナルドに驚き、ターニャは息を呑んで後ずさった。すぐさま彼はその間を詰めると、少し怒ったような顔で、逃げるように視線を逸らしたターニャをじっと見下ろす。
「二度も同じ手が通用すると思ったのか」
「…………そうよ」
 ターニャはぽつりと言葉を落とすと、キッと強い眼差しで顔を上げる。
「私はこういう愚かで卑怯で馬鹿な人間なの。あなたの思っているような人間じゃないの。落胆した? 軽蔑した? 嫌いになればいいじゃない。早く愛想つかしなさいよ!」
 感情のまま早口で捲し立てたが、レオナルドはまともに取り合うことなく、呆れたように小さく溜息をついた。
「おまえ、本当に意地っ張りだな」
「あなたこそどこまでしつこいのよ!」
「おまえが素直にならないからだ」
「素直に嫌だって言ってるでしょう?」
 いつもと同じ言い合いの繰り返し。どうしてわかってくれないのだろうと苛立ちが募る。それはレオナルドも同じなのかもしれない。一瞬、苦々しく顔をしかめたが、それでもすぐに平静を装うと、じっとターニャを見つめて落ち着いた口調で続ける。
「おまえのことだ。どうせユールベルのことを気にしているんだろう。だけどユールベルとはとっくに終わってる。おまえが遠慮することなんて何もない」
「お、終わってるからいいってもんじゃないわよ!」
 ターニャは必死に言い返した。
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